避難準備
俺と魔獣に襲われていた女の子…リリアーナが駆け足で集落に到着する。
そこでは集落を覆うように地面から生えてきた木が魔物を串刺しにしており、俺はアリスの仕業とわかった。
ただ、それを知らないリリアーナは天変地異でも起きたと思ったのか、現在進行形で鋭利な木が地面から生え続けている所を突っ切って集落の方に走り出してしまう。
「ちょちょちょ、何やってるんだ…死ぬぞ?」
俺は慌ててリリアーナの首根っこを掴み無理やり止める。
「な…何するんですか!早くいかないと集落のみんなが……」
「お…落ち着けって。これ、俺の仲間の魔法だから……多分。」
「た…多々…?」
俺が首根っこを掴んだせいで背中から倒れたような姿勢になっているリリアーナが何を言っているのかわからないような顔をする。
「まあとりあえず、俺たちじゃこの中に入れないから…」
『おーい、アリス〜〜。この魔物トラップのせいでこの中に入れないんだけど!?』
俺は大きく息を吸うと、アリスに聞こえるように叫ぶ。
「ふぅ…まあ、これで迎えに来て来るだろ。」
そうして待つこと数秒、アリスが俺たちのところまで飛んできて一時的に魔物トラップを中止し、道を作ったことで俺たちは無事に集落の中に入った。
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集落に入った俺とリリアーナはアリスに付いて行くように歩く。
あたりでは住人がテントみたいな家から家具や食料を外に出している。
…なんか、引っ越しの準備をしているみたいだな。
「あっ……おい、リリアーナ…お前今までどこに行ってたんだ?」
「お…お兄ちゃん。」
目の前で慌ただしく走っていたオオカミ耳の獣人の男はリリアーナと目が合うと、少し怒気を含んだ声で話しかけてきた。
…にしても、リリアーナは耳がエルフっぽいのに獣人と兄弟?…すこし家庭環境があれなのか…な?
「えーと、おじ…じゃなくて長老はあそこのでかい家にいる。金髪のねーちゃんは悪いがそこに行ってくれ…あと、こいつはちょっともらっていく。」
「OK…わかった。」
アリスの返事を聞くと、獣人の男はリリアーナの耳をつかみ歩き始める。
「あ…いたいたい!耳を引っ張らないで!」
「うるせえ!あれだけ一人で行動するなって言ったのに無視しやがって、説教だ。」
リリアーナとその兄獣人はしばらく歩くと、自分たちの家っぽいテントに入っていった。
「元気だねー。」
「…そうか?……ていうかアリスちょと聞いていい?今まで流れで付いて来てたけどここどこ?」
「んー私もよくわからないけど、たぶん1万年前にワタシを信仰?してた人たちの子孫かな?」
「……お前、神様だったのか?」
「そんなわけはない。」
アリス全力の否定…神様扱いは嫌なのか。
「あーそうだ。この集落の人たちを世界樹の屋敷に避難させたいから〈転移門〉作ってくれる?」
「えっ、なんで?」
「ワタシの転移魔法じゃこの人数を移動させるのは厳しいからね。〈転移門〉のことを広げたくないのはわかるけど、ここにいたら危ないしお願いね。」
アリスはそれだけ言うと、さっきリリアーナの兄から言われていた大きめの家に入っていった。
「…はぁ…マジか。でもまあ、最悪アリスが作ったってことにすればいいか。」
俺は誰もこっちを見ていないことを確認すると、〈アイテムボックス〉からあらかじめ作っておいた木の門を取り出し、『メタスタシス』と唱え〈転移門〉を完成させる。
「そういえば、女神様が作ってくれた結界壊されてたけどルナとベリル、あと精霊コンビは大丈夫か?……一回戻るか。」
俺は〈転移門〉をくぐり、拠点に転移した。
作者 リリアーナは薄い緑髪のエルフ。
女神 兄は黒髪の狼獣人だけど母親は同じですね。
作者 別に複雑な家庭環境はないのであしからず。




