スタンピード
アリスが転移した先は集落のような場所だった。
テントみたいな家や畑、そして家畜らしき動物もいる…家畜いいなあ。
ただ、あたりはそんな悠長なことを言える状況ではない。
住人と思われる人たちと、数百…下手したら千単位の魔物が戦っているからだ。
しかも何人かは怪我をして立てない様子。
俺は助けに行こうと走りだすが、アリスの木が足首に巻き付き、盛大にこける。
「おい!何するんだよ。」
すると足首に巻き付いた木は俺を持ち上げ、いつぞやの逆バンジーのような形になる。
「君はこの先にいる女の子を助けに行って…ただ、戦おうとしないでね?君じゃ絶対に勝てないから。」
「いや、勝てないって…どうすればいいんだよ。」
「何かそこ敵がいるってわかるような合図をしてくれたらいいよ。
水たまりを踏ませたり、爆発でもなんでもいいからワタシに居場所を教えて。」
そうして、アリスは実からの返事も待たずに〈魔獣〉に追いかけられている少女…リリアーナのところへぶっ飛ばした。
「……さて、ワタシはこいつらを殲滅しましょう。」
そうしてアリスが指を向けると、そこにいる魔物は一人残らずに串刺しになっていった。
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アリスが転移してきた場所から集落の中で一番離れていた場所。
そこでは3つの頭を持つデカい狼…いわゆる『ケルベロス』とよぼよぼのおじいさんが歳には似つかない戦いを繰り広げていた。
「ふぉふぉふぉ…この年でまさか〈魔神〉と戦うとは……さすがにこれはこたえるのう。」
魔神…それは人類最大の敵とも言っていい相手。
魔物たちの王であり、スタンピードの主。
今まで何千何万の〈魔物・魔獣〉を引き連れて、いくつもの町や都市を飲み込んできた存在だ。
通常…これらのスタンピードは1級冒険者が集まり対処する。
つまり、ベリルクラスの人間が最低でも何十人集まらなければ対処できない…それくらいの大事件。
そんなスタンピードの主犯である魔神をたった一人で止めているこのおじいさんはかなり実力者だが、さすがにほかの魔物や魔獣には手が出せない。
魔神とおじいさんが戦っている周りではおじいさんの仲間が戦っていた。
ただ、世界樹の森は魔物が出ないという特性上…対魔物の実戦経験が足りず…正直、全滅も時間の問題だった。
…最強が現れなけらば…
「む?」
おじいちゃんが『ケルベロス』と戦っていると、急に下から木が生えてきて『ケルベロス』を飲み込む。
「うわ…この狼だけ無駄に硬いわね。」
おじいさんの前に立つように飛び降りてきたアリスがめんどくさそうな声色で言う。
すると、『ケルベロス』がアリスが魔法で作った木を壊しながら外に出てきた。
「まあ、だからなんだって話だけど…。」
「!お嬢ちゃん待て!」
アリスが『ケルベロス』の方に向かっていくのを見て、おじいちゃんは大声で止める……最悪の未来を想像して…。
ただ、アリスは止まらない。
『ケルベロス』は3つもある立派な牙を光らせながらアリスに向かっていく。
対するアリスは【素手】。
腰にある剣は抜かず、魔法で剣を作ることもしない。
……これで十分だから。
「は?」
アリスが握った拳は音速を超えて『ケルベロス』の首と体をつなげているところに炸裂する。
そして…『ケルベロス』は自慢の頭すべてが体から離され…絶命した。
「まあ、こんなもんか。」
「…………!お嬢ちゃんスタンピードはまだ終わってない。」
自分のこぶしを見つめながら少し寂しそうな顔をしているアリスの近くに、なん十体の『黒い狼』と『ワーウルフ』がリスポーンする。
スタンピードが起こった地は魔物が顕現しやすくなる。
それこそ魔物を倒したときに出る魔力から新しい魔物が生まれるくらいだ。
通常、この特性のせいでスタンピードは何週間…下手したら何か月も続くことがあるが、今回は相手が悪かった。
魔物たちは虚空から生まれ…地に落ちた時に突如、地面から出てきた木に貫かれて消える。
アリスはいわゆる〈リスポーンキル〉を実行したのだ。
「ん?何か言った?おじいちゃん。」
「……勇者……様?」
作者 突然だが魔物の基準!
『魔物』 一番下っ端…数が多い。3級冒険者なら問題なく倒せるレベル。
『魔獣』 魔物を率いる部隊長みたいなポジション。強さは個体差が広く、3級冒険者で倒せるやつもいれば、1級でも勝つのが難しい場合もある。
『魔神』 魔獣の中で過去に人類に大打撃を与えた存在、あるいは魔獣とは一線を隔する強さを持つもの。今まで人類が勝った時は1級冒険者が何十人集まって倒せた実例が3つと、特級冒険者が単独が4回。そもそも、絶対数が少ない関係上あまり討伐実績がない。強さは特級冒険者という人類の人外が出陣するレベル。
女神 冒険者の等級とか言われても強さの基準わからなくないですか?
作者 アリスは特級。
女神 それはわかるわよ。




