雪合戦でこんな目に遭う?
「それで?ここからどうやって勝ちに行くの?」
コーヒーの苦さで目が覚めたのか、『シャキッ』っとしたベリルがそんな妄言を言い出す。
「は?勝ちに行くって…誰に?」
「アリスよ、アリス…ルナとかスイみたいな範囲攻撃持ちに勝つのは難しいかもしれないけど、あの自称勇者程度ならどうにかなるかもしれないでしょ。」
「いや…無理だろ。」
お前は少し前に一瞬で木の触手に拘束されたのを忘れたのか?
しかもギリギリ視認できるかぐらいのスピードで雪玉をこっちに投げてきてたじゃねーか。
「というわけで作戦だけど、アリスを私の『エリア』に閉じ込める。
そして、あんたの〈アイテムボックス〉に私たちが使う雪玉を入れて、『エリア』の中に雪を入れないようにしよう…そうしたら一方的にボコボコにできる。」
「……それやっても物理で攻撃されるんじゃ?」
「雪合戦だし、雪玉以外の攻撃は反則だから多分そんなことしないわよ…多分。」
「いま多分って2回言ったよ…」
「よし実、アリスの下まで穴を掘るよ!」
俺の言葉をさえぎり、ベリルが手を出してスコップを要求してくる。
俺はスコップを出して渡すが…不安しかない。
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「よし…ここらへんまで来たら射程内かな。」
しばらくスコップで雪を掘り、球にして〈アイテムボックス〉にしまうということをしていると、アリスにだいぶ近づいたらしい。
ちなみに俺たちが移動している間、上ではずっと轟音が鳴っていたが、今は驚くほど静かだ。
「なあホントにやるのか?なんか静かだし、嫌な予感しかしないぞ?」
「大丈夫、行くよ。」
ベリルは帽子の下に着けていたバンダナを腕に巻いて呪文を唱える。
ていうか、バンダナを手に巻くのはルーティーンみたいなもんなんだな。
『魂源魔法 エリア2 彗星を追いかける破船〈コメット・レック〉』
俺たちから見た景色は一面雪景色から大海原に変わり、足場はボロッボロの船の上になった。
「?ここは?」
そして目の前には何が起こったかわからない様子のアリスが見える。
「よし!実早く雪をぶつけ『パリン!』」
ベリルが意気揚々とそんなことを言っていると、目の前でとんでもないことが起こる。
アリスが腰にある剣を抜き、海のほうに向けて振るとバカみたいな剣圧が発生し、無限に続くように見えた大海原の上に穴が開いたのだ。
そしてその穴からできたヒビはどんどん広がり、最後には『エリア』が崩壊してしまった。
そしてその影響かどうか知らないが、ベリルは魔力切れで雪の上に倒れる。
「『お騒がせコンビ』…みーつけた。」
「ちょ…まて…。」
ベリルの作戦が失敗した俺は降伏しようとしたが、その前にアリスの手から放たれた豪速球が俺の頭に直撃する。
『やっべー…なんか脳が震える……。』
アリスが投げた雪玉は中に氷が入っているわけじゃなく、かと言って強い力を込めて圧縮しているものではない……ただのシンプルな雪玉だ。
ただ、アリスが投げた雪玉のスピードが速すぎて、威力がとんでもなくなっただけ。
ちなみに、俺としてはそんなスピードで投げたのに雪玉が空中分解しなかったのが一番意味が分からなかった。
まあ、そんな球を頭に当てられた俺は軽い脳震盪を起こしたが、アリスに治癒魔法をかけてもらい大事には至らなかった。
……頭にぶち当てたのもアリス本人だけど。
作者 一つ補足……ベリルは『エリア』が崩壊…あるいは解除した時に魔力が全部なくなるぜ。
女神 強力な能力が故のデメリットですね。
作者 『エリア』は必ず何かしらのデメリットが生まれる能力だから覚えといてくれ。