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時生の秘密

コロル堂店主 時生の数奇な人生


「時生」


この名前は母が強い思いを込めてつけた名だ。

出産時、逆子で生まれた私は仮死状態だったそうだ。

泣くことも、目を開ける事もない私を見て

若い母は自分の命と引き替えてもいいから、

この子を助けて欲しいと天に願った。

願いは届き私は助かり、今こうして生きている。

ただし、普通の人生とは言えないだろう。


何故なら私の時は母が死んだ年齢と同じ年で

止まってしまったから。


初めは自分でも気づかなかった。

母は37歳で重い病にかかり、あっという間に天に昇ってしまった。

私が未だ二十歳前の学生だった時だ。

親戚とも縁が遠く、父も早くに失くしていた為、

一人っ子だった私は本当にひとりになってしまった。

親孝行など何一つできないまま、母を死なせてしまった事をひどく後悔し

日に日に募る孤独と悲しみと喪失感に耐え切れず、

ある日大量の薬を飲んだ。

救急搬送された病院のベッドの上で、朦朧としていた時

再び母が現れた。

その目は怒りと悲しみに溢れ、私を激しく責めているようだった。

ああ、母と一緒には行けないのだな、と悟った刹那目が覚めた。


大学を一年休学はしたが、何とか自力で卒業し人並みに就職もした。

そして30歳の時に幼馴染だった女性と偶然再会したのを切欠に結婚し

家庭を持つことができた。

私の孤独に終止符が打たれた。

と、思っていた・・・


42歳の厄年に同級会が開かれ

(厄落としを兼ねているらしい)多くの同級生が集まった。

お互いにオッサンになったとか、禿げたとか、

太ったとか誰かと思ったと言い合っている中で

私だけは、全員に「変わらないなあ!」と驚かれた。

その時はそうなのかな、くらいにしか思わなかったが、

次の厄年の集まり、つまり60歳になった時には、

流石に気味悪がられた。


自分でも、気づいていた。


私の時は母が亡くなったのと同じ年齢 37歳で止まったままなのだ。

母が願い救われた命を自分で絶とうとした罰なのか、

母の怒りなのか。


そうしてまた私の孤独は続いた。

私の時は止まったままなのに、

私以外の人々の時間は残酷な程確実に過ぎていく。

妻は年を取っていき、78歳の時に

私を置き去りにして旅立った。

肉体は若いままだったが、もはや仕事を続ける気力は無かった。


これからどう生きていけば良いのか、

あと何年生きねばならないのか

何も分からない。

誰にも理解しては貰えないだろうし、答えを探す術もない。


あてもない私は書物に頼った。

過去に誰かが同じ経験をしているのではないかと、

ヒントだけでも欲しかったのだ。

本屋巡りが日課になっていき、ある日一軒の古書店に出会った。

それが「コロル堂」だ。


入口のドアを静かに開けると、脳の奥をくすぐるような

懐かしい匂いがした。

狭苦しい店内だったが、ジャンルごとに古書が綺麗に並べられ

店主の几帳面さが伺える。

ゆっくりと書棚を眺めながら、気になった本を4冊選んだ。

レジは道路側のガラス戸を背にした、少し高い位置にあり

そこには私より少し若いと思われる女性が座っている。

丸顔のふっくらした、髪も肌も綺麗な笑顔の優しい人だった。

こんな女の人が古書店を?と思ったが、店番のバイトなのかもしれない。

あるいは店主の娘さんか。


それから度々コロル堂に通うようになり

いつの間にか私がレジ台に座る事になった。


二度目の妻の名前は凛々子。

父親の後を継いでこの店の店主をしていた。

コロル堂の古書・骨董品はどれもなかなか趣味が良く

もし父親が生きていたら

きっと楽しい話ができただろうなと時々考えたりする。

ただ、骨董品に関してはどういう経緯で仕入れられたものかは

妻も分からない物が多く、出所や謂れが曖昧な物ばかりだった。

舞い戻って来た龍の玉

時生の運命も変えてしまうのだろうか


ここまで読んでくださった皆様

本当にありがとうございました

次回は最終章

明後日 夜にお会いしましょう

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