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もう一つの家族

竜の家庭のその後は・・・

二件目の家は、そこから少し坂を下った川沿いにあった。

家というよりは、小屋といった感じの粗末な建物だ。

玄関のガラス戸を叩くと、鋭い目をした痩せぎすの老婆が

黙って時生を招き入れた。

戸を開けた時から、饐えたような生臭いような、

身体が朽ちていくような嫌な臭いが纏わりついてくる。

だが二間しかない家の奥の部屋に入った瞬間、わが目を疑った。

そこは宝の山だったのだ。

古い中国の医学書、漢方学、植物学、なかには博物館級のものもあった。

住まいとのあまりのギャップに、軽い眩暈を覚えながら

何気なく机に目をやると、そこには3枚の写真が飾られていた。

一番左は少年、まだ小学生くらいだろうか。

隣には顔の細い老人。多分あの老婆の夫だろう。

少年のおじいちゃんか。

そしてなぜか少し離れた右端の写真の中では

えらく美しい女が誘うような目つきで笑っていた。


「死んだんだ、三人とも」


隣の部屋から突然老婆が話かけてきた。


「いなくなったんだよ、その子。三年前に。

探したけどね、帰って来なかった。

それからすぐに爺さんも死んじまった。

すごい本あるだろ?結構高く売れると思うよ。

今じゃこんな暮らしだけど、

爺さん元々は大学の教授だったんだ。漢文学専門のね。

だから若い頃から、大陸には随分通って、貴重な資料もいっぱい集めた。

書物だけで止めときゃいいものを、ある時 人も持ち帰ってさ。

今はもう無いけど、あんたも知ってるだろ?九龍城。

あすこのスラム街から女の子を拾って来たんだよ。

えらく可愛い子でさ。

大きくなるにつれ、すれ違う殆どの男が振り返る程の美人になってね。

ところがその子、だんだん腹がでかくなってきて、ある日突然家の中で破水したんだ。

そりゃー驚いたよ。

拾ってきた子だから歳なんかはっきり判らないけど多分まだ14~15だったと思う。

父親?

じーさんしかいないだろ。

当時は日本語なんかできなかったから、その子ずっと家に居たんだもの。

だから写真の二人は親子さ。

笑っちゃうだろ。

女がこの家に来てから、どんどん落ちぶれちゃってさ。

このザマだ。


その女さ、殺されたんだよね。

あたしの息子に。

子供 産んだ後、女は体を売って金を稼ぐ事を覚えて

贅沢と男をむさぼるようになっちまってさ。

やっぱり息子も惚れてたんだろうね。

何度目かの家出から戻った女を刺しちまったんだ。

そん時、女の腹には子供がいてさ。

だから息子は二人も殺しちまった。

今刑務所に居るよ。無期懲役だそうだ。

あたしもさ、こんな家さっさと処分しちまって、せいせいしたいのさ。

え?その後かい?

あんたあたしの心配してくれてんの?優しいんだね。

ならこの本、全部買っとくれよ。

その金で暫く遊んだら、万引きでもして刑務所に入るよ。

そうすりゃ息子のそばで暮らせるだろ。ひゃっひゃっっひゃ」

前歯の無い口をゆがめて老婆は悲しく笑った。

崩壊した二つの家族

龍の玉のせいなのか

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