ふたりは友達
二人の少年は玉に翻弄される
その結末は・・・
陽一郎が助けたかったのは龍の玉だけ。
「竜ちゃん、片手じゃ無理だよ。玉を僕に投げて!
両手じゃないと、助けられないよ!」
竜は一瞬迷った。
足元から冷気が上がってくるので
水はたっぷり溜まっているのだろう。
落ちたら溺れてしまう。
そうだ・・・助かったらまたヤツから取り返せばいいんだ。
右手の玉を井戸の外に放り投げ
懸垂をするように、渾身の力で首を出すと
目の前に陽一郎の顔があった。
その瞳は真っ黒でどこも見ていない。
次の瞬間、竜の額に強い衝撃が走った。
痛いと感じる前に、おびただしい量の血が顔を濡らす。
その目に映る景色がみるみる赤一色になっていく。
まるで自分が龍の玉の中に入ったような気がする。
陽一郎は手に持った石を何度も何度も竜の頭に叩きつけた。
「竜ちゃんさえいなくなれば、アレは僕のものになる。
コイツが消えればいいんだ。邪魔なんだ!」
「痛い痛い!陽ちゃん、やめて!僕達トモダチだろ! 親友じゃないか!」
親友と言う言葉を聞いた陽一郎は、ハッとした。
一人っ子の陽一郎は、小さい頃から大人の中で何不自由なく育った。
そして陽一郎自身もその立場をよく理解し、
周りが求めるような子供であるべく振舞った。
学校でもそう。
金持ちの子供だというだけで、みんなちやほやしたし
何でも従った。
でも本当に楽しかったのは、竜ちゃんと遊んだ時だけだった。
竜ちゃんがいなくなったら、寂しい!
我に返った陽一郎は、石を放り投げ慌てて竜を助けようと
井戸の淵に身を寄せ、手を伸ばす。
竜の額はザクロのように裂け、服は血でびちゃびちゃになっていた。
「竜ちゃんごめん!ほんとにごめん!」
謝りながら伸ばした手を何故か竜は握らず
陽一郎の手首をグッと掴む。
「いいんだ。もう、いいんだ。一緒に龍と旅に行こう・・・」
そう言うと、竜は一気に陽一郎を井戸の中に引き込んだ。
『真っ赤な世界は龍の世界
お母さんの口紅の色』
陽一郎と井戸の底に沈んでいきながら
竜は今まで感じたことの無い
痺れるような気持ち良さを下半身に感じながら、
そんな事を思っていた。
深い井戸の底に沈んだふたり。
誰も知らない世界への旅立ち。