奪い合い
龍の玉が二人の関係を壊したのか。
それとも思春期の衝動?
眠れないベッドの中で、
陽一郎は玉の事ばかり考えていた。
あの冷たく熱い玉を舐めた時、体の芯が燃えて震えた。
今まで感じたことの無い気持ちの良さに
おしっことは違う、お漏らしをしてしまった。
あのくすぐったいような胸が苦しくなる気分は何なんだろう。
玉が自分のものになったら
もっともっと気持ち良くなれるんだろうか。
竜ちゃんは、毎日そんなことをしてるんだろうか。
ああ、あの玉が欲しい!欲しい!!欲しい!!!
どうしたら自分のものにできるのだろう。
お金?
もうあまりお小遣いは残っていない。
眠れないまま、朝を迎えた。
「竜ちゃん、きょう学校が終わったら
いつもの秘密基地で遊ぼうよ」
秘密基地は僕ら二人だけの特別な場所だ。
パパの会社が作っている大きなマンションの工事現場。
今は、古い住宅やアパートを壊している最中で
本当は子供は入っちゃいけないんだけれど、
工事が休みの日だけ内緒の入り口からもぐり込める。
解体途中の古い家は、人が住んでいたそのままで
布団やお茶碗、椅子なんかが転がったままだ。
庭には立派な池もあって鯉みたいな魚も未だ数匹泳いでいた。
竜ちゃんと僕はその家で、障子を破壊したり
仏壇の線香立ての灰を家中にぶちまけたり
ぽっとんトイレに日本人形だの木彫りの熊だのを投げ入れたり、
池の魚を捕まえて解剖してみたり
とにかく大人が絶対許してくれなさそうなことをいっぱいした。
だからその家で遊んだ後は、すごくスッキリしたんだ。
あれから竜ちゃんとは遊ばなくなっちゃったけど
あそこになら、きっと来てくれる。
そしたら夕べ一晩かけて僕が考えた作戦を決行だ。
竜は警戒した。
ヤツの目的は玉に決まってる。
きっと、大金を持ってくるんだろう。
でも龍の玉はもう俺の分身みたいなものだ。
金は欲しいがもう触られるのも、
まして舐められたりするのなんか耐えられない。
そうだ。これはチャンスかもしれない。
今日あの秘密基地で、脅しをかけてやる。
あいつにきっぱり諦めさせるんだ。
六時間目が終わると、夕暮れの早い晩夏は陽が落ち始めていた。
「竜ちゃん、やっぱり来てくれたんだね!
僕たち友達だもんね」
「当り前さ。陽ちゃんは僕の親友だからな」
親友だなんて本当は一度も思った事なんか無かったけど
そう言うとヤツは嬉しそうな顔をした。
「ねえ竜ちゃん、きょうは一万円持ってきたんだ。
でも、もう僕のお小遣いは無いんだよ。
これで最後にするから今夜だけ玉を貸してくれないかな」
「うー・・・ん」
一万円かぁ。すごい金額だ。
欲しいけど、玉を渡したらヤツは絶対に返さないだろう。
「陽ちゃん、玉は人にやれないんだ。
そういう約束で、店の人から譲って貰ったからね。
なんか呪いがかかるんだって」
呪いは嘘だったが、陽ちゃんはそれを聞くと
一瞬ビビった。
「じゃあじゃあ、陽が暮れるまででいいから触らせてよ。
今 持ってるんでしょ?」
「持ってるけど、それで一万円で良いの?」
「いいよ!早く玉見せて!はやく はやく」
陽ちゃんの瞳は、黒くヌメヌメと輝き
人じゃない別の生き物のように見えた。
俺がランドセルの底にあるタオルに包まれた玉を開くと
ヤツはまた股間を濡らし始め、
はあはあとせわしない呼吸をし始めた。
キモチワルイ・・・
と、顔をそむけたその瞬間だった。
俺の手から、玉を奪いヤツが走り出した。
こんちくしょう!やっぱり!!
ひ弱なヤツを捕まえるのは容易かった。
けれど、その手から玉を奪いかえすのは容易ではなかった。
揉み合っているうちに
龍の玉はヤツの手から零れ落ち
まるで生き物のように転がっていった。
そして木でできた何かの蓋のようなものの上で止まり
俺達を見つめ返すように光っている。
ビーチフラッグスのように二人は玉をめがけ走った。
そして足の速い竜が玉を掴んだその瞬間
朽ちた木の蓋は真っ二つに割れ、竜は暗い穴に落ちかけた。
穴は古井戸だったのだ。
右手に玉、左手は井戸の淵にかろうじて掴まり
竜は陽一郎に助けを乞うた。
「陽ちゃん助けて、、、早く引っ張り上げてよお」
井戸に落ちかけている竜を陽一郎は助けることができるのだろうか。
拙い作品を4章までお付き合い戴きありがとうございます。
次回アップは明後日 夜の予定です。