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蠱惑の玉

龍の玉を巡り、二人の関係が変わっていく

竜はポケットからおそるおそる、玉を取り出して見てみた。


良かった、なんともない。

思わず帰れって言っちゃったけど、陽ちゃんに悪かったかな。

でもさ、この玉と俺は特別な関係なんだ。

たったひとつの宝物。特別な友達。

人間の友達とは次元が違うんだ。


陽ちゃんの家は金持ちだから、テレビでしか見たこともないような物が

何でも揃っている。

お父さんは大きな建設会社の重役だし、お母さんは優しくて美人だ。

そんな陽ちゃんが貧乏な俺なんかとなぜ友達になってくれたんだろうと

いつも不思議だった。

だけど陽ちゃんといれば、学校でも虐められなかったし

美味しいお菓子も持ってきてくれる。

我儘なところは鼻につくけど、まあメリットがあるから

俺も友達でいる。


でも迂闊だったなあ。玉を見られちゃうなんて。



「陽ちゃんどうしたの?お夕食ちゃんと召し上がれ」


「あ、はい」


頭の中いっぱいに広がる赤い色。

食事なんか何の味もしなかったが

いつも通り頑張って美味しそうに残さず食べた。

でないと心配性のママが、苦い薬を出してくるから。


その日から、僕はあの夕日に燃える

真っ赤な玉の事が忘れられなくなった。

どうしても欲しい。

どこで売っているんだろう。

パパに頼めば買ってくれるだろうか。


「竜ちゃん、あの玉どこで買ったの?」


「知らない。遠くの街。一個しかなかったから

多分もう売ってないよ」


それっきり竜ちゃんは僕と遊んでくれなくなった。


でも別にいいんだ。


本当は竜ちゃんの事、そんなに好きじゃなかったし

貧乏な暮らしを覗くのにも飽きてきた。


一緒にいると、まわりは僕をうんと優しい人みたいに見てくれたし

みすぼらしい恰好の竜ちゃんと歩くと優越感に浸れた。


僕が声をかければ遊ぶ友達なんて他にも沢山いる。


みじめで、貧しくて、勉強のできないあいつとは

身分が違うんだ。


なのに、僕の持っていないものを持っている。


いつも僕より劣っていなければならない筈の竜ちゃんが

だんだん許せなくなってきた。


どうしてもあの玉を僕の物にしなければならない。

あんなヤツが、持ち主だなんてもうぜんっぜん似合わない!



やっぱりな。

竜はため息をついた。

陽ちゃんは玉を欲しがってる。

小さい頃から何もかもが手に入る生活をしてきたんだから当然だ。

一番見られたくないやつに見られた事を後悔した。


あれから陽ちゃんはしつこく家に来ては

玉を見せてくれと言ってくる。

いつか獲られるような気がしてすごく嫌だったから断っていたら、

そのうちに陽ちゃんはお金を持ってくるようになった。


「ね、お願い、見るだけでいいから。一回だけでいいから」


そう言って100円玉を俺に握らせた。


「うーん、一回だけだよ。そのかわり良いって言うまで目をつぶってて」


仕舞い場所がばれないように、注意しないとな。


それから陽ちゃんは毎日のようにお金を持って玉を見にくるようになった。

あの日から龍の玉は金のなる木になったんだ。

試しに俺は千円持ってきたら触らせてあげると言ってみたら

やつは次の日、本当に千円持ってきた。

玉を手にした陽ちゃんは、まるで猫みたいな蕩けるような顔で

撫でまわしている。

そしてまた次の日、今度は五千円を手にやってきた。

五千円なんて大金が自分のものになるなんて夢みたいだ。


陽ちゃんが持ってくる金で、俺は最近大富豪の気分を味わっている。

食べてみたかった高いお菓子や、読んでみたかったマンガ。

金があれば夢は叶った。

そんな俺に五千円は魅力的だ。

でも、玉は死んでも売らないけどな。


「竜ちゃん、お願いがあるんだ」

「なに?五千円分で何がしたいの?」

「あのね、誰にも内緒だよ。玉、舐めていい?」


俺はびっくりした。

玉を舐めるなんて考えた事もなかった。


でも減るもんじゃないし、五千円欲しいし。


しぶしぶ許可した時の陽ちゃんの引きつったような笑顔は

とても不気味だった。

俺に投げつけるように金をよこすと

ハムスターみたいに玉を両手で抱き、

ゆっくりと玉を舐めだした。


夕方の薄暗いぼろ座布団の上で

一心不乱に玉を舐める陽ちゃんの股間が

じっとりと濡れ始めていたけれど、

俺にはそれがなんなのかはよく解らなかった。

純粋な欲望が牙をむく

ふたりは・・・


次回は明後日アップ予定です。

皆様のお目に留まれば嬉しく存じます。

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