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龍と竜

人魚ドームにも登場した「コロル堂」

今回扱った商品は・・・

「竜!またそんなもんながめて!

じいさんの爪切っとけって言ったろ」


ちっ。

本当にウザいばばあだ。

俺は今、龍と一緒に旅をしていたのに。


舌打ちをしてから、もう一度手に持った玉を

青空にすかしてみた。


直径3㎝くらいの透明でまん丸なガラス玉の中に

真っ赤な色ガラスが閉じ込められている。

それは龍みたいな形をしていて、すごくかっこいい。


「血みたいな色だ。本物の龍の血だったりして」


夢の中でいいから、玉から出てきてくれないかなあ、

そしたら俺はその背中に乗って・・・


「りゅう!聞こえてんだろ!」


「わかったよ、今やるってば」


ばばあはこの玉がカンに触るのだ。

なぜなら勝手に出て行った母親に買って貰ったものだから。


母親は時々ふらっと家出をし、また戻ってくるという生活をずっとしていた。

寝たきりのボケたじじいと根性のひん曲がったばばあ

貧乏暮らしの三拍子の生活に嫌気がさすんだろう。

ただ帰って来る時にはいつも高い食い物や、酒を大量に抱えてくる。

そのせいか父親も何も言わなかった。


そして俺は全員が大嫌いだ。


ある日気まぐれな母親が

隣の街に買い物に連れて行ってくれた。

出かけるときの母親はすごく綺麗だ。

どこの国かは教えてくれなかったけれど

母親はどうやらハーフだったらしくて、

ちょっと茶色がかった巻き毛と浅黒い肌が、

余所行きの身なりをより派手にみせた。

真っ赤な口紅も良く似合っていて、

汚らわしいと思いながらも誇らしかった。


そんな母親をいつも

父親は物悲しい目で

ばばあは憎々しげに

近所の人達は刺すような目線で見送った。


母親と出かけるなんてめったにないので

俺はちょっと嬉しかったが、

なぜか途中から知らない男と三人になった。


男が現れた途端に、

母親は見たことも無いような笑顔をつくり、

聞いたこともないような声ではしゃいだ。


何となく面白くなくなった俺は、

話しかけてくる男を無視しまくった。


俺の機嫌を取る為か、

男は坂道を下ったところにある古本屋に入ろうと言う。

大人のくせに、小学生の顔色を伺う男に

一層腹が立ってきた。


こいつバカなんじゃないか?

俺はまだ小学4年だ。

こんな古臭い店嬉しい訳ないだろう。


と思ったが、母親の手前断るのはまずい気がして

仏頂面で二人の後に続いた。


店の入り口には、手書きの看板があり

「コロル堂」と書かれていた。

コロルってなんだ?

変な名前。

店もヘンだから合ってるよな。

ドアを開けると、案の定クサいし

本屋なのに、ほとんどガラクタにしかみえない骨董品もいっぱい飾ってあって、

不気味な雰囲気だった。

そのうえ店の隅では黒い猫がじっと俺を監視している。

時々声も出さずに口だけニャーと鳴いてるみたいに開く。


一刻も早く脱出したかったが、母親の腰に手を絡めていた男が


「竜君、何か欲しいものはあるかい?おじさんが買ってあげよう」


と、猫なで声を出した。


一瞬そこの黒猫がしゃべったのかとゾッとした。


「え、あ、ううーん」


こんなところに欲しいもんなんか・・・

と、ぐるっと首を回した先にレジが見えた。


レジ台には三つ編みの女が

何人だか判らない変わった服を着て座っている。

穏やかに笑っているようにも見えるけど

粗末な服を着た俺をバカにしているようにも感じる。

まあそんな目つきにはもう慣れたけど。

そのまた後ろにはちっちゃなケースがあって、

なにかこまごまとしたものが飾ってあった。


吸い寄せられるように傍に行くと

「非売品」の札が貼られたケースの中には

何だか不思議なものが入っていた。


縁が剥げた杯のようなの

ちっちゃな天秤みたいの

昔の薬入れみたいなの

理科の実験に使うようなフラスコみたいなの

金属のストローみたいの


なんだこれ、魔女の薬でも作んのか?


その中に一際目立って、座布団に乗っかった

ガラスの玉があったんだ。

それは真っ赤な龍を閉じ込めたまま

妖しくギラギラ輝いていた。

正面を向いた龍の目と俺の目が合った瞬間

俺の脳の中が真っ赤に弾けた。

龍と何かが通じた気がしたんだ。


龍?俺も竜だ。


おまえも外に出たいのか?



「ごめんね、これは売り物じゃないの」


店番の女は言った。


だがどうしても、どうしてもそれが欲しかった俺は

母親と男に食い下がった。


小学4年でも、二人がどんな事情で逢っているのかくらいは解る。


俺は生まれて初めて恐喝まがいの事をした。


男はこの店の常連らしく、店の女は困ったあげく

どこかに電話をしている。


しばらくしてから、女は俺に向かって


「特別にお譲り致しますが、絶対に君が持っていてね。

人にあげたりしないって約束ね」


勿論だ、この龍は俺だ。


「約束します、ぜったい」



こうして龍の玉は俺の手に入った。


そして次の日また母親は家を出ていき

それから二度と帰って来なかった。


すさんだ家庭に育つ少年

龍の玉は彼の救いになるのだろうか

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