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猟師とたぬき


 あるところに腕の良い猟師が居ました。名を権兵衛と言います。


 彼はよく村から山に入っていき、鹿やら猪やら見事な獲物を捕ってきました。


 とある日、権兵衛は珍しくも雉しか獲物が手に入りませんでした。大きな雉でしたが、その日の権兵衛が獲れたものはこれだけです。


 山を降りてきて川の上の橋を渡れば村に着くというところ、狭い山道の縁には丸く大きな石があり、そこに別の猟師が座っていました。大きなかごを背負った小柄な男でした。


 権兵衛は会釈をして、その場を通りすぎようとしました。そこへ座ったままの男が声をかけます。


「あんた。たぬきは要らんかね?」

「たぬき?」


 権兵衛は気になって聞き返しました。そうすると男はうんと頷きます。


「そう。たぬきだ。山でたぬきをとったんだがね。残念なことに、わしはたぬきを好かんのだ」

「それで、たぬきをくれると言うのか?」

「ああ! だけど、ただというのは嫌だよ」


 男は値踏みするような視線を権兵衛に向けます。


「あんた見たところ猟師だろ。何か獲物を捕って来たんだろう? そいつと、わしのたぬきを交換しようじゃないか」


 権兵衛は背負い袋の重さを確かめます。そうして、とりあえず男の提案を考えてみることにしました。


「まずは、あんたが捕ったっていうたぬきを見せてみてくれ」

「いいとも。ほら、こいつだよ」


 男は側にあるものをポンポンと叩きました。それは大きくて丸々と太ったたぬきでした。たぬきは全く動きません。死んでいるように見えます。


 権兵衛はたぬきを見て大した獲物だと思うと同時に奇妙だと感じました。


 丸々太った大きなたぬきは確かな存在感を持っています。それだけに、権兵衛には奇妙なのです。どうしてこのたぬきの存在に今まで気づかなかったのだろう。


「なにか……妙だ」


 権兵衛は呟きました。男は怪訝な顔をして権兵衛を見てきます。


「妙だって?」

「そうだ。こんなところにたぬきの姿はなかった。何かおかしいぞ」


 権兵衛が男を睨みます。不貞腐れたような顔をした男は「うまそうな雉の匂いがしたのになあ」とぼやきました。そして、男の姿が崩れていきます。


 男の姿は何頭ものたぬきに変わりました。たぬきたちは走って逃げていきます。後には権兵衛と丸く大きな石が残りました。


 そこにあったはずの丸々太った大きなたぬきの姿はもうありません。代わりに丸く大きな石があります。ちょうど、たぬきが置かれていた場所に同じくらいの大きさの石があったのです。


 権兵衛は方をすくめました。


 猟師の獲物とただの石を交換しようだなんて、困ったたぬきたちです。


 これはずいぶん昔から語られるお話です。ですが、もしかすると今も人を化かそうとするたぬきは山に居るのかもしれません。

 

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