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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ショートショート版『未来へ旅立った恋人』

作者: 中村ヒカル

ショートショート版『未来へ旅立った恋人』

    Hikaru nakamura


「あっ、 あなたは……」

「やあ、 元気そうだね」

 老婆は、 一人暮らしの住まいを尋ねてきた男を見て驚いた。 半世紀以上前、 彼女がティーンエイジャーだった頃、 突然姿を消してしまった恋人だったのだ。

「本当に、あなたなの?」

「うん、そうだよ」

「いったい今まで、どこで何をしていたの?」

「宇宙開拓事業に関するプロジェクトの一貫として外宇宙での探索活動を行う宇宙船団が地球を出発すると聞いてね、当時の僕は居ても立っても入られなくなって衝動的にその船団の一つに潜り込んだんだ。みつかった時には、もう地球に引き返せない距離にまで来ていた。 僕は見習いとして雑用を任され熱心に働いた。 それで船長に見込まれて、船内で教育を受けさせてもらって航海士としての免状も取得した。そして経験を積んで一人前になり、 探索先の惑星でも大活躍したんだぜ!」 

嬉々として語る男を、老婆は悲しそうにみつめながら言った。

「ひどいわ。 どうして何も言わないで、 去ってしまったの?」

「すまない。 君に別れを告げるのがつらくって」

「宇宙に対する憧れが強かったってことなのね。 あなたがそんな冒険心に富んだタイプだったなんて知らなかったわ」

「いや。 もちろん、与えられた仕事は一生懸命こなしたけど、宇宙を旅することになんて全然興味がなかったんだ」

「それじゃ、どうして?」

「僕が密航なんかしたのも、君を愛すればこそ…」

「何を言ってるの? そんなの嘘よ。 あの頃、付き合っていた時も感じていたの。 私とデートしていても、あなたはどこか上の空って感じで、本当に好きな人が別にいるんじゃないのかって。 だけど、あなたは二股をかけてたわけじゃなかった。 だから、もしかしたらゲイなんじゃないのかと思って」

「はははっ。 別に同性愛者の人達に偏見があるわけじゃないけど、僕はゲイなんかじゃないよ。 それに、 好きでもないんだったら、 どうして君と付き合わなければいけなかったんだい?」

「それもそうね。 さっきから奇妙に思っていたんだけど、あなたはどうして……」

と、 言いつつ、 老婆は男の姿をまじまじと眺めた。

「ああ、言いたいことはわかるよ。 君はもうおばあちゃんになっているっていうのに、

どうして僕はまだ二十代にしか見えないのかってことだろ? 僕の乗っていた宇宙船は、

光の速さ以上のスピードを出せる推進力エンジンで航行していたんだ。そんな高速の宇宙船内にいると、地球上で生活しているのに較べて時間が遅れてしまうことになるんだ。

だから船内では十年しか時が経っていないのに、こうして地球に戻ってくると、何十年も歳月が流れてしまっているということになるんだ」

「そうなの。 だけど、 会いに来てくれたのはうれしいけど、 私みたいなシワだらけでヨボヨボの老人、 もうあなたの恋愛の対象ではないわね」

「そんなことないよ。 正直に言うと君が言った通り、 僕は若い頃の君を本当には愛していなかったんだ。 何ていうか、君には悪いけど、物足りないっていうか……」

「やっぱり。年上が好みだったのね? 私は気が付かなかったけど、 ひとまわりくらい上の女性と付き合ってたんでしょ?」

「違うんだ。 誤解しないでくれ。 もっと人生経験を積んだというか……」

「人妻好きとか熟女マニアだったの?」

「まだまだだ。 僕の理想とする女性は、もっともっと成熟した女性だ。 逆に、 枯れているくらいがちょうどいい。 僕は気がついたんだ。 君以外の女性を愛することはできないけど、 当時の君は僕にとって幼すぎる。 だから僕は光速以上のスピードの出る宇宙船内の時間の遅れを利用して、 未来の、 言ってみれば、 僕の理想とする君に会うために旅して来たんだ。 今なら心の底から言える。 君のことを本当に愛していると!」

「何がなんだかわけがわからないけど、やっぱり私のことを愛していてくれたのね。うれしいわ」

「皺だらけでシミの浮き出た皮膚も、 腐った柿のようなすえた体臭も、 垂れたお乳も、

僕にとってはたまらないくらい魅力的なんだ。 僕のことを孫のように愛して欲しい。 大好きだよ、おばあちゃ~ん!」


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