第2話:仲間
ミールは自分の額に巻かれているきあいのハ●マキを外し、掌に乗せてまじまじと見た。
<ミール>
「そういえば、なにゆえ初期装備でこんなの持ってたの僕?」
神からのプレゼントだそうです。
<ミール>
「プレゼントだったらもっと法的に安全なのは無いのかよ?」
しかし、その装備で命を救われた以上、何も言い返せないでしょうに。
<ミール>
「うるさいわ!」
あーあ、勿体無い。ミールはきあいのハ●マキを捨ててしまった。
【はじまりの村】
<ミール>
「なんて安直なネーミングの村だよ」
いや、だって解りやすい方が良いですしね?
<ミール>
「無茶苦茶だな…………ま、いっか。んでさ、世界を救うって言ったって、どこに行って何をすればいいんだ? 具体的なこと何も話してなかったじゃないか、あの神とやらは」
そうですね。とりあえずまずは情報収集なんてどうでしょう? 流れ的に。
<ミール>
「雰囲気で行動決めんの? なんか先行きが不安だな……」
まあまあ、そう言わずに。
<ミール>
「あっ、そういえば村人がいるけど、話しかけた方がいいの? ストーリー的に」
確かにストーリーに関わってくるサブキャラもいますが、そこは主人公の自由で。話しかけても無意味な住人がほとんどで、しかも独り言喋っているのがRPGの鉄則ですが。
<ミール>
「じゃ、とりあえず情報収集にもなりそうだし、ちょっと話してみるかな。おーい、そこの人ー」
ミールは村人に話しかけた。
<村人A>
「おれの名前は刺身丸。なにかおもしろいことないかな~」
<ミール>
「おい、天の声。これはツッコミ待ちなのか? なんだ刺身丸って。自分の名前がおもしろいことになってんじゃん」
無意味な発言をするパターンのやつだったようですね。
<村人A>
「おれの名前は刺身丸。なにかおもしろいことないかな~」
<ミール>
「しかも、ぶっ壊れたおもちゃみたいにセリフを繰り返してるぞ」
だってそれがRPGってもんでしょうよ。
<ミール>
「そこ一点張り? でもランダムでセリフ変わるとか、そういうのは無いの?」
<村人A>
「おれの名前は刺身丸。なにかおもしろいことないかな~」
そう言われても無いものは……。
<村人A>
「おれの名前は刺身丸。なにかおもしろいことないかな~」
<ミール>
「お前は少し黙ってろ!」
って言っても同じこと繰り返すだけですよ。
<ミール>
「あーもう! だったらこいつから離れればいいんだろ!」
ミールは村人Aから離れた。
<村人A>
「おれの名前は刺身丸。なにかおもしろいことないかな~」
ところが、村人Aが追っかけてきた。
<ミール>
「なぬっ!? なに完全なエキストラキャラが勝手に動いてんの!?」
バグってやつですかね。ほら、キャラが移動すると残像になったり、棺桶状態になるとかそういうのです。
<ミール>
「なに悠長に説明してんだよ! 止めろよアレ!」
いや、無理ですよ。あくまでも、私はただの天の声なんで、どうしようもできません。
<ミール>
「ちくしょー! 役に立たねーぞこいつ!」
【なんか魔物とかよく出てくる道】
<ミール>
「はあ……はあ……何とか撒いた……。いつの間にかマップ移動しちまったよ」
まぁ、前に進めたので結果オーライってことにしましょう。
<ミール>
「前に進めた、って……さっきの村で僕、何も情報仕入れてないんだけど……」
適当にやってれば何とかなりますって。
<ミール>
「いよいよ不安が明確になってきたな………ん? 何だあれ」
ミールは何かを見つけた。
なんと、青年が魔物に襲われている!
<ゴブリン>
「はっはっは~! 獲物がちょこまかと逃げ回んなよ!」
<青年>
「く……ッ! だがここで戦ったら、俺のこの薄型ノートPCの液晶ディスプレイに傷が付く恐れが……!」
<ミール>
「おい、あんなバカ助けなくちゃいけないの?」
んまぁ……世界を救うんだったら、これくらいは………。
<ミール>
「もうしょうがないな………ちょっと! そこの人!」
<青年>
「おお! オレの代わりに戦ってくれるのか!」
<ミール>
「まだ何も言っとらんわ!」
<青年>
「すまない! あとで、お礼に神MAD動画紹介するよ!」
<ミール>
「人をナメてんのか!」
戦闘始まりますよー。
<ミール>
「ああくそっ、この世界の戦闘っていつもこんなノリなのか!?」
ゴブリンが襲い掛かってきた!
<ゴブリン>
「魔●剣!」
<ミール>
「それ魔物が使う技じゃねーし!」
ミールに12ダメージ!
<ミール>
「……ふん! おじいちゃんに比べれば全然ザコだな! 今度はこっちの番だ!」
ミールの足し算!
<ミール>
「相変わらずカッコ付かない技だなこれ!」
ゴブリンに45ダメージ!
ゴブリンを倒した!
<ゴブリン>
「ぐああ……! もっと出番がほしかった……!」
<ミール>
「なんつー断末魔だ」
本音でしょうねー。
<ミール>
「さて、と……さっきの青年さんは……」
<青年>
「クソがッ! アンチも信者も動画に安易にコメすんじゃねえ! 荒れんだろうが!」
<ミール>
「なんか一人でヘッドホン着けてPCの前に正座してる!?」
多分、戦闘終わってるのも気付いてませんね。
<ミール>
「おいテメエふざけるなぁ! それが人に助けてもらったやつの態度か!」
<青年>
「ん? あぁ、さっきの人。終わったのねとんくす。これが例のMAD動画だけど」
<ミール>
「人の話を聞けぇ!」
~五分後~
<青年>
「やあやあ、助けてもらって悪かったね。俺の名前は、たやかって言うんだ」
<ミール>
「たやか、ね(田中の出来損ないみたいな名前だな……)。僕はミール。何て言うか、目的がはっきりしてない分、ただの旅人としか言い様がないけど、そういうことで」
<たやか>
「あぁ、かくかくしかじかってやつね。ゲームって便利だなー」
<ミール>
「こそこそ……(おい、天の声。救出イベントがあるってことは、ただのキャラじゃないってことは予想付いたけど、それにしてもセリフが自由すぎるし、この人一体何なんだ?)」
んー……、まぁ、あれですよ。いわゆるフラグですよ。
<ミール>
「はい?」
<たやか>
「そういうことだよ。『助けてもらったお礼に自分の村へ招待します~』っていうアレ。ついでに『村まで案内しますので~』っていうパーティー追加も」
<ミール>
「…………なるほど。これさえやれば勝手にストーリーが進んでく、っていうそれね……。ちゃんとあったんだそういうの」
今までのは、杞憂だったようですね。
<たやか>
「というわけで、この先よろしくだね。ミール。村まで案内するよ」
たやかが仲間になった!
<ミール>
「ところでパーティーに入るのはいいけど、戦闘できるの?」
<たやか>
「斧使い、っていう設定だけど、PC守るので精一杯だから大体はよろしく」
<ミール>
「これ苦労が増えただけじゃ……」