チュートリアル 主人公初めての野宿
「宿屋の前にワープしたのはいいけど、俺達所持金あるのか?」
「2回のミッションのクリア報酬で合計2万エルは獲得してる。ほら、所持金の確認をアイテム出すときみたいな感じで・・・」
「あたしも出た! 2万エルだって」
「ほんとだ。これなら泊まれるか」
ほかの2人の所持金を確認し、宿屋へ入る。
どこか昔のカウボーイの映画で出てきそうな飲み屋のような雰囲気の宿屋だった。
店主はやる気がなさそうに、奥で座っている。
飲み屋のような雰囲気とはいっても、お客さん1人見当たらない。
「ここに何の用だ」
「俺達ここに泊まりてぇんだよ」
「金は」
もてなす気0の店主に対し、レンの態度も悪くなる。
確かにお客さんをもてなすような態度ではない。
「今夜だけ泊めて頂きたいんです。明日の午前中には出ますので」
「そうだな・・・。男は5千エル。女は3千エル。で、ペットは1万エル」
「は?」
ぼったくりもいいところだ。
ペットは分かるが、普通人間よりは安いものなんじゃ?
それに性別で値段を変えることも、値段を言う前の変な間が正規の値段ではないことは明らかだった。
「そんなぼったくる店にあたしは泊まらない! こんなところに泊まるならまだ野宿の方がマシ! 舐めないで!」
ミカがキレた。
「俺達はよく夏場とかキャンプしたりで野宿結構してるんだよ。まぁ、野営って感じか。だから最悪それでもいいんだが」
「それなら、僕も野宿でいいよ。」
ミカは僕が思っているよりも女の子していないのかもしれない。なんとなくだけど、気が強く男気があるのかなと。女の子だし、と思って考えて発言していれば驚くことにミカがぶち壊す。
この世界でのミカの性格はとても頼りになるものだった。
「んじゃ、どっかいい感じに寝れそうな場所探すか」
「さんせーい!」
「そういえばゲームの世界でも普通にお腹空くんだね」
「言われてみればそうだな」
「それじゃ、連絡手段ないから食料とかその辺だけ一緒に買っていい場所探しに行こう!」
ミカの言うように、3人で市場へと戻り果物や火を起こせる道具だけ買って寝れそうな場所を探しに行く。
ここに来るまでにお腹が空いていることに気が付かなかったのは、色んな事があったからだろう。
自分のプロフィール。つまり、体力やMP、それ以外に骨付き肉のようなマークがあったのだがこれが自分の空腹度を表しているのだろう。
コマンドは存在しないが、そのHP、MP、空腹度はずっと存在していた。
空腹度が0になったらどうなるかは分からないが、0にならないよう管理するのがベストだろう。
「ユウマー?」
「こいつすぐ考え込むよな」
「え?あぁごめん。何かあった?」
「この辺なんかはどうかってミカと話してたんだよ」
辺りを見渡してみれば、この場所の周りは1mはあるだろう草が生い茂っていて、もし敵から身を隠すならちょうどいい場所かもしれない。
それに、木も高く多い。これなら雨が降ったとしても多少は凌げるような場所だった。
「良いと思う。火、つけようか」
「あたしやっていい? 得意なんだよね~」
「火おこしはいつもミカがやってたもんな」
「あのさ、良ければなんだけど・・・」
「急に口ごもってなんだ?」
「もし良ければなんだけど、3人の話を聞かせてくれないかなって」
その発言に一瞬2人は動きを止めお互い顔を見合わせていたが、ミカが笑顔で頷く。
「もちろんだよ! ご飯って言っても果物しかないけど食べながら話してあげる!」
――――――――――――――――――――――――――
ミカが起こしてくれた火を3人で囲むように座り、果物を口に運びながらアイ、ミカ、レンのこれまでの話を聞く。
楽しそうに、でもどこか悲しそうに話し始めるミカとレン。
「あたしとアイは幼馴染だったの。住んでいるところも年齢も同じだったから大学に通うようになっても一緒にいた。レンとは高校生の時に知り合ったんだ。それでレンの一目惚れでんっ!」
どこか慌てたようにレンはミカの口を抑える。
顔が赤く見えるのは目の前にある火のせいなのか、それとも本当に赤いのかは確かめようがないが、ミカはそんな慌てたレンの姿さえも面白いのか肩を揺らして笑っている。
「レン・・・同情するよ」
「勝手に同情してんじゃねーよ」
「そろそろミカの口解放してあげなよ」
「あ、わりぃ」
「面白かったから許す!それで、なんだっけ?」
「レンが一目惚れ」
「あーそうそう! レンの猛烈なアプローチでめでたく2人は高校2年生の12月14日だっけ? カップルになったんだ~」
そこまで詳しく知ってるのかよってもろ顔に出ているレンを見事にスルーし、ミカは話を続ける。
「アイは初めは怖がってたんだ。うちとは正反対の性格だったから。引っ込み思案で、でも誰よりも人を思いやっていて・・・。まぁ口下手だったのが玉に瑕だったんだけどね。そんなアイだったけど、レンと少しずつ話すようになって、ちゃんと自分を持つようになった」
「そうか? あんま変わんねぇと思うけど」
「あんたはまんまアイって人間に惚れてるんだから気が付かないこともあるよ。で、レンの優しさに気が付いて少しずつ心を開いたってわけ!」
そのアイって女の子の容姿や声、性格、なにも知らなかったけど、ミカの話を聞く限りなんとなく勝手にイメージが付く。
「大和なでしこの代表みたいなアイが大学の入学式で金髪に染めて来たのは正直心臓止まるかと思ったよ。染めたおかげで外見は派手になったけど、中身は相変わらずだったけどね~」
どこか懐かしそうに話す横顔に胸が痛む。
火が消えないように小枝でいじるミカの横顔は脳裏に焼き付いた。
「本当に楽しかった。アイとレンと3人で海に行ったり、旅行に行ったり、川に遊びに行ってキャンプしたり、本当に、本当に楽しかった・・・」
今にも消えそうな声で3人の思い出を話してくれる。
とっくに耐え切れなくなっていたレンは下を向いてずっと涙を堪えている様子だった。
「本当に仲が良かったんだね。そのアイって子の為にもこのゲームの真相をちゃんと突き止めよう。話してほしいなんて言ってごめん・・・」
「ううん。いいの。だってアイのことユウマにはなんとなく知ってほしかったから。今度また話すときはもっとちゃんと話すよ。今日は色んなことがあって疲れたからあたしはもう寝るね!」
「分かった。おやすみ」
話を聞いて、更にアイが殺された理由が分からなくなったが、必ず真相を確かめる。
僕は今日1日起きた出来事を思い出しながらも静かに眠りへと就いた。