暗黒の地 ハヅキ2
「そんなある日、私はアサヒに誘われてこのゲームを始めたわ」
「この世界に来るまでにあなたは1度死への絶望を身をもって体験したのですね。 では、この世界に来てからのことを教えて下さい」
「ええ。 でも、正直ユウマと出会うまでは本当に普通のゲームだったわ」
アサヒに誘われこのゲームで初めから2人で行動していた。
チュートリアル、始まりの地では本当に何事も起きず、ただ職業を選択しただけ。
それで、休息の地で自分が選んだ職業に合う装備を揃えた。
砂漠、氷、炎、水、それぞれの地のボスはアサヒと2人で簡単に倒せるものだった。
もちろん、レベルを念入りに上げていたこともあったのだろうが、それでもあっけなくボスは倒せた。
ユウマ達が話していたような、ぎりぎりの戦闘や、誰かが目の前で死ぬといった場面には一切出会わなかった。
とはいっても、水の地での戦闘でこの先ずっと2人で進めていくのは大変だと思ってユウマ達のパーティーに加わった。
この世界がどういったものなのか、正直まだ良く分からない。
それは、私達がそんな酷い場面に立ち会っていないからだとは思うけど、ユウマの話が嘘だとは思えない。
だから、私は一緒にこのゲームの世界をクリアしようとユウマのパーティーに加わった。
「それで今、ということですか。 でもあなた、私に1つ嘘をつきましたね?」
「なんのことでしょう?」
「良いですよ。 大丈夫です」
マコトがそういうとハヅキの周りに映像が流れた。
それは、このゲームの世界での映像ではなく、現実世界の映像だった。
その映像には、包丁を片手に立ち竦む少女がいた。
少女は全身痣だらけで、包丁を持っていない左手はおかしな方向に曲がっていた。
包丁からは真っ赤なものが滴り、目の前ではお腹を押さえる中年の男性。
そんな中年の男性を、少女は穏やかな顔でただぼーっと見つめていた。
「これは一体なんでしょうか?」
「なっ」
「この映像に映っている少女はあなたですよね。 心葉月音さん」
「はぁ・・・。 ええ、そうよ」
「この時のこと、あなたは覚えています」
「そうね。 だってお腹が空いていたんですもの。 それに、毎日毎日殴られ蹴られ、食事も与えてもらえず、給食もお金を払えないから無し。 限界だったのよ」
「限界ですか」
「ええ。 だから殺した。 このままでは身体も心も壊されてしまうと思ったのよ。 こいつから逃げることはできない。 それなら、殺してしまえば良いんだと思ったのよ」
「初めて殺したときの感情は?」
「最高だったわ。 これで生きられるって思ったんですもの。 ずっと私があの男を見上げてた。 そんな男が私の下に崩れ落ちているのよ。 恐怖に満ちた目で私を見上げているのよ? 本当に傑作だったわ!」
「素晴らしい。 人間という生き物は醜く、儚い。 そして、生に対して貪欲。 あなたは私にそれを教えてくれた。 ありがとうございます。 私はとても満足です」
「終わりってことでいいかしら?」
「ええ。 ええ。 ありがとうございます。 明日はモモさんですね」
「では、失礼するわね」




