Prolog 死にたいから
この世界にはどうしようもないことがあって、人間どうしようもないことがあると決まって神様や存在しない何かに頼ってしまう節がある。私もその一人だ。
きさらぎ駅。
ホラーや都市伝説を好きな人なら聞いたことのあるその摩訶不思議な駅の名前は今も尚、形を変えて語り継がれている。午前零時。某県にある大きな山に囲まれた日本でも有数の湖の奥底。実在したといわれるきさらぎ駅があるという。その湖に飛び込み奥底に沈んでいくと異世界に繋がる扉があるといわれてる。きさらぎ駅という異世界の扉。電車でたどり着くのではなく飛び込むというのがなんとも斬新だがその噂が本当でも嘘でも今の私にはどうでもよかった。もし行けるのなら異界に。行けないのなら死なせてほしい。スマートフォンに映る言葉の羅列に森の奥へと投げ捨てる。
「さようなら」
遠く見えない濃霧の曇り空の下。夜見 聖奈[よみ せな]17歳は今日死ぬ。大きく息を吸って着慣れた制服で勢いよく湖へと飛び込む。ぶくぶくと息継ぎをするにつれて肺活量のない私はすぐに苦しくなる。このまま死ねればいい。目を開けて沈んでいく身体に身を任せる。嗚呼、これでお父さんとお母さん楽になるかな。瑠璃ちゃんたちは私を許さなくても楽しく暮らせてるといいな。走馬灯のように巡る思い出と何も見えない湖の底にやっぱり都市伝説は都市伝説なんだと痛感する。きさらぎ駅どころか何もない底なし湖じゃないか。遠のく意識とバラバラになる思考回路。これでやっと楽になれる。空も湖も暗い今日この日、私はやっと息ができたような気がした。