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三話

「—————」


 なんというか、申し訳なさで胸がいっぱいになった。


 最後に、初対面である筈なのに、不思議とお前には言ってしまいたくなった。

 どうしてだろうか、お前の雰囲気が〝あいつ〟に似てるからなのかもしれないな。


 などと自嘲気味に付け足されたあたり、本当に私以外に悩みを打ち明けた事はないのだろう。


 ただ、語られた悩みは、一部一部がぼかされていたけれど、アンナ・クロイツとして生きた前世の記憶を持つ私だからこそ、そのぼかしは全く意味を成していなかった。


 語られた悩みは、本当に簡潔なものだった。

 ただ、解決は不可能と断じる事のできる悩みだった。



 俺は、一人の女性に助けられた。

 優しいやつだった。

 俺の憧れだった。

 俺の唯一の味方だった。


 でも、そいつは俺のせいで死んでしまった。

 あいつのことだ。

 俺には自由に生きろとか、己の死なんか気にすんなとかきっと思ってるんだと思う。


 でも、俺はそれが出来なかった。

 十五年経ってもまだ、あいつの事を忘れられない。毎日、思い出して、後悔してる。


 どうしてあの時————一緒に死んでしまわなかったんだろうかって。

 あいつがいない世界で生きていたって、何も楽しくないのに。



「…………」


 ここまで、思い詰めてるとは思わなかった。

 全く気にしない事が無理である事は何となく分かってた。でも、きっとクロなら乗り越えてくれるだろうし、昔からずっと苦しんでた分、自由に残りの人生を楽しんでほしいと私は切に願ってた。

 そうする事が最善であると、私は信じて疑っていなかった。


「俺は……俺は、どうすれば良いんだろうな」


 ————命懸けで救われた人間にもかかわらず、寂しさのあまりその命を投げ捨ててしまいたいと何度も考えてしまうようなロクでなしだ。


 そう続けられたものだから、反射的に「違う」と叫んでやりたかった。

 ロクでなしなんかじゃないって、言いたかった。


「どうすれば、俺はあいつに報いる事が出来るだろうか?」


 こればかりは、アンナ・クロイツの口から答えてやらない限り、解決は不可能だろう。

 何より、私は(、、)、報いるだとか、報いれていないだとか、そんな事は微塵も考えた事はない。


 好きに、自由に、楽しく生きてくれ。


 本当に、ただそれだけだったから。



 そんな事を考える私に向けられるクロの視線。

 それは、縋るような瞳だった。

 答えをくれと、切に願っているとよく分かる瞳であった。


 だから私は、私らしく答える事にした。

 今の私はアンナ・クロイツではないけれど、それでも、


「好きに、自由に、楽しく、後悔なく生きてくれれば私はそれで良いと思いますよ。たとえ、クロ(、、)がどんな選択を掴み取ったとしても、そこに後悔がないのなら、それで良いと思います」

「…………。本当に、あんたはあいつに似てるな。雰囲気もそうだが、口調も、言葉もあいつそっくりだ」


 だって、あいつは私ですから。


 と、言うわけにもいかないので、それとなく笑って誤魔化しておく事にする。


「それにしても、クロードさんはその方が本当にお好きなんですね」


 そこが本当に意外だった。

 命の恩人的立場にあたるし、それなりに懐かれているとは思っていた。

 だけど、共に過ごした期間なんてたかが知れてる。日数にして三十日あるかないか程度だったというのに。


「ああ、そうだな。あいつがいない世界に、価値はないと思えるくらいには好きだった」


 ————めちゃくちゃ重いよ、クロ。


 一切の躊躇いすらなく言い切ってしまうものだから、恥ずかしさを通り越して呆れてしまう。


「だから多分、もう一度あいつに俺が会えたなら」

「会えたなら?」


 どこか含蓄のある意味深な笑みを浮かべながら、クロは殊更に言葉を区切り。

 ややあった後。



「きっと俺は、どんな事をしてでも側に置くんだろうな。それで、もう二度と離さないと思う」


 ————そのくらい、大切だから。


 そう言葉が締めくくられたお陰か、私は引き攣った笑みを浮かべずにはいられなかった。


 ただの冗談だとは思うけれど、本気だったら全く笑えないからね。



 そんな事を思いながら、クロに一目会っておきたいという目的も果たせた上、国王陛下を一人でこんな場所に拘束するのもよろしくないだろう。


 そう思い、適当に理由をつけてその場を後にする事にした。

 去り際、クロが私に見せてくれた笑みというものは、憑き物が落ちたような、そんな屈託のないものであって。


 もうアンナ・クロイツではないけれど、クロの役に立てたなら良かった。

 と満足感に浸る私の耳に、クロの呟きは一切届くはずもなかった。



 ————困った時に髪を弄る癖、世話焼きな性格、花好きで、俺を見た第一声が「クロ」。極め付けに名前がアンナと来た。口調といい、その魔法杖といい、他人の空似と言い張るには、無理が過ぎるだろ、なぁ————アンナさん(、、)



 その翌日。

 目的を果たした私に、最早パーティーなどという催しに参加する理由もなく、それとなくすっぽかし、そして全てが終わり、領地に帰ろうかといったところで何故かストップがかかった。


 しかも、聞けば私だけが王宮に残れと両親に通達されたのだとか。

 それも、国王陛下直々の命であったのだとか。



 ……いや、待って。

 全く理解出来ない。

 意味が分からないから。



 そんな私の感情の整理がつくようにとゆっくり待ってくれる気は無いのか。

 全く、王宮に私だけを残して帰る事に躊躇のない薄情な両親の側、領地に帰るつもり満々だった私を何故か迎えに来てくれたクロは、それはもう最高に良い笑顔を浮かべていた。


 まるで、長年探し求めていた何かを見つけたかのような。

 目はきらっきらに光り輝いていて。


「明日からお前には、俺の側仕えをして貰う」


 まだ状況をうまく理解出来ていない私に向かって、クロは楽しそうにそう告げてきた。

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