第1話 付与術師の追放
私はピリア=メーテルリンク。少し特異な付与術師です。
この世界は、魔術によって栄えてきた。魔術によって世界が生まれ、魔術によって人は平和に暮らしてきた。
歴史を一つ語るならば、神代魔術を行使する5体の魔術神達がそれぞれ力を振るい、5つ大陸を形成したとされている。
私も付与術師として生を受け、ある日ひょんな事から魔術協会に入らないかとスカウトされた。
『魔術によって世界に安寧と幸福を』という使命を掲げ、日夜活動を続ける魔術の最高機関、私もそのフレーズに惹かれ、そのスカウトを承諾した。
付与術師の力を存分に振るい、世界の人々を癒し、支え、平和を見届ける毎日を送っていた。
そしてなにより私を拾ってくれた協会に対する恩を返したいが為にも、私は頑張り続けた。
……それなのに。
「君の付与術は危険すぎる」
「き、けん?」
ある日私は招集を受けた。
ここラクサーシャ大陸の高位魔術協会、そこの四天術師会議室に来てほしいと言われ、何か緊急事態かもしれないと思った私は急いでその場にかけつけた。
それなのに、やってきた私への第一声がそれだった。
ここ高位魔術協会は特殊な魔術を行使できる者が集まる研究所のような場所。
魔術が全てであり、魔術で繁栄を続けてきたこの世界における最高機関でもある。
私は特殊な付与術を使えるとして、そこにスカウトされていたのだ。
しかもそれを行使しえるだけの十分な魔力も持ち合わせているとして、四天術師と呼ばれる魔術師の頂点に君する四人の中に配属されていた。
私は協会に感謝している。山賊に集落を襲われ、身寄りが無くなり途方にくれってい所を拾ってくれた、その協会に。
尽くして、尽くして、尽くした。それなのに。
「ちょ、ちょっと待ってください。危険って…どういうことですか?」
「そんな物、自分が分かり切っているだろう!」
同じ四天術師のアーロスが苛立ちで机をたたく。
それに続くかのように、他の四天術師も反応をする。
「まったく、色々酷い目にあったぜ」
人の限界の封印すらも解除できるという封印系の魔術のスペシャリスト、ベリック
「自分で力を封じれるベリックでなければ、死ぬ可能性すらありましたね」
時の流れすらも止め、空気すらも操る事のできる空間系の魔術のスペシャリスト、フィリス
そして、アーロスに私、この4人で四天術師だ。
私は皆を信頼していた、向こうも共に助け合い、協力しあう仲間だと言ってくれた。
だというのに、何だというのだろうか? この状況は。
「先日、君の魔力を実験に使うとして、拝借しただろう? その魔力で君の付与術を再現したら……」
「し、したら?」
「ベリックが暴走してな」
「暴走!?」
身に覚えがなかった。今まで私がやった付与術全てに、そんな事一度もなかったというのに。
私の付与術はただの付与術ではない。それは、攻撃力上昇効果や状態異常解除効果等の小さな付与術だけには留まらない物。
物や生物、それらの持つ力、エネルギーを付与できるという物。勿論それを付与するには元となる媒体も必要になるのだが。
その媒体は付与する力を持つ生物の毛や唾液、物ならば破片でも全然問題ない。つまり、簡単にそれらを行使できる力を持っていたのだ。
「今までは鋼の硬度を人に付与する等していたが、生物は別だ。ベリックに実験で馬の力を付与してみた、結果どうなったか……」
「そもそも危険な話だと思ったのだ。人間以外の生物の力等、我らには計り知れない。故に、付与された結果その力に耐えられなかった。身体が言う事を聞かず、部屋中を走り回っては壁に激突。いやはや、怖かった怖かった」
「人間というのは、自分の力だけで精いっぱいだというのに。生物の力まで入れてしまっては」
「そういうことだ……俺達の理念は世界の安寧と幸福、理解してくれるだろう?」
「……」
要は私の魔術を行使すると安寧と幸福が脅かされかねない、そういうことだろう。
その言葉は確かに正論だった。そもそも私に魔術を教えてくれた母も『無暗に使うものじゃない。信頼できる相手に使いなさい』と言っていた。あれはこういう事だったのだろうか?
いやでもそれ以上に、信頼していた仲間にここまで責められるこの事実が辛い。
「そんな」
「よって、君の特殊な付与術は今後使用禁止、そしてこの四天術師の地位もはく奪、ここから出てってもらう」
「えっ!?」
「これは、上からの判断だ」
アーロスの言うこの実験結果が正しいのなら、確かに私は危険な存在でしかない。
動物の力を付与したとしても。
暴走を起こし、とんでもない被害を起こす。
……悔しいけれど、アーロスの言う事は正しい。
「で、でも、物の付与なら暴走はしなかったでしょ? それも私にしかできない、なら!」
「馬鹿野郎! 我らが欲していたのは動物の力、人間にはたどり着けないような未知の領域だ! 物の効果等、興味はない。そしてそれが危険な物として封じられた今、お前は、危険な力を持つ忌まわしき付与術師に他ならない!」
「植物の光合成、とかなら有用性はあるでしょうけれど」
「ま、地味だよなっ」
仲間たちから次々と地味とか何も変わらないとか罵声を浴びせられる。
私は何も言い返す事が出来なかった、これほど凄い力を持っているというのに。
何も、言えない。弁論すらできない。
私は、この魔術の世界には不要と判断されたのだ。
ただ、ひたすらに辛く、悔しかった。それ以外に何が言えるだろうか。
試したい。
試して、それは間違いだという事を証明したい。
でも、もしまた実験結果のように暴走してしまったら……そういう不安が、自分の身体を強張らせる。
なら、もう言うこともないだろう、私には何もできないのだから。
「分かったよ……荷物、まとめてくるね」
「ああ、素晴らしい判断で助かるよ」
「まあなんだ、色々世話になった、とだけは言っといてやる」
「上から目線ね、ベリック。ま、その方が今の彼女にはお似合いかもしれませんけれど」
「おいおい言ってやんなよフィリス! 可愛そうだろ」
「っ!」
拳を握りしめ、悔しい想いをぐっと抑えながら立ち去ろうとする。
でも、これで去れたならば、少しだけ自由に生きれるかもしれない。それだけは感謝すべきだろうが。
「ああそうだ、ピリア。君の行動、数日ばかりは監視させてもらうよ。いつどこで人を暴走させるか分かったもんじゃない」
「勝手にしてよ。じゃあね」
私は信頼していた過去の仲間に色々想いを募らせながら……
その二度と来ることのないであろう私の帰る場所を立ち去った。