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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クソニート野郎は異世界転生してもクソでした!呆れた神様は二人目を選び出す。最終的には勇者の称号すら失って王国を追放されるけどそれまで好き勝手やらせてもらうから!真面目な奴が馬鹿を見てざまあねえな!

作者: 安倍アキラ

Youtubeで「ニートを10年以上続けた末路」という動画や「あ〇ぽんの毎日」というチャンネル等を視聴している方は、なるほど!と共感してもらえるのではと思っていますが、このような作風は久しぶりなので、うまく描けているか不安です、因みによくある「なろうテンプレ」からはガッツリ外れた作品になっている為他のランキング上位にいるような冗長な作品は書けませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

 深夜2時、とある賃貸格安3階建てアパートの一室……カーテンから漏れる明かりの部屋以外、つまり何故か両隣、上下も灯りが見えない、カーテンも見えない為、(くだん)の明かりがついている部屋の上下左右1部屋分が空き部屋なのだろう、そのせいか外に居ても明かりの点いた部屋からは、やかましい音がよく聞こえる。

202号室、表札には「赤山」と書かれている、ドアに備え付けられた郵便受けには大量のダイレクトメールやら、パンフレットやらの郵便物……

そしてその傍には郵便受けに入りきらなかった大量の郵便物がうず高く積まれていた。


「〇〇さん、プレゼントありありがトン! という訳で、今日の配信は此処までにしようかな、チャンネル登録よろしく!」

男はそう言うと、慣れた手つきでPCのマウスを操作し、電源を切る。


「クソッ、ったく、うるせーコメントだな、なーにが『いい年してニートやってるんじゃねえ!』とか『2✕歳にもなって免許も無いとか恥ずかしくないのか?』とか『いつもダイエット宣言してるけど結局「チートデイ」とか「ハイカーボ」とか言い訳して爆食いして失敗してる糞豚』だと? そんなの俺の勝手じゃねえか!配信のネタにマジになってんじゃねーよ! 」


ドン!と机を叩く、安い賃貸ならここですぐにでも苦情が来るところだが、

前述の通りこの部屋の両隣と上下の部屋は空き部屋、もちろん以前は入居者もいたしインターホンが鳴って苦情を言われることも有った、だが何故かある日を境に苦情を言いに来ていた入居者は来なくなり、部屋も引っ越し業者によって片付けられた、そう言えばこのアパートの近くの踏切でサイレンが鳴っていた気がするが、気のせいだろう、十分に八つ当たりを済ませ落ち着きを取り戻すと男は冷蔵庫に向かい中から2リットルのミネラルウォーターが入ったペットボトルを取り出し、蓋を開けて直飲みする。


 元々赤山は実家暮らしで両親と一緒に暮らしていた、生放送というインターネット配信をやりながらバイトもやっていたが、

 生来の飽き性が祟ってどれも長続きせず、学歴も中卒の為、次の職がなかなか決まらない、おまけに資格も持っておらず、容姿は童顔……と言えば聞こえが良いが、風呂嫌いのため髪はボサボサで体型も長年の不摂生で醜く太っていた為、バイトの面接ですら落ちるという事も有った……

 

 そしてせっかく決まった派遣仕事も派遣先の上司とトラブルになり僅か2日で連続無断欠勤を行いクビになり、ネットライブ配信で、ある程度の収入を得ていたことを理由に職探しを放棄……遂に配信環境などを設定してくれていた親友からも絶交を宣言されてしまう。

 

 その後も、視聴者とオフ会の際にトラブルを起こし警察沙汰になり、ここに至って両親も我慢の限界が来た、家賃を肩代わりする形でアパートで独り暮らしをするように説得し、渋々赤山も了承、生放送による騒音で度々引っ越し、引っ越す度に賃貸のグレードを落として現在の安アパートでの配信に至る。


「んぐ、ぐふっ……ぷはー、さてと寝る前に軽く夜食でも食べるとするか。」

赤山はそう言って再び冷蔵庫を開け、買い置きしてあったコロッケとハンバーガー、ポテトを取り出す、飲み物は先ほどの水では無くコーラである

そして電子レンジで食べ物を温めた後、次々に胃袋に収めていく……。


目の前が真っ暗になり、赤山の意識がここで消えた、ありていに言えば「死んだ」のである


赤山は奇妙な空間で目を覚ましたことに違和感を覚える、周りは薄暗く、地面は雲の上にいるかのように靄が掛かっていてよく見えない、しかし何故か靴はちゃんと履いていて服も意識を失う前に来ていた赤いTシャツと黒のズボンだ、しかしここは何処なんだ?


「ここは最果ての世界、お前たちが言うところの【あの世】じゃよ」

赤山は声のする方へ向く、そこには灰色のローブを纏い、白いひげを蓄えた老人が立っていた


「なんだ爺さん、あんたは何もんだ?」

問われて老人は答える


「わしか? まあ、さしずめ神様ってところじゃよ。」

その答えに赤山は噴き出す


「プッ、ププププッ、ブフォア……神様ぁ!? マジかよ、じゃあ俺はどうなったんだよ⁉ まさか死んだとか言うんじゃねえだろうな?」


赤山の発言に少しも反応することなく【神様】は答える


「そのまさか、じゃよ、医者に忠告されているにも関わらず節制を怠り、あげく深夜に暴飲暴食を繰り返したからな、当然の事じゃろ。」


その言葉に反応する赤山

「……おい、なんでお前がそんなこと知っているんだよ、医者の話は配信で流したから分かるけど、深夜に食事をとった事は配信してねえぞ……まさかてめえ盗聴してやがったか?」


赤山の問いに【神様】は軽くため息を吐くと。


「やれやれ、しもべからいろいろ報告は聞いておったが、まさかこれ程とはなあ、こんなんで役にたつんじゃろうかのう……」


「はあ? 役に立つ? 何に?」


赤山には全く何を言っているのか理解できなかったが【神様】は構わずに話す


「これからお前を異世界に転生転移させる、本来ならば業が深すぎて人間に転生なぞ到底出来ぬのだが、現世での僅かな善行に救われたようだな、遺族である母親の願いも有るのでな、今回は特別じゃ。」

自称【神様】の話をほとんど聞いていなかった赤山だが「異世界に転生させる」という部分だけは、都合よくハッキリと聞き取っていた。


「異世界転生? なに? おれを勇者とかにしてもらえるの? 」


赤山の問いに【神様】は頷く

「そうじゃ、転生する先は剣と魔法、町から出れば怪物が徘徊する世界じゃ、その世界の勇者として特別に転生させよう、しかし、ただ転生するだけでは野垂れ死ぬ可能性もある、そこでお前に「特別な能力」を授けよう、一応お前は〈光の戦士〉という事になっておる、それにちなんだ

能力のリストじゃ、好きなものを選ぶがよい。」


そう言って【神様】は「能力一覧表」とかかれた紙を赤山に渡す。


「らいひかり……いしひ? 漢字が難しくてよく解らないもん、もっと分かりやすくしてよ!」


そう言って【神様】に一覧表の紙を突き返す【神様】は深くため息を吐くと


「一応説明も漢字で書かれているが、中学生レベルの漢字なんだがな……うーむ、まさかそこまでとは……わかった、お前の望む能力を授けよう。」

【神様】の言葉にパッと赤山の顔が輝く、そして少し考え込むと何かを思いついたような顔で言い放つ、それは中二病を拗らせた人間の典型ともいうべきものだった。


「話が分かるじゃん、じゃあ俺は「ブラック・スパーク」という技が欲しい。」


その言葉にぎょっとする【神様】、中二病を拗らせたネーミングという事では無く、明らかに〈光の戦士〉と矛盾するブラックという単語が飛び出してきたからだ……技名を聞いた感じから察すると『闇』の属性なのか? 


「……技名に『ブラック』とついているが、それはどんな能力だ?」


過去に意思疎通に齟齬が有ったせいで不満を返した勇者が居たせいか、慎重に聞き返す【神様】に赤山は胸を張り


「フン、これは光の波動が広範囲に広がる邪悪を滅ぼす最強の攻撃さ!」


そう言って得意そうに語るが、要するに「広範囲攻撃」である。


まあ、いいか。

本人が納得しているならこれ以上何か言っても無駄だろう【神様】は赤山に


「よいか、人々を導き、立派な人物となるのじゃ。」


「おー、任せろっ! (いやー俺が勇者ねえ……)」


【神様】は赤山の発言を聞き流すと、おもむろに杖を高く掲げる…と赤山の足元に魔法陣が現れる!それは次第に眩い光を放ち赤山を包み込む……光が収まると、そこには赤山の姿は無かった。


「う……こ、ここは、何処だ?」


 赤山は辺りを見回す、そこは洞窟の中の様だった、松明を持ったローブの男数名と豪華な衣装を身にまとった中年男性、そして同じく豪華な衣装を身に着けた金髪碧眼の若い女性が立ってこちらを見ていた、しばらく呆然としていたが中年の男性が声を上げた。


「おお、儀式が成功したぞ! これで我が国も救われる!」


その声にローブの人間も


「国王陛下、お喜びください、彼は神にえらばれし『勇者』のようです、これで魔王軍とようやく渡り合えますな。」


そう言って巻物を取り出すと「国王陛下」と呼ばれた男性に見せる、そして赤山の方に向かい声を掛ける。


「私はこのあたり一帯を治めるアイゼン・セージである、お主、名は何という? 」


問われた赤山はフッと髪をかきあげ……ようとして途中で指が引っ掛かり、そのままサッと引き抜いた後、何事も無かったかのように。


「俺? 俺はアカヤマ・イーポンさ神様に頼まれて此処にやってきたのさぁ~」


赤山もといアカヤマ・イーポンは精一杯格好つけて見せた、だが彼は知らなかったのだ

容姿は転生前のデカいままだったという事を、一瞬静まり返る、そして金髪碧眼の女性がこらえきれず噴出した


「プッ、あはははは! ……あ、失礼しました、その、なかなか面白い方ですのね勇者様は、申し遅れました……私ロウラ・セージと申します。」

そう言ってお辞儀をするロウラ姫。


アカヤマ・イーポンはさっきの笑いは誉め言葉とポジティブに受け取り


「ありがとうございます、それでその、お願いがあります」


アカヤマ・イーポンの言葉にロウラ姫は


「ああいっておられますが、どうしましょうお父様。」

と国王に判断を仰ぐ


アイゼン国王は顎をしゃくりながらしばし考え込むが、フムと頷き

「よかろう、申してみよ」

とアカヤマに発言を許可する。


そしてアカヤマ・イーポンは答えた


「この世界を救った暁にはそこの姫様を頂きたいのですが。」


この発言に周りにいる側近と思しきローブの男から


「この無礼者! 良くもぬけぬけと…まだ何の成果もあげておらぬ貴様に姫様をだと? 」


だが国王はローブの男を制止すると


「ふむ、ロウラは大切な一人娘、軽々しくやるわけにはいかん、が、一応覚えておこう、だが世界を救うというあいまいなものでは無い……この国に侵攻して来ている魔王軍、そしてそれを統べる魔王を倒してくれたら考えても良い。」


そう言って踵を返すと


「誰か! 宝物殿に案内せよ! この者に勇者としてふさわしい装備を与えるのだ!」

側近は素早くアカヤマ・イーポンの周りに集まりアカヤマは先導する側近に促されその場を後にする。


召喚の間に残った国王と姫……先に不安を口にしたのはロウラ姫だった

「お父様……本当にこの国は救われるのでしょうか? 私はなんだか嫌な予感がするのです。」


「今は、信じるしかあるまい、幸い勇者の護衛を志願する者も多い、魔王を倒せるのは勇者しかいないという古の言い伝え通り、我々では太刀打ちできぬのだから。」


そう言って姫を諭すアイゼン国王

「お父様が、そうおっしゃるのであれば」

そう言って先ほどアカヤマが出て行った扉を見つめていた。


こうして勇者として異世界転移した赤山はアカヤマ・イーポンと名乗り、護衛として戦士と魔法使い、神官がパーティに加わった、因みにアカヤマのたっての希望で彼の護衛は全て女性で編成された、そして王都の民衆の声援を受け(社交辞令)、彼の冒険が始まった…


― 冒険初日から数日の話 ―

王都から出発した勇者アカヤマ一行の旅は順調そのものだった、街道で出くわした野党団などは戦士がたやすく蹴散らし、うち漏らした野党も魔法使いの攻撃魔法で瞬く間に無力化していった、その間勇者アカヤマは何をしていたのかと言うと……


「ん~~~~っ、やっぱり神官ちゃんの膝枕は気持ちいいなあ~。」


アカヤマは自分の出番がない事を悟ると女神官に膝枕を要求した、神官は後衛として戦士と魔法使いに回復魔法をしなければならないのだが、アカヤマの要求する膝枕をしていたのでそれが出来ずにいた。


「あの、私も一応護衛として働く義務が有るので、戦士さんに回復魔法をしたいのですが……」


と要求するがアカヤマは


「え~? 大丈夫だよぉ、戦士ちゃんは強いしぃ、今だって余裕で敵を倒してるでしょ? 戦闘が終わってからでも回復できるんだから、もうチョットこのままでいてほしいなあ~。」


ねっとりとすがるアカヤマの言葉に多少の、もとい全力で寒気を感じながらも、作り笑いで

「は、はあ、勇者様がそうおっしゃるのであれば……」

そう答えるしかなかった。


その後、夕方頃に無事勇者アカヤマ一行は最初の宿場町にたどり着いた、早速宿を予約しここを拠点に活動を開始するために各々が動く、神官は神殿に祈りを捧げに行き、戦士と魔法使いはそれぞれのギルドへ向かう、アカヤマは留守番である。


 「ん~~~~~っ、退屈だなあ、せっかく神官ちゃんとイイ事しようと思ったのにぃ! 」

 

 と、しばらく部屋で呆けていたアカヤマであったが、下の酒場に向かいカウンターで飲むことにした、酒場には若い給仕(女)が忙しく働いていた、アカヤマはその女給仕を観察する、接客業をこなす給仕の体は二の腕に筋肉がついているものの、そのプロポーションは中々であり特にアカヤマは給仕の胸を凝視していた、アカヤマの視線に気が付いた給仕は注文が有るのかと思いアカヤマに近づく


「お客様、ひょっとして冒険者の方ですか? この辺りではあまり見ない顔立ちですので。」


アカヤマは得意そうに「ブフウッ」っと鼻息を吹き出し


「フフン、そう見えるかい? 実は僕は勇者なんだ、まあ今は旅を始めたばかりだから色々調べている所なんだけどね……」

実際に情報収集をしているのは戦士や魔法使い、神官なのだが、給仕はそれを知る由も無いので


「へえ~大変なんですね! ところで追加の注文はありませんかぁ? 」

と軽く流して注文を聞く、それに対しアカヤマは給仕の手を取り


「ああ、あるよ……今夜一晩、僕とどうだい? 金ならここにあブフッ! 」


露骨に給仕を誘おうとしてたが、ちょっと前にギルドから帰ってきてた女戦士にぶっ飛ばされた、給仕のナンパ? に集中していたアカヤマは不意を突かれてモロに戦士のビンタを喰らう


「な……なにすんだよぉ」

頬をさすりながらアカヤマは苦情を言うが


「何すんだよ……じゃないわよ! アンタ給仕にちょっかいだして何するつもりだったのさ! 仮にもこっちは陛下の命を受けて旅に出てるんだよ? 余計なことをして国の名誉を傷つけたら承知しないからね! 」


女戦士の剣幕に押されて、ようやく反省の態度を見せるアカヤマ


「……わかったよ、今度からは気を付けるから。」


その言葉にやれやれといった表情でアカヤマをみる女戦士、だが直後にアカヤマが


「プウゥゥゥゥゥ……」

とふくれっ面をしたため


「キモッ!」

っと思わず漏らしてしまった……女戦士は実に正直である。


 その後、魔法使いと神官も宿に合流、その日の晩は何事も無く終了した。


 翌朝、惰眠をむさぼる勇者アカヤマを

「オラァ! とっとと起きろこの糞豚! 」


 と戦士が叩き起こし、手早く支度を済ませると一行は宿場町を出て森に向かっていった、

事前に女戦士がギルドで仕入れた情報によると、この近辺の集落が怪物に畑を荒らされて困っているとの事、本来は傭兵を派遣して調査するべきなのだが、戦時下故にギルドも町の護衛で手いっぱいで部隊を派遣する余裕が無い為、酒場の冒険者ギルドに依頼するという形で引き受けることになったのだ。


 道中で怪物に遭遇することも無く、一行は無事依頼元の集落に到着、畑はそこそこの広さが有ったが一部食い荒らされた場所があり、どうやら怪物が夜に侵入しているらしいという事が村長の話から判明した、勇者一行は畑のすぐそばで野営をし、怪物を待ち構える作戦に出た、

だが野営の最中に勇者アカヤマがまたしても神官に膝枕を要求、渋々神官が受け入れるとアカヤマは早速やらかす。


「ちょっ、ちょっと勇者様!? どこを触っているんですか!」


アカヤマは膝枕だけでは物足りなくなったのか、神官の太ももをまさぐり始める、が


「オイィッ! 勇者さまよお、何やっているんだこの糞ブタがっ! 」


と、ダッシュで駆け付けた女戦士がアカヤマの腹を思い切り蹴りとばす……が脂肪によって数度ブヨンッとバウンドし、手ごたえがあまり無い……なので戦士はアカヤマの胸倉をつかみ締め上げつつ、往復ビンタを二、三発お見舞いする。


「い、痛い! ちょっとぐらいいいじゃんか! 僕は勇者だぞ! ただ冒険で荒んだ日常にやすらぎを求めただけじゃんか! 」

とアカヤマは反論するが、安らぎ=セクハラの図式が理解される筈も無く


「勇者なら勇者らしい振る舞いをしろって言ってるんだ! 」


女戦士は腕を大きく振り被り、更にもう一発ビンタを喰らわす、一方神官は


「戦士さん! もう大丈夫です! だからあまり乱暴をしないでください、彼も反省しているようですし、わが父も寛大な心で許すようにと言いますでしょうから……」


そう言ってはいるが、その神官が若干涙ぐんでいることを戦士は見逃さない


「あんたがそう言うんなら、はあ……それにしても糞ムカつくねえ! いいかい? 今度また同じことをやったら、次は容赦しないからね? 」


と勇者アカヤマに念押しする女戦士


「わ、わかった、もうしないもん! 神官ちゃんごめんね。」

許しを請うように戦士にコクコクと頷くとアカヤマは神官に謝罪する、神官もそれを受けて


「……わかりました、もう二度とこのような真似はしないと、神に誓うのであれば。」

とアカヤマを許すことにした


「じゃあ、また今後も膝枕やってくれるかな? 」

というふざけたアカヤマの要求だが


「はあ、まあ、いいですけど……」

と神官は渋々了承した


因みに依頼自体は滞りなく完了し、畑を荒らしていたコボルトは二度と畑に近づかなくなったという、依頼を無事に済ませた一行は村でもてなされた後、一晩を過ごし(当然だがアカヤマは寝床を隔離された) 翌朝、拠点の宿場町へ戻っていった…


― 冒険開始から二か月後の話 ―

 

 あれから街道沿いに依頼をこなし、いくつもの宿場町を過ぎていった勇者アカヤマ一行、何度となく道中で困っていた人たちを見かけると神官が助けようとしたが、アカヤマが


「今は魔王討伐の為、急ぎの旅なんだ……あ、あまり細かいことに時間をかけてはいられない、まあ、可哀想だけど……この件はギルドに伝えて冒険者を派遣してもらおう、僕たちは先を急ぐ」


と言って渋々女神官が納得し通り過ぎることにした……そして大きな出来事と言えば、巡礼の旅に出ていた他の神官からの情報で、伝説の盾が納められている神殿に向かう事になったのだが、宝物庫の封印を解除する最後の試練で、神官から試練の解き方を事前に教えてもらっていたにもかかわらず、


「うう~ん、確かこうで……あ、あれ? 違う? うう~……実力は有るのに知識で負けたあ! 」


 と、まさかの勇者アカヤマが失敗し、宝物庫の探索を断念、その後の旅路で、あれ程戦士から厳重に注意されていたにも拘わらず、神官に対しアカヤマはナニの交渉を要求し、当然断られたアカヤマだが、あろう事か真夜中にコッソリ寝所に侵入し、寝ている女神官に無理やり手を掛けてしまったのだ、この件で我慢に我慢を重ねた女神官も流石に限界に達し


「……わが父がいくら寛大でも、私自身がもう耐えられません!」


そう言うとパーティーを離脱してしまった事だ、この一件で重要な回復役が欠けてしまったため、王都から交代要員として神官が新たに派遣された、因みに新たな神官の性別は男である……これによりアカヤマの記憶からは男神官の存在は無いものとして、その後進んでいくことになる、アカヤマの甘える対象は神官から魔法使いに替わり、魔法使いをかばうために戦士も渋々(毎回の往復ビンタとセットで)アカヤマの比較的軽い要求に応じる事になった……そのせいで男神官は女戦士と女魔法使いの愚痴をこの後、事ある度に聞くことになるのだが。


 それから数週間が過ぎたある日……道中のとある宿場町で、神官はいつものように神殿へ、戦士と魔法使いはそれぞれのギルド支部へ行き情報収集を行うことになった、この頃になるとアカヤマだけ特別な部屋を予約し(隔離)、他はそれぞれ個室を予約、昼間は情報収集、夜は一階の酒場で作戦を立てるというのが習慣になっていた、そしてその日は戦士をはじめとする護衛達は王都へ報告するために各施設で書類をまとめる為に宿に戻るのが遅く、一方のアカヤマは王都からの手紙と支援金を伝令兵から受け取ると、軍務大臣からの報告を兼ねた小言が記された手紙を一瞥すると自分の部屋にある荷物入れに無造作に仕舞い込み、支援金片手に一階の酒場で昼間から飲み食いをしていた。

 

 アカヤマが一階で鳥のから揚げやら肉料理やらを貪っていると、そこに別の冒険者パーティーが酒場の主の元へやってきた、編成は戦士男、魔法使い男、神官男、盗賊女、狩人男という5人編成の冒険者たちだった、アカヤマは依頼完了の報告をしているらしい、その冒険者たちをボーッと眺めていたが、その中の女盗賊に注目した、華奢な体だが出るところは出ており、バランスの取れたスタイルはスレンダーというのが似合う身体つきであった、顔も若く張りがあり、どこか幼い感じの顔がまたアカヤマの欲望を増長させた。


 「ンフーーーッ! ブフーーーーッ! う、落ち着け、我慢だ……俺はやれば出来る男なんだ。」

 アカヤマは彼女が一人になるまで辛抱強く待ち続け、ようやくパーティーが解散となり、男たちはそれぞれの部屋に戻っていき、女盗賊だけがカウンターで酒を飲んでいる所を確認してからアカヤマは彼女に近づいた。

 

― 愛? いいえ情欲です。 ―


 女盗賊はカウンターで飲んでいたが、近づいてくる湿った荒い鼻息に気が付いた、女盗賊はその男を注意深く観察する。


 年は……童顔っぽいが恐らく相当いっている、30? いや40代ぐらいか? いい年して若作りとは……へぇ、装備は以外にも豪華だな、小柄で異様に太い胴回りという特殊な体型に合わせて創られている所を見ると、特注品の甲冑か、頭は流石にカバーできなかったようだが…剣は片手剣ね、盾も有るけど背負っている所を見るとあまり使わないのかしら? 


 そういえばさっきから妙に臭いんだけど……もしかしてこの男から? うわぁ……依頼で護衛とかやらされたら拒否するわ、絶対、確実に……ってなんかコッチに近づいてきてる!?


「あ、あの、アタシになんか用? 」


凄まじい悪臭に動揺をしつつ、思わず、そう口にする女盗賊、既に眉間にしわが寄っているが、なんとか引きつった愛想笑いを浮かべる


そんな相手の表情など構わず、その問いを待っていたかのように精一杯格好つけて勇者アカヤマは答える

「ああ、そうさ……おっと、名乗るのが先だったねえ……僕の名前は勇者アカヤマ・イーポン、国王陛下の命を受けて魔王討伐の旅をしているのさぁ。」


そういって髪をかきあげようとして、途中で引っ掛かり、慌てて髪をいじるしぐさに切り替える勇者アカヤマ……傍から見ると、ちょっとカッコ悪い。


その答えを聞いた女盗賊は『嘘ならもうチョットマシな嘘をつけよなこの豚が』と思いつつも引きつった笑顔で


「へえぇ、凄いんだ、で? その勇者様がこのアタシに何のようだい? 」


そう言って少しばかり睨みつける、がアカヤマは全く構わず続ける


「ああ、用事というのはだね、キミを一目見た時から運命を感じたんだ、僕と一緒に魔王討伐の旅に来てくれないか? もちろんただとは言わないよ、先ずは手付金として金貨5枚でどうだい?」

 そう言ってアカヤマは先ほど手に入れた支援金の入った革袋から金貨を取り出しカウンターテーブルに5枚並べて見せた、それを見て女盗賊は目を丸くする。


「え? まさかこれ、王都で発行している通商金貨? 」


一枚手に取って鑑定を始める、国境付近の街では偽造金貨も頻繁に出回っている為、金貨のデザイン自体はよく見ていた、だがこの金貨は偽造金貨にありがちな砂目や刻印の薄さといった特徴は見当たらない、縁に窃盗防止の溝が刻まれている所からすると王都の造幣工場で作られた本物のように見える、って事はこの男が【勇者】ってのもあながち嘘では無いって事か? でも何で自分に声を掛けた? 腕利きの盗賊なんて王都にだってゴロゴロいたはずなんだが。


「ふーん、あんたがこのアタシの腕を見込んでんのかい? でも腕利きの盗賊なんて他にもいたと思うんだけど、それに運命って何? 意味が解らないんだけど。」


そう答える女盗賊に対し勇者アカヤマは


「ああ、ちょっとくさい言い方になったかな? じゃあわかりやすく言うよ、君のその綺麗な姿に惹かれたんだ、一緒に来てくれないか? 出来れば今夜にでも今後について話がし」


アカヤマが言い終わる前に女盗賊は答えた

「はあ? なに、じゃあ盗賊としての能力じゃなくて単にアタシの体が目当てだっていうのかい? ふざけるんじゃないよ! あんたがどんなに偉くたって絶対に一緒になんてごめんだよ! さあ、解ったならさっさとおうちに帰りなボウズ! 」


そう言って席を立つとバンッと酒の代金をカウンタテーブルに叩きつけて二階へ上がっていってしまった……呆然とする勇者アカヤマ、と周りの客がクスクスと笑っていた、なけなしの勇気を振り絞ってナンパをしたが、見事に振られたことを悟ると赤面したが、同時に


「クソッ、クソッ! ウ~ッ、下手に出ればつけあがりやがって……そうだ! ……ウヒヒ。」


アカヤマは手早く金貨をしまうと自室に戻っていった、夜、護衛のメンバーはそれぞれのギルドで報告書をまとめなければならないという事で帰ることが出来なかった、その為誰もアカヤマを止めることが出来ない、そう、()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


深夜、女盗賊の寝室、彼女は何か背筋に寒気を感じた為、部屋に戻った際、扉に罠を施してあった、不用意に開ければ麻酔針が飛び出して相手を眠らせるというものだ、だから女盗賊は安心してベッドに横たわっていた…誰かがドアノブを回し始める、ガチャリ……と、ここで仕掛けた罠が作動する


「痛いっ! なんだ、ただの針か……」

侵入者は構わず中に入る、麻酔は何故か効いていないようだった、そして寝息を立てる女盗賊の口を手で塞ぐ


「むぐっ!? ウーッ! ムーッ! 」 

瞬間盗賊は目が覚めて何とかして手を剥がそうとする、が物凄い力で引きはがすことが出来ない、懸命に藻掻きながら侵入者の顔を確認しようとする……


 そして女盗賊の顔は恐怖に変わる、侵入者はあの時にナンパしてきた勇者アカヤマだった、そのアカヤマは既に衣服を脱ぎスッポンポンの状態で盗賊の服を剥ぎ始める、女盗賊も必死に抵抗するが、皮肉なことに【神様】の加護を受けたアカヤマの体は、いかなる打撃も、そして薬品などの攻撃も一切効果が無かった、例外として『魔法』は通用するが、彼女が魔法を使えない職業の【盗賊】だと見定めたうえで、勇者アカヤマは狙っていたのだろう……おおよそ勇者というよりはゴブリンのような下衆で厭らしい醜悪な笑みを浮かべながらアカヤマは盗賊の華奢な体をペタペタと触りながらこう言った


「おっと、あとで妙な真似はするんじゃねえぞ? おれは国王陛下から命を受けた勇者だからな、訴えたって逆に追われるのはお前なんだぜ? 解ったら大人しくするんだな…」


そう言われてしまうと女盗賊にはもう抵抗するすべは無かった、手は女盗賊の鼠径部に達する


「ううっ……畜生……畜生っ! 」

 絶望に打ちひしがれ、悔しさに涙を浮かべながらも、自決だけは何とか踏みとどまった女盗賊の心の強さは歴戦の戦士にも引けを取らない立派なものであった。


「ふうっ、やったぜ! コレで俺も童貞卒業だ! 」


そして夜が明けた。


 翌日、夜に依頼の報告に来ていた冒険者一行は朝早くに別の街へ向かって旅立ったそうだ、護衛の面々はと言うと、諸々の報告を終わらせて先ほどようやく宿に戻ってきた、丁度そこへ妙にサッパリとした顔のアカヤマが声を掛ける


「やあ、報告お疲れ様! 今日のところはゆっくり休んで、明日にでも出発しようか!」


……不気味なほどの清々しさでそう提案する勇者アカヤマ、護衛の面々は一体どういう事かと疑問に思ったものの、アカヤマの提案に賛成した、ただ、あからさまに不審な行動に女戦士は何かを感じたらしくアカヤマが部屋に戻っていったのを見計らい、酒場の主に聞いてみたところ……前日の夜の事、そして早朝に旅立った冒険者たちからアカヤマが深夜に行った事を訴える書簡を預かっていることを伝え、女戦士はその書簡を受け取った。


「あの糞豚、とうとうやりやがったね、もう我慢の限界だ! この落とし前は倍にして返してもらうからね…… 」


女戦士はギルドに再び向かい、書簡と追加の報告書を軍務大臣宛に纏めて伝令に渡し、宿に戻っていった。


その後、勇者アカヤマ一行は魔王軍との最前線基地である要塞に向かい主力部隊を編成、魔王城へ向けて進軍を開始する、途中の魔王軍の砦を幾つか落とし、順調に進軍していった……。



その数ヶ月後、赤山もといアカヤマ・イーポンは魔王軍との戦争の最前線に居た、特注で作られた魔法の鎧は人間とは思えぬ低い身長とあり得ないほど横に広がった腹をすっぽりと納めていた、実は鎧の制作にあたり、アカヤマのかなり特殊な体型に職人たちは頭を抱えて悩んだが、持ち前の技術によって見事に鎧製作を果たした。


それはさておき、意外なことに戦況は人間の軍勢が魔王軍を圧倒し居城の一歩手前まで押し込んでいた、しかし損害も少なくなく、特に勇者が放つ「ブラック・スパーク」の巻き添えを喰らって前線の兵士たちが多数負傷、勇者が上げる戦果以上に軍の消耗も激しかった、兵糧に至っては本来兵士が食べるハズだった糧食を勇者アカヤマが無断で奪い、それに腹を立てて退役を志願する兵士たちを軍務大臣直属の側近が報奨金の増額という形で抑えた為、戦費も予想していた通常の戦争より嵩んでしまっていた、事態を重く見た側近は密かに早馬を走らせて国王に報告する。


 国王も最初はしばらく様子を見るように周囲に説得していたが、あまりの苦情報告の多さに勇者アカヤマの行動を不審に思い、内務大臣や軍務大臣と協議を重ねた結果、前線の勇者には内密に、例の洞窟で再度『召喚の儀式』を行っていた、そしてそこから現れたのは「犬川勇(イヌカワイサム)」という精悍な若者であった……


彼の先祖は南房総半島を治めた大名、里見家の重臣【犬川荘助 義任】の家系で、本流では無かったものの、古の八犬士の名に恥じぬよう文武両道を常とし日々研鑽に励んでいた、彼は義に厚い性格が災いし暴漢から女性を守ろうとして身を挺して庇い、打ちどころ悪く命を落とすが、【神様】によって見出され、この地に転生転移されたもう一人の『勇者』なのである。


 因みにこれは全くの余談ではあるが【神様】曰く

「世界に勇者が一人だけなどと決めた覚えはない、だが理由なく勝手に人間の寿命を縮める訳にもいかないので、適任者がおらぬか待って居た。」

とのこと。


 勇者イサムは回復魔法と魔法剣を自在に操ることが出来た、国王は彼にも宝物個から装備などを与えようとしたが、これを断る


「ご厚意は感謝いたします、ですが自分の装備はそれにふさわしい力を得てから探すことに致します」

 

 と言って簡素な装備を購入、護衛として重戦士、神官、狩人が彼のパーティーに加わり、彼のたっての希望で早朝、王都の声援を受けることを避けるように静かに旅立っていった。

 

 彼は行く先々で前の勇者が怪物退治の際にやらかした後始末や、相手が女性ではないという呆れた理由で見捨てた旅人達を救って行き、先発隊であるアカヤマの後を追う、そして


「んー! もう! 難しいから他の手を探すもん!」

と勇者アカヤマが言って避けてしまった神殿や迷宮の謎をイサム一行は難なく解決し、魔王を倒すことのできる伝説の武具を手に入れていたのだった。


― 義の男 ―

 ある日勇者イサム一行は、とある宿場町で先発隊の勇者アカヤマが宿泊先で冒険者一行の女盗賊を襲ったという情報を伝令から知る。


 「くっ……なんて酷いことを……よし! みんな手分けして、その冒険者達を探すんだ、ここの近辺には村もそれほど多くは無い……ならば、まだそう遠くには行って居ないはずだ。」

 

 勇者イサム一行は、すぐに件の冒険者達の行方を捜すことにする、勇者イサムのパーティーメンバーである狩人が盗賊ギルドにツテが有るという事だったので被害者である女盗賊の所在を探し、数日後に面会を求めた……だが、女盗賊は訪ねてきた相手が勇者と知ると恐怖から頑なに面会に応じなかった為、やむなくイサムは神官に仲介を頼み彼女の身の安全の保障と元凶である勇者アカヤマに必ず償いをさせると女盗賊を説得、加えて盗賊ギルドでの身分の保証も確約した上で、勇者イサムが再度直接女盗賊のもとへに会いに行く。


戸口で勇者イサムは、中に居るであろう女盗賊に向かって話しかける


「先発隊である勇者アカヤマの件については本当に申し訳ない、同じ勇者として恥じ入るばかりだ」


「……」

 扉の奥、女盗賊は勇者イサムの話を静かに聞いていた、言い返したい気持ちも有った、だが言うべき相手は彼ではないことを理解していた彼女は、彼の真意を探るべく、彼の主張を最後まで聴く事にした。


落ち着いてゆっくりと、勇者イサムは話を続ける


「そして虫の良い話だという事は承知の上でお願いしたい事が有る……君は王都から何故腕利きの盗賊を仲間にしていないか疑問に思っていると思うが、実は王都の盗賊ギルドやその人員は市内の治安維持や前線の偵察部隊への従軍で手一杯だったため、探索に必要な人員が不足しているんだ、仲間の狩人も偵察に長けているが、遺跡探索に必要な罠解除などは不得手なため、君の力を貸してほしい……確かに、あんな事が有った後で信用など出来ないのは君に言われるまでも無く充分理解している、だが敢えて……魔王討伐までの間だけでも、どうか協力してもらえないだろうか? 」


そう言って頭を下げる勇者イサム


 どれほどの時間が経ったのか、しばらくすると女盗賊はゆっくりと扉を開けイサムの前に立つ、数分の沈黙の後、女盗賊は口を開く

「アンタはあの糞豚と違うのかもしれないが、あたしはまだ全部アンタの言葉を信用したわけじゃない、信じるに足る人間かどうか、じっくり観察させてもらう。」


「ありがとう、今は、それだけで充分だ。」


 こうして女盗賊は勇者イサムのパーティーに加わった、道すがら行商人や旅人から話を聞くと、勇者アカヤマが魔王城付近で陣を張り、攻撃のタイミングを計っていることを知る。


「アカヤマという男は、一応勇者としての力を備えているようだな……だが、あの性格では思うように進軍は出来ないだろう、我々も旅を急ごう。」

勇者イサムの言葉に仲間たちは頷く


 その後、魔王軍の影響で怪物の襲撃に悩まされる街などを次々と救い、ある古代遺跡の探索の中で勇者イサムの一行は、思わぬものを発見した、その後宿場町に到着するとイサムはすかさず駐屯している兵士に伝令を依頼する


「すぐに前線の部隊へ連絡するんだ! これで魔王城への侵入も確保した……待って居ろよ、魔王。」


場面は切り替わって再び魔王軍との戦場。

 

 最前線の野営地にて、陣幕を張り側近と勇者アカヤマ、そして護衛についていた女戦士や女魔法使い達が集まり、魔王城攻略のための軍議を開いていた……が、案の定アカヤマが愚図りだした。


「うーーーーん、僕チャン難しい話はサッパリ分からないモン、だから皆でいい作戦が出来るまで僕は休んでるから。」

 そう言い残し、始まって一刻もしないうちに自分のテントに戻ってしまった、側近らが呆れつつも護衛達とともに協議を重ねていく、話し合いが煮詰まり、時間だけが過ぎていったが、しばらくすると伝令から一通の手紙が届いたと報告が有った。


送り主は勇者イサムの護衛についていた重戦士からだった、その内容は


「魔王城内部に潜入出来る【門】(ゲート)を発見、部隊を編成し折を見て突入する為、その時が来るまで無理攻めは避けるようにそちらの勇者に伝えてほしい」

 

 という事だった、この知らせを受けた側近と護衛らは直ちに伝令を走らせて前線の部隊に共有させた、しかしアカヤマに対する対処疲れと軍議による疲労からか、アカヤマ本人には直ぐにこの話は伝わらなかった。


 そして翌日、昼過ぎになってようやく起きてきた勇者アカヤマに護衛である女戦士が昨日の伝令の話をする、文面にはもう一人の勇者であるイサムの事については触れていなかったため


「魔王は勇者でなければ倒せない」

という話を都合よく思い出し


「あのねー、そんな作戦じゃ絶対に失敗するモン、ボクが直々に突入部隊を編成するからついてきて」


というので慌てて女戦士は

「あの! 部隊の編成はこちらに任せてもらってよろしいでしょうか? ただ今日すぐに突入という訳にはいかなくなりますが……」


と意見する、アカヤマはいつものような口調ではない女戦士に少し違和感を持ったが、寝起きで頭が働いていなかった為、女戦士の意見に多少不服そうな顔をするが概ね了承する

「ん~? まあ、いいけど……じゃあそれまでに十分休んでおきたいもん、魔法使いを呼んできてもらえない? 出撃まで甘えさせて欲しいんだもん♪」


という発言に女戦士はいつもの口調に戻る

「うっ……またか? あのなあ……以前から何回も何回も何回も何回も! 繰り返し言っているが、あんまり乱暴なことはするんじゃないぞ。」

 

 と念を押して呼びに向かっていった……もちろんアカヤマがそんな忠告を聞くハズも無く、その翌日に側近の元に女魔法使いが泣きながら訴えに来た為、アカヤマを呼びつけて往復ビンタと共に厳重に注意した、その際にアカヤマが「ごめんなチャイナドレス♪」などとふざけたことを言ったため、更に怒りの鉄拳と説教を喰らったのは言うまでもない。


 そして勇者イサムの護衛からの伝令で

 「王都から精鋭部隊到着、魔王城内部に突入を始めるため、魔王城周辺にて陽動を願う、そちらの伝令が陽動開始を伝えに来たのを受けてから突入する。」

 

 という情報を受けた側近と勇者アカヤマの護衛は、直ちに出撃体制を整えて陣幕を畳んだ、これよりは騎乗で彼らは指揮を執ることになる、一方勇者アカヤマはまだ惰眠をむさぼっていたが女戦士にたたき起こされてようやく動き始めたが、ここでアカヤマが女戦士の胸元に縋り

 

「う~ん、出撃前に慰めてほしいもん」

などと言ったため、盛大にビンタを喰らい


「そんなに怒らなくてもいいのに……」

と愚図りながら支度を始めた。


 多少の遅延(主にアカヤマが原因)が有ったものの、準備は整い、側近の出撃命令とともに陽動作戦が開始される、部隊は大きく翼を広げたように陣形を組み、両翼から攻撃が開始された、と魔王城の城門が開きオークを中心とした歩兵部隊が両翼に展開、迎撃に向かってきた、そこへ中央で陣を張る勇者アカヤマの率いる(正確には護衛の女戦士が指揮している)部隊が城門目掛けて突撃、そこに大盾を持ったオーガ部隊が現れ行く手を遮る、そのすきに城門は閉じられてしまった、だが後方に控えていた魔法部隊が【メテオ】や【ファイアーボール】などで射撃を開始、魔王城も結界を張り攻撃に耐える、一連の動きを見計らい、側近は伝令を勇者イサムの元へ走らせた。


 戦闘開始から1週間が経過、陽動部隊はその名の通りに自在に部隊を押したり引いたりを繰り返し、敵の注意を引き付けていた、たまに空気を読まない勇者アカヤマが


「ブラック・スパーク!」


「ぐわぁっ! 」

「ギャアアアアアアアア! 」

「馬鹿野郎! 俺たちは味方だ!」

「畜生! 何であんな奴が勇者なんだ⁉ 」


 と敵味方を巻き込んで被害を増加させてはいたが、概ね作戦通りの戦況であった、そしてその夜の事、魔法使いの寝床が有る野営テントから物凄い音が鳴り響く、突然の騒音に辺りから


「なんだ? 敵襲か!? 」

 という声とともに兵士たちが駆け回る、だが外からの敵襲では無く見張りからも敵城から部隊が出撃した形跡は無かったとの報告もあり、なにかの誤報、という結論に達してその夜は収まった、しかし……その翌朝。


「もう我慢できません! 残念ですが、ここで私は前線を離脱させてもらいます! 」


 そう言ったのはアカヤマの護衛を務めていた女魔法使いであった、彼女は護衛としてアカヤマと旅を始めた直後から、同じく護衛としてついていた女神官共々宿場町の酒場で絡まれたり寝室に侵入されそうになったため、結界を張って防御したりと、勇者アカヤマのセクハラにじっと耐えてきたのだという、もちろん女戦士も同様のセクハラはあったのだが、こっちは明確に反撃をしていた為、途中離脱した女神官の件もありセクハラの頻度は女魔法使いに偏っていった。


 女戦士は常に魔法使いの愚痴を聞き、なだめていたという、無論女戦士は魔法使いから報告がある度にアカヤマにビンタ+説教をしていたらしいのだが、当の本人は


「あ~はい、はい、わるかったって、そんなに怒る事無いじゃん」


 と全く話を聞いていなかったという、そして先日、あれだけ厳重注意を受けていたにも関わらず、女魔法使いの寝室が有るテントに侵入し、仕掛けてあった【警報】の魔法が発動、アカヤマは慌てて自分のテントに戻っていったが、いよいよ身の危険を感じた女魔法使いは側近に前線からの離脱と暇を訴えてきたのだった。


 この事態を深刻に受け止めた側近は彼女の訴えを受け入れた

「分かった、国王陛下にはこちらから伝えておく、直ちに貴国の準備をすると良い」

 

 だが、万が一のことも考えて側近は軍務大臣名代のサインを記した書状を彼女に渡し、馬車を手配して帰国させた、幸いにも丁度本国王都から新たな魔導部隊の指揮官が着任していた為、戦力的な問題は無かった、魔導部隊を率いる魔法使いは男だったので、これでしばらくは大人しくなるだろうと側近は安堵していた……後にそれが全く大きな誤りであったことを思い知らされるのではあるのだが。



そして陽動作戦開始から2週間が経過する頃、突如魔王城から狼煙が上がった、伝令からその報告を受けて陽動部隊偵察隊は再度確認、狼煙が次々に上がるのを確認したのち歓声が沸き起こった、勇者イサムが激戦の末に魔王を見事打ち倒し、ここに戦争が終結したのである。


― 戦後処理 ―

 前線部隊にもう一人の勇者イサムとその護衛達、そして王都から派遣された精鋭部隊が合流した、全軍は魔王城の占拠を開始、非戦闘員や力の無い魔族は開放し城内の宝物庫を次々と開放していく、また城内に囚われていたこちらの捕虜も併せて開放、聖職者たちによる浄化の魔法で安全を確保したのち、魔王城内で戦勝の宴が開かれた、簡単ではあるが功績のあった者に褒賞を与えるために本国から国王の名代としてロウラ姫、そして軍務大臣と直属の近衛騎士団が姫の護衛として随伴して来ていた。


【恥の勇者と誉の勇者】

宴の中、勇者アカヤマ・イーポンは料理人が出すオードブルを片っ端から自分の皿にとりわけ、貪るように食べていた。

「ムグムグ、うまいポン……ゴクッ、クチャクチャ、ガツガツ……ゴックン、プハーーーッ!」


 そこには勇者の気品も、紳士としてのマナーも無く、ただただ豪華な鎧を飲食の際に飛び散らせた液体で汚した下品な男になっていた、が他の衛兵たちの会話でロウラ姫が来ていると知るや否や、ろくに身だしなみも整えずに褒賞式の最中に割り込んで行った。


 丁度、褒賞式は勇者イサムの護衛である重戦士が叙勲を受けるところであった……周りが動揺する中、姫は式典に突如割り込んできた珍獣に驚きつつも平静を保つ、その後ろには軍務大臣が控えていた、大臣は側近に命令し動揺する賓客に対し落ち着くように促す。


 一瞬その場の空気が張り詰める、しかしその空気を打ち破った……もとい「ぶち壊した」のは乱入した当事者である勇者アカヤマであった、彼は手で鎧に付いた汚れを払い、ロウラ姫に一礼した。


「姫、私アカヤマ・イーポンは見事魔王城を攻略いたしました、つきましてはかねてよりお願いしていたモノを頂きとうございます。」

かねてよりお願いしていたモノ、つまりはロウラ姫を頂きたいと言っていたアレである。


重戦士は勇者アカヤマに割って入られたことは言及せず、アカヤマが申し出ていた言葉を静かに問いただす

「勇者アカヤマ殿、これまでの戦働きは見事でございました、しかし……その対価として、一体何を求めておられるのですか? 」


重戦士の問いにアカヤマは髪をかきあげようとして……またしても途中で指が引っ掛かり、慌ててすっぽぬくと、気を取り直してわざわざ前髪の右側をワカメのように前に垂らし、指でクニクニといじりながら


「それはぁもちろん、ロウラ姫をぉ我が妃に迎えたいという事ですよぉ。」


 と粘っこい話方をする勇者アカヤマ、多分その場で寒気を感じたものが多数いたはずだろう。

アカヤマの発言に重戦士は驚き姫に向かい


「……そうなのでございますか?」

と問いかける。


ロウラ姫はゆっくりと話始める

「その事は父上とも話しました、魔王を倒すことが出来るのは勇者のみ、もし勇者が魔王を倒しこの世界を平和に導いてくれるのであれば、伴侶としてそばに仕えることも、やぶさかでは無いと…… 」


勇者アカヤマは笑顔でパッと顔を上げる

「そ、そっ……それでは!? 」


ロウラ姫は静かに続ける、それは絶望の幕開けであった……


「私、ロウラ・セージは魔王を打ち倒した救国の英雄、勇者イサムの伴侶となる事を、ここに宣言いたします。」


おおっ! と側近や招待客は歓声を上げる……が、それとは対照的なモノが一人居た


当然の結果ではあるが本人にとっては余りにも衝撃的な内容に、目の前が真っ暗になっていく勇者アカヤマ、そして納得できないと言わんばかりに絶叫する。


「はあああああああっ!? なんでぇ!? なんで俺じゃなくてイサムなんて言う野郎なんだ! 誰だよそいつ? あのさぁ、俺だって一生懸命やってきたじゃん! 魔王軍とだって頑張って戦ったじゃん! ヤダヤダヤダ! 何故だよう! 」


その答えは姫の前に進み出た軍務大臣によって明らかとなる


「勇者アカヤマよ、そなた旅先で数々の狼藉を働き、しかも本来助けなければならない者を、女性では無いから等という理由で見捨て、魔王を倒すために必要な武具もろくに探索せず、宿ではお前を信じて護衛していた仲間にふしだらな行為を迫ったという報告が複数来ている、これに対し何か弁明はあるか? 」


静かに、だが重い口調で問い質す軍務大臣、その圧力に委縮しながらも必死に自己弁護を図る勇者アカヤマ


「そっ、そそれは誤解だもん! 急ぎの旅であったから……そう! タマタマ助ける人を見落としていただけだもんっ! それに神殿や遺跡はなんか複雑な仕掛けが有ったし、ボクの実力は有ったけど、たまたま知識が無かっただけだもん! 知っていたら僕だってパパっと謎を解いたよ! その証拠にほら! このメダルは遺跡で手に入れたんだもんっ!」

 

 そう言って懐からメダルを取り出す、それは宿場町の土産物屋で手に入る安価な民芸品で、けっして遺跡で手に入るものでは無かった、周りがアカヤマを不審な目で見始める、だがアカヤマは必死に、さらに自己弁護を続ける


 「ボクの護衛をしてくれた人に……ふしだらってなんだ? と、とにかくそんなことはしてないモン、ただ僕は長旅の疲れを癒して欲しくてぇ……ごろにゃーん、って甘えてただけだもん、それに魔法使いちゃんは嫌がってなかったもブフッォ! 」


 と、いったあたりで軍務大臣がブチ切れ、重戦士はアカヤマを思い切りブン殴った、勇者特有のスキルかなのかは不明だが、顔を腫らしながらもその場にとどまっていた、軍務大臣の口調が厳しくなる。


「貴様! まだそのような戯言をいうか! そのメダルは土産物の民芸品で誰でも手に入るものだ! それに魔法使いが嫌がっていなかっただと? 魔法使いが我々に涙ながら訴えてきていたことは承知している、王の命令であるから護衛を簡単に下りることは出来ない、我慢することでこの世界に平和を取り戻すことが出来るならと耐えてきたがもう限界だった、とな! 」


「そ、それは……」

アカヤマは反論しようとするが軍務大臣は


「まだ話は終わっておらん‼ 」

とその余地を与えない


「それに、他の冒険者ギルドからの報告も受けているぞ……貴様、酒場に居る女性冒険者に言い寄って振られた腹いせに寝込みを襲ったそうだな、しかもその際に陛下の名前を使って逆らわないように圧力をかけたそうだと冒険者ギルドからの書簡を報告書とともに受け取っている、彼らは憤慨したが、王命で旅をしている勇者だから報復を恐れてすぐに訴えることも出来なかったと! よくも、国王陛下の顔に泥を塗ってくれたな! 」


「ううっ、ウウウウウウゥーーーーーッ。」

流石に黙るアカヤマ、その様子を軍務大臣は無視して続ける


「……本来ならば国家に対する重大な侮辱、勇者にあるまじき行為で極刑に処する所だが、これまでの戦争での功績を考慮し、最大限の恩情をもって『勇者』の称号のはく奪! 並びに国外への永久追放! これで手打ちとする! おい! 誰かこいつを連れて行け! 」


 がっくりと肩を落とし項垂れるアカヤマ……だが、衛兵が近づいてくると元・勇者アカヤマはボロボロと泣き崩れ、手をじたばたさせて暴れる、本来であれば勇者に与えられた【加護】により、衛兵と言えども取り押さえるのは至難の業なのだが、何故かアッサリと捕まった、そして涙と鼻水を流し藻掻く往生際の悪いその姿は26歳の成人男性とは思えぬほどの醜さであった。


「う”―っやだもん! いやだもん! なんで僕だけこんな目に合うんだよぉぉぉぉぉ‼ 」

駄々をこねる元・勇者アカヤマは衛兵に引きずられて退場した。


そして静寂に包まれる会場、軍務大臣はゴホン、と咳ばらいをして

「みなさま、大変見苦しいものをお見せいたしました、引き続き叙勲の儀を執り行います」

そう言って敬礼をし、後ろに下がっていった。


 その後、褒賞式は滞りなく行われ、併せて勇者イサムとロウラ姫の婚約の儀が執り行われた、会場は祝福に包まれ、誰もがこの平和が続くようにと願っていた。


ー 大団円と因果応報 ー


 数年後、魔王城は遺跡として残す事となり、その立地故に人間が住むことは無かったが、魔族の居住区として保護することで魔族勢力との和平が成立、戦争は完全に終結した、旅に同行した女盗賊は王都にある盗賊ギルド本部に所属することになり、やがてギルドの幹部候補としてその後もイサムの良き参謀となっていく、アカヤマを見限った女神官や魔法使いも勇者イサムのもとに集まり勇者イサムと共にこの国を支えていくことになる、そして勇者イサムはロウラ姫と結婚、アイゼン国王の厚い信頼を得て後に次期国王に選任されることとなる……。



  一方、国外追放されたアカヤマ・イーポンはと言うと、追い出された直後はショックを受けて

「うーーーーっ! 僕ちゃんは大人だけど、まだまだ未熟な赤ちゃんだもん、それなのに、あんな酷いことするなんて、うううううううっ! 」

 と、しばらく宿場町の宿に不貞腐れて引きこもっていたらしいが、宿代や食費が底を尽きかけてきたので、冒険者として再起を図ろうとする、当初は世界を救った勇者としての名声がある(と思い込んでいた為)ので直ぐにパーティーメンバーが集まると目論んでいた……が、(くだん)のセクハラ等の悪評が広く知れ渡っていた為、ろくなメンバーに恵まれず、結局一人で依頼を受けなければならず、とりあえず当面の路銀を稼ぐために受けたゴブリン退治に向かうのだが、アカヤマは事前にゴブリンの住処やその性質について調べもせず、装備もろくに買い揃えないまま洞窟へと旅立っていった……


― ゴブリンの洞窟 ―


「へっ、どいつもこいつも馬鹿にしやがって、むかちゅくなあっ! むーっ、まあでもぉ俺には必殺技の【ブラック・スパーク】が有る! これならゴブリンなんか屁でもねえ……おっ、言ってるそばからゴブリンのお出ましだ! 」


 薄暗い洞窟の中、アカヤマの前には4体のゴブリンが居た、簡素な盾とナイフ、これがゴブリンの装備である、大してアカヤマは甲冑こそ没収されたが、そこそこの路銀が残っていたおかげで()()()()()()とバックラー、そしてチェインメイルを装備していた、じりじりと間合いを詰める、アカヤマが先に動いた!


「フッ……くらえ! ブラック・スパーーク‼ 」


 アカヤマは叫ぶ、魔王軍との戦いでは光の波動が放たれて自身の周囲の敵味方を吹き飛ばしていた……だが


「ん? あ、あれ? なんで? 何で、出ないんだよおぉぉ! 」


そう、勇者の称号を失った時【神様】の加護も同時に失ったのだ、これまでの行いから当然と言えば当然の結果だが

 

 アカヤマの叫び声に一瞬怯んだゴブリンだったが、何も起きないのを確認すると、ニヤリと笑みを浮かべゴブリンがじりじりとアカヤマに詰め寄る。


「ひいっ! く、来るなあっ! 」

 剣を振りかぶりアカヤマはゴブリンに向けてブンブンとロングソードを振り回し、ゴブリンがそれに退いた瞬間、アカヤマは目の前の1体にロングソードを振り下ろす、だが


カキンッ!


ロングソードは直前で天井の岩に弾かれた、そのはずみでアカヤマはロングソードを落としてしまう……その瞬間を、ゴブリンは見逃すはずも無く一斉にアカヤマに襲い掛かる!


叫ぶ……「ひいっ! 来るなぁ! 」

ギギッ! ゴブリンは飛び掛かる


手を振り回す……「嫌だぁ! やだあ! やめろおっ!」

グケケケケッ! ヒラヒラとかわしてゴブリンたちは赤山の身体を抑え込む


顔と口を掴まれナイフが身体を切り刻む、ザクッザクッと小気味よい音を立てて傷が増えていく……

「やめっ、い、痛いっ! 痛い痛い痛いッ! い…… 」

ギャハギャハギャハッ!グケケケケッ! ゴブリンは狂喜する


ブスッ、ズブズブッ………ザクッ、ドスッ、グチャッ……ブチッブチブチッ!


 じたばたと藻掻く手足は、やがてピクピクと痙攣し、一瞬ビクンッっと反り返ったが、次第にゆっくりと沈みうなだれる、四肢は引き千切られ、顔からは鼻血とよだれ、吐血が混じり、胴体はスライムのようにプルプルと震えたが、最後にはピクリとも動かなくなった……。


【神様】は遥か天上から下界の様子、元勇者アカヤマの一連の行動を見ていた……しばらくその最後を眺めていたが、ふうっ……と大きなため息を吐くと、ゆっくりと首を横に振り


「やはり、最後まで変わる事は無かったか……変わるチャンスは、いくらでもあったのだがなあ、残念な事じゃ。」


そうつぶやくと、おもむろにスマートフォンを取り出しどこかに電話をかける


ーーープルルルル……ガチャ


「ああ、閻魔君か……忙しい所をスマンな、こちらが無理を言って輪廻転生させた男の件でな……うむ……ああ、そうだ、じゃあ頼んだよ」

トンっとスマホをどこかに置くと……霞のようにその姿は消えていった。



― 死んだら楽になる……んな訳無いだろ ―


一体どれだけの時間がたったのだろう、ゴブリンに襲われた恐怖で気を失っていたアカヤマは目を覚ました。


「ここは、どこだ?」


周りを見渡す、しかし何も見えない、あるのはただ真っ暗などこまでも続く「闇」

そこに声が聞こえた、正確には頭の中に言葉が響くという感じだ


「おい、そこの亡者よ聞こえるか? 」

どうやら自分の事を呼んでいるらしい


「誰だ! 俺の事を亡者と呼ぶ奴は! 姿を現せ! この卑怯者! 」


どの口が言うんだと突っ込みたくなるセリフを吐くと、アカヤマの目の前に

巨大な姿が浮かび上がる……それは、おとぎ話でも良く聞く存在、冥界の裁判長【閻魔大王】である


「亡者の名は赤山日陰、で間違いないか? 」


「そ、そうだけど……」

赤山は閻魔大王の怖ろしい姿に委縮する


「ふむ、貴様、一度死んでおるな……神の慈悲により別の『人間界』へ転生したが、そこでも罪を重ね死んだという事か、間違いないか? 」


閻魔帳をみながら赤山に確認するが、もちろん生来の嘘つきである赤山が正直に答えるハズも無い、赤山は首を振り


「違う! 俺は神様に頼まれて世界を救ったんだ、悪いことなんて一切してないモン! 」


そう言って否定する、しかし閻魔大王は


「ほう、そうか」と言いながら一枚の鏡を取り出した


「これは『浄玻璃の鏡』(じょうはりのかがみ)お前の生前の行動が映し出される、もしお前の言ったことが嘘だった場合は舌を引き抜く、では視てみるか……どれ。」


 そこには赤山が生まれてから死ぬまでの光景がカメラで録画したかのように鮮明に映っていた、それこそ本人が隠したかった秘密も包み隠さず全て映し出された……そして転生先の世界の出来事、最後にゴブリンに殺されたところで映像が終わる。


結果は言うまでもないだろう。


「フム、どうやら神に頼まれて世界を救う旅に出たと言うのは本当のようだな……」


閻魔大王の言葉に


「ほら‼ 云った通りじゃん! 」と喜んだのもつかの間


「だが、悪いことは一切していないという発言は嘘であると判明した! オイ! 鬼どもよ! こやつの舌を引っこ抜け! 」


閻魔大王の命令で鬼が現れ、舌を引き抜く釘抜き、通称『ヤットコ』を取り出すと暴れる赤山の体を鬼が押さえつけ口を開き、ヤットコで舌をはさむ金属の独特な味が舌に伝わると同時に思い切り挟まれたため激痛が走る


「――ン!? ――――ンンンンッ! ウ”ヴンンンンンッ‼ 」


赤山はじたばたと藻掻くが鬼に体を押さえつけられて思うように身動きが取れない、そしてグリグリッ―ブチンッ! と赤山の舌はヤットコに勢いよくねじ切るように舌が引き抜かれた。


「ウ”ア”―! ア”―ア”ッ―‼ 」

泣き叫ぶ赤山、しかしこれだけでは終わらなかった。


閻魔大王は淡々と閻魔帳に掛かれた事実を読み上げる、そして最後に判決を赤山に言い渡す


「赤山日陰、お前は仏の道に背き、殺生、盗み、邪淫、飲酒、犯持戒人(僧侶を犯すこと)、妄言の罪により

大焦熱だいしょうねつ地獄 行きを言い渡す! 刑期は43京6551兆6800億年だ、連れて行け! 」


こうして獄炎の炎に焼かれ、灰になっても再び生き返り責め苦をまた受ける、これを先の刑期分

人間界の年数にして43京6551兆6800億年もの間受け続けるのだ、それはまさに死んだ方がマシと思える苦しみである、しかしこの罪は彼が自ら招いたもの、誰のせいでもないのだ。


「ア”ン”エ”オ”ウア”ル”ウウウウウウッ(なんでそうなる~~~~~~)!? 」



転生してもクズはやっぱりクズでした、めでたしめでたし。


結局のところ原因は「自業自得」ってところにあるんですよね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あるわけない。 [気になる点]  何かアカヤマを地獄に落とすために登場人物全員が協力してたとしか思えないんだけど。  何といっても神様。こいつが余計な情けなんかかけねえで順当に豚か寄生虫…
2021/08/22 12:32 退会済み
管理
[良い点] とある男を描き切ってていいと思います [一言] 「ただしイケメンに限る」……ではなくただしこの豚テメーはダメだ、かと?
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