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それでもやっぱり君が好き


しばらく俺は喋れなかった。

いや、声が出なかった。


目の前にある事実にどう目を向けていいのか分からない。


環さんにかける言葉がわからない。


「あ、えーと...とりあえず、どうしましょ」


何か喋らないと口に出した言葉は動揺の色を隠せてないとても情けないものだった。


「うーんと...そ、そうだよね。びっくり...してるよね?」


「ちょっとほっぺたをつねってもらっても?」


「あー、うん」


とりあえずダメ元だったがほっぺをつねってもらった。


痛い...


夢なんてことはなく現実だった。


「うーん、よし、とりあえず柚葉!お兄さんに自己紹介できる?」


「古賀柚葉です。小学1年生です」


「あ、えーと...藤原岳です。しゃ、社会人4年生です」


気が動転しすぎて、気づけば俺も柚葉ちゃん?と同じような自己紹介をしていた。


「多分岳くん、気づいてると思うんだけど柚葉は私の娘です」


「環さん、結婚されてたんですか?」


「ううん、結婚はしてない。旦那もいない。この子は私が1人で育てているの」


彼女と会う時、俺はいつも自分のことばかり話していた。環さんが聞き上手ということもあったのだろう。だけど俺はそこに甘え過ぎた。


環さんに恋をしたあの日から俺は自分のことを知って欲しい気持ちが強くなり、アピールかのようにペラペラと自分のことばかり話した。

でも彼女のことを俺は何も知らなかった。


なんで早く教えてくれなかったんだと責める気にはならなかった。

俺はきっと知ろうとしていなかった。

きっと彼女のことを知るのが怖かったのだ。


無意識の間に勝手に理想的な女性だと、もちろん今でも理想的な女性なのには変わらないが、勝手に彼女に理想を押し付けていた。


彼女は俺に今まで話してこなかったということを一つ一つ教えてくれた。


柚葉ちゃんは彼女が大学に通っていた頃、当時付き合っていた彼氏とできた子どもであること、彼にそのことを告げると彼は一方的に別れをきりだし、彼女の側からいなくなってしまったこと。親からは反対されたが、大学を中退し、今の今まで柚葉ちゃんを育ててきたこと。親は最低限の経済的援助、つまりは毎月一定のお金を振り込んでくれるらしいが、実質音信不通になっていること、柚葉ちゃんが学校に行ってる間である昼は会うことができても、夜に会うことができなかった理由がこれであったこと。


彼女が俺のディナーを断ったのもようやく意味がわかった。


「私さ、偉そうに高卒で働くなんて凄いって言ってたけど私夫もいないシングルマザーなの」


「私の勘違いだったらごめんね。きっと今日私に言いたいことがあってきたんじゃない?」


「はい......」


「でも今、岳君は今まで知らなかった私のことを知った」


「......」


「それでも私に伝えることはある?」


「僕は...環さんが好きです」


「ありがとう。でもね、私は岳くんに普通の恋愛をして欲しいの。普通の人を好きになって、普通の人と結婚して、好きな人との子供を育てて欲しいの」


「あのね、私は柚葉を生んだことに後悔はないし、大好きよ。でもね、岳くんを巻き込むわけにはいかないの。自分勝手なのは分かってる。言わなきゃって思ってたのにいえなかった。

今日誘ってくれて本当は嬉しかったよ?でもだからこそもう嘘はつけない」


「私ね、正直、岳くんに惹かれてたの。でもだからこそ、この気持ちは胸にしまっておくつもりだった。いつかは言おうって思ってたけど言えなくて...こんな私ダメだね。私はもう誰かに好きになってもらうような資格なんてないの」


「資格ってなんですか?普通ってなんですか?俺にとっては...環さんが特別なんです。一緒にいたい相手なんです。環さんを好きになっちゃおかしいですか?」


「そんな風に言ってくれてありがとう。

でもね、私はこの子を責任持って育てなきゃいけない。きっとみんなが憧れるデートだって できない。岳くんが想像していたようなデートもでき...」


「憧れるデートってなんですか?俺にとっては環さんと会えるならそれが最高のデートです。すべての時間が俺にとって宝物なんです。それに変えられることなんてありません」


「環さんはさっき、自虐的にシングルマザーって言いましたけど俺は凄いと思います。尊敬してます。それを聞いて環さんを好きになって良かったと思いました。環さんは環さんです。


環さん...あなたのそばにいたいと思いました。

簡単じゃないかもしれないけど環さんとなら、あなたとなら乗り越えられる。俺はあなたの助けになりたい。


俺が環さんを...そして柚葉ちゃんも大切にしていきます。


俺じゃ...ダメですか?」


俺の言葉に彼女は泣き崩れる。


「私ね、ずっとダメな人間だと思ってた。本当の自分がダメな分、周りには明るく振る舞って...でもいつかはち切れるんじゃないかって...

でもこんな私でも幸せ願ってもいいのかな?」


「岳くんの私だけじゃなくて、柚葉も大切にって言葉、とても嬉しかった。嫌いになったら離れてくれていいからね。答えはダメなんかじゃないです。私も岳くんの事が好きです。

私と付き合ってもらえますか?」


言葉より先に体が動き、俺は思わず彼女に抱きついた。


「環さん大好きです。絶対...一生この腕離したりしませんから」




今まで自己紹介以来黙ってた柚葉ちゃんが大人の空気を察してか急に、


「ねえねえ、ママのこと泣かしちゃいけないんだよー?ママぁこの人悪い人?」


どうやら俺は悪い人と怪しまれているらしい。


「ううん、良い人よ。私にとっては...そうね

ヒーローみたいな人よ」


「お兄さん、ヒーローなんだー!じゃあ変身してよー」


「環さん...俺変身なんてできないですよ」


「今日はお兄さん、変身ベルトがないから出来ないって。 柚葉、残念ね」


「えーだっさーい」


最後まで締まらないのが俺ららしい。


こうして衝撃の事実を知りつつも俺は環さんと付き合うことになった。


彼女とならどんな困難でも乗り越えれる。

俺を救ってくれた彼女の助けに今度は自分がなりたい。


俺は環さんを一生大切するとその時誓った。


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