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月曜日 午後六時三〇分

 

 五分ほど前から十八禁のゲーム、「執事たちの館にはお姫様のご褒美がタップリ詰まってピクピク」を起動した。

 タイトル画面には……五人のイケメンな男達がずらっと出てきて……思わず純香の方を見ると、思いっきり顔を逸らされた。

「スタート……してみて」

「嫌よ」

「……なんで」

「男の子向けじゃないもん」

 ないもんってのが……可愛い。頬まで赤くなっている。つないでいる手も汗ばんでいる。

 そして……三〇分きっかりに、それは現れた――。


 『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』の特大バナー。バナーと言うよりは全画面の乗っ取りだ。右上には「✕」印があるが、あれを押しても一回では消えないのは知っている。


「ああ、これだ! 間違いない。俺もゲーム中にこれが出たんだ!」

「これって、ゲーム専用のメッセージ機能を使っているみたいね。特定のプレーヤーにだけメッセージをダイレクトで送信してきているんだわ」

「なんで分かるの」

「画面の切り替わり方がゲーム中の切り替わり方と同じだったもの。そのメッセージに全画面表示の切り替えを強制的に行う……なんだっけ、プログラムみたいなやつを組み込んでいるのよ、きっと」

「ということは、ゲームメーカーがやっていることじゃないってことなのか」

 どちらかというと、逆に利用されているのか。

「メーカーとは無関係なのかも。同じゲームをやっている人同士なら、出来なくはないわ。それで、読んでも読まなくてもメッセージを完全に消去する……きっと何者かの仕業だわ」


 何者か分からないのは……逆に厄介だ。

 世界中のユーザーが対象ではなく、ピンポイントで俺の高校を狙ってきている可能性すらある。だったとしたら、本当に純香の言った通り危険性が高いことになる。


 俺が鬼なのを知っている。純香が鬼になったことも――きっと知られている。


 一度ボタンを押すと、また画面いっぱいに文字が表示される。

「これだ。そしてもう一度押すと、この内容は消去され、本体の電源がシャットダウンされるんだ」

「ええ。時間が経っても同じだったわ」


 ――カシャ。

 たくさんの文字を純香がスマホの写真に収めた。

 純香って……スポーツ万能だから、パソコンやスマホの設定なんかには弱いと勝手に決めつけていた。だが、こういったネット上のトラブルによく通じていて――感心してしまう。だからこそ、今日の時点での危うさに気付き、敏感に慎重な対応をしていたのなら、俺の方こそ悠長にしていたと反省しなくてはいけない。

 そもそも、鬼にしたのも俺だし……。

「……ごめん。純香」

「……なによ今更。それに、鬼だって増えなかったら罰則があるんでしょ。仕方ないわよ」

「え、増えなくちゃいけないのか」

 純香一人を捕まえたから、もう増える必要はないんじゃないのか――。

「ええ。このゲームにはまだまだ先があるみたいよ」


 画面の下の方を拡大すると、そこには鬼の増加人数が書かれていた。


『一日目に一人。二日目にも一人。その後も鬼は増え続けることが条件で、期間中に達成できなければ、達成できなかった鬼には罰則あり』

 罰則って……ヘッドショットか?

「二日目って、明日の六時半までに、もう一人鬼を増やさないといけないってことなのか――」

 タッチして鬼にするのは簡単だ。だが、手をつなぎ続けるのって、やってみると大変だ……。罰則があるのなら、生半可な気持ちで鬼を増やしては大変な事態を招きかねない。

「それに、二日目に一人ってのも……逆に厄介だわ」

「え、どうして」

「わたし達だけならこうして手をつないでいられるけれど、ここにもう一人プラスされれば、真ん中の一人は両手が使えなくなるから大変よ。御飯だって一人じゃ食べられないわ」

「つまり……どちらかが食べさせてあげるとか?」

「それか、もう一人を早く見つけて鬼にして、分裂するかのどちらかでしょうね」

 どちらかと言っても……。

 罰則があるから二四時間手をつなぎ続けてくれだとか、それを知っているのに『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』と言ってタッチするのとか……考えるだけで頭が痛くなりそうだ。相談しても、誰も承諾してはくれないだろう。

「絶対に嫌がられること疑いないぞ――」

「……そうよね。なにか報酬でもあるのなら挑戦しようと思うかもしれないけれど……」

 ……報酬……って?


 ――コンコ、コンコン。

 扉をノックする音にもビクッと反応してしまう、俺も純香も。慌ててテレビの電源だけを消した。


「純香、晩御飯よ。それと、榊君のも」

 純香のお母さんが晩御飯を部屋に持って来てくれた。突然お邪魔している分際なのに、恐縮してしまう。

「え、あ、すみません。ありがとうございます」

「いいのよ。ゆっくりしていってね」

 ゆっくりしていっていいのだろうか。それとも、早く帰ってと遠回しに言われているのだろうか。

「……」

 純香は何も言わない。大き目のお盆には二人分のご飯と味噌汁と焼き魚が乗っている。鰺の開きが美味しそうだ……。

「それと純香、お母さんは大正琴教室に行ってくるから遅くなるわ」

「……知ってる」

 あまり母とは仲がよくなさそうだ。

「それと、寝る時は、ここの扉を開けて寝なさいよ」

「……嫌よ」

 いちいち反抗するなって。というか、扉を開けとく意味って……なんだ。

「んまあー。純香ったら、いつの間にそんなアバズレになったのかしら」

 扉をバタンと閉めてお母さんはリビングへと戻って行った。

 ……娘をアバズレって呼ぶか、普通は。

「お母さんと仲悪いの?」

「ううん。普段からこんなもんよ。榊君だってお父さんと仲悪いでしょ」

「んん……まあな」

 そんなに仲がいいとは言えないな。



 ガッチャン――。

 ご飯を食べていると玄関の扉が閉まる音がした。お母さんが出掛けたのだろうか。


「――今のうちに、お風呂に入るわよ」

 まだご飯を食べている途中なのだが……。

「え、ああ」

 グイっと手を引っ張り立たされた。ちょっと待て、


 ――風呂だと。


読んでいただきありがとうございます!

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この物語はフィクションです。絶対に真似しようと思わないで下さい!

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