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後夜祭


「最後の曲です」

「「ええー!」」

 ブーイングの嵐が……巻き起こった。


「明日は休みだ! みんな、ぶっ倒れるまで踊ろうぜー!」

「「イエーイ!」」


「ジェンカ!」


 前、後、ピョンピョンピョン……か。グラウンドへと出てくると、やぐらを中心に全校生徒が大盛り上がりを見せていた。

「急がないと終わっちゃうわ」

「最長列のトップを目指すわよ――!」

 あんなに走り回ったのに、純香も如月もまだまだ元気そうだ。

「よし、じゃあ立てなくなるまで踊るか」

「ああ。だがジェンカってたしか……ジャンケンをして負けたら後ろにつながっていくルールだったっけ?」

「あー、それそれ! 絶対に全校生徒の頂点を極めてやるぜ! ジャンケン、ポン!」


 ――だったら真っ先に俺となんかジャンケンするなよ~! 急に言うからグー出して負けてしまったじゃないか――!

 負けた俺と純香ペアは、如月ペアの後ろで永遠にピョンピョンを繰り返した……。

 制服が汗でビショビショになっていたが、気にもせずにジェンカを踊り続けた……。



 予定していた七時を過ぎるとフォークダンスパーティーは終わり、大きな拍手を最後に、つながれた手がパラパラと離されて、みんな下校していった……。あちこちで笑い声や歓声が上がる。楽しんでくれていれば……幸いだ。誰も「幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ」の罰則なんて信じてなかったのだろう。

 祭りの後は……独特の寂しさを感じるが、純香がまだ手をつなぎ続けてくれていると寂しさよりもやり切った気持ちの方が強かった。


 終わった。

 長かった一週間が、瞬きのように早く終わってしまった……。


「お疲れ様でした」

「お疲れ様。君たちもご苦労だったな」

「ありがとうございました。生徒会長」

「よい。生徒が楽しい学校生活を送れるようにするのも生徒会の存在理由だ。今日はみんな楽しんでいた。先生達もな」

 遠くで賀東先生たちも手をつないだまま盛り上がっている。

 先生達の手には缶ビールが握られている……。酔っ払ってグラウンドで横になっている先生もいるが、それでいいのだろう。今日くらいは……。

「片付けは明日にして、今日は帰ってゆっくり休んでくれたまえ」

「ありがとうございました」

「なあに、礼にはおよばないさ」

 生徒会長……格好いいなあ……。最初はぶっ飛んでいる性格だと思ったが、芯がぶれないし、言ったことをやり抜く力がある……。

 魅力のある人って……そういうことなのだろう……。


 四人でゆっくりとグラウンドを後にした。俺と慎也は自転車置き場へと向かわなければいけないのだが……。

「幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこをは終わったのに、どうしてお前らはまだ手をつないでいるんだ?」

「そういう慎也達だって、手をつないでいるじゃないか」

「エヘ」

 周りを見ると、まだ手をつないでいる生徒は何組もいる。……中には三人組もいる。みんなゆっくりと歩いている。名残惜しいのが……伝わってくる。

「なんか手を離すと帰らなくちゃいけない気がして……もう少しだけつないでいたいかな……」

「ああ。俺も」

「お熱いなあ。羨ましいなあ」

「って、お前らも十分熱いじゃないか!」

 如月とずっと手をつないでいるじゃないか――!

「ハッハッハ」


「でも、校長先生はどうして校長室なんてバレやすいところにいたのかしら」

「……」

「そうだよな、その気になればもっと隠れていられたはずだ」

「電気も点けていたし」

 そんなの……簡単さ。

「見つかってもよかったのさ。いや、むしろ、見つけて欲しかったのかもしれない」

 始めたゲームを自分の手できちんと終わらせたかったのだろう……。

「……誰かに自分の思いを聞いてもらいたかったのよ」

「そっか。そうだよな。よーし、俺も明日から授業中にスマホでゲームするの、やめよ」


 ――やっぱり授業中にやってたのか!

「慎也のアホ!」

「ああ、だが、俺は俺のためにやめるんじゃないぞ!」

「はあ?」

 誰のためにやめると言うのだ。

「舞子のためにやめるの?」

「いいや、校長先生のためにやめるんだ。校長先生の思いが、俺に伝わったからやめるのさ」

「校長先生の思いか……」


 それって、回り回って俺達のためになるのなら……校長先生って偉そうにしていただけじゃないのかもしれない……。やっていることは無茶苦茶だったが……。



 如月と慎也と別れ、俺は自転車を押し純香と歩いた。


「俺は……生徒会の役員になりたいと思った」

「え、一真が生徒会の役員?」

 いや、笑うところじゃないよ。我慢したってショートボブがクスクス揺れてるから分かるんだぞ。

「成績は悪いが、そこはなんとかする。俺も……生徒一人のためにでも役に立てるようになりたいと思ったんだ。あんなに大勢を楽しませることができる生徒会長の凄さに、憧れた」

 嫉妬じゃなく――憧れた。

「ふーん」

「俺なんかは生徒会長になれるはずはないが、なんでもいいんだ。やってみたいんだ」

 今、もの凄くそんな気持ちなんだ――。

「一真なら、生徒会長になれるよ」

 純香がパッと明るい顔でそう言ってくれると……嬉しい。本当になれてしまいそうな気がして怖い。

「いや、純香。生徒会長は難しいさ。選挙があるし、やりたい生徒は他にも大勢いる。俺には他の人より飛び出たスキルなんてものがない……」

 またクスクス笑っている。

「なれるよー。だって……一真、イケメンだもの」

「イケメン? それって……」


 チュッ。

 何か言い返そうと思ったら、三度目のキスをされてその機会を奪われた……。


「一真がなろうと思うんだったら、必ずなれるわ」

「……純香にそう言われてキスされると……本当になれそうだと思う。いや、それよりも! 俺がイケメンだと勘違いしてしまうだろ!」

「アハハ。そうだね、勘違いしちゃうね、危ない危ない」

 ドキッとするじゃないか――。

 俺はイケメンでもなんでもない、ただの男子高校生だ……。それ以上でもそれ以下でもない――。それに、イケメンって褒め言葉なのだろうか。俺の努力じゃないような気がするぞ。


「……じゃあ、また明日ね」

「ああ。純香、ありがとう、本当に」

 どんなにお礼を言っても言い足りない。

「ううん。わたしの方こそ、ありがとう……」


 ずっとつないでいた手がゆっくり離れたが……二人の気持ちはつながったままだ。


 明日からも、手をつなぐことができるだろう……。


読んでいただきありがとうございます!

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