決戦は日曜日
日曜日の夕暮れ、校門には長蛇の列ができていた。
朝からの準備で体は疲れていたが、DJの音吉三平さんや軽音楽部の三年生達が本番さながらの大きな音を出してリハーサルを始めると、疲れがやる気へと変わってくる。
いよいよだ、いよいよ俺達のフォークダンスパーティーが始まるんだ――!
「はい、次の方、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ~!』」
「キャハハ、本当にそれって言うんだ。ウケル~!」
生徒には制服と私服が入り混じっている。学校行事だが私服も可としたところ、みんな好き勝手な格好で来たのだが、生徒会役員達や俺達、夕方まで部活動をやっていた生徒達は制服だった。
「幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこと言いながら、次の人にタッチして下さい。あ、二人二人になら分離しても大丈夫です。手つなぎ鬼ごっこですから」
模造紙に手つなぎ鬼ごっこの簡単なルールも大きく書いている。
「あ! これ知ってる。『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』って広告のバナー見たことあるよ!」
この人は完全にプレーヤーだな。しっかり手をつないでもらわなければ……。
「三人でもいいですが真ん中は大変ですよ! 両手を使えませんから」
「どんどん手をつないでゲートから入って下さい! もうすぐ始まりますよ!」
校門に設置した仮設ゲートで、入場してくる生徒を強制的に手つなぎ鬼にしていく。
気の合った人同士はそのペアで手をつないでもらうと、誰とも手をつなげない人の方が割と少なかった。
そんな誰とも手をつなげなかった人同士を、フォークダンスと手つなぎ鬼ごっごの名目で、無理やりにでも順番で手をつないでもらう。最初は恥ずかしそうにしているが、少し暗くなってくると割と気にならなくなる。
先生や生徒会の役員、購買の業者さん達にも協力をしてもらった。
「手をつながずに入場する者と、途中で手を離す者がいたら、この私が許さん――」
生徒会長が入場ゲートのところに立ってくれると、本当に助かる。あと、隣の副会長も……。
「トイレも必ず手つなぎ鬼のペアーで行動して下さい! 恥ずかしい人は、手をつなぐ前に済ませちゃってくださーい!」
普通は恥ずかしいぞ……。フォークダンスの時間は、おおよそ一時間だ。ジュースを飲んだりしたくらいで、それほど切羽詰まった状態にはならないだろうが……。
「つないだ手は、絶対に離さないで下さい! 汗ばんでも、相手が嫌でも我慢して下さい!」
「お願いします! 大事なイベントなんです!」
声を張り上げる。先生も生徒会役員の人達も手をつないで一生懸命になってくれているのが泣けそうになる。
「ええっと……、あ、そうだ、ギネスに登録されるかもしれないんです!」
「「え? ギネス?」」
慎也……嘘はほどほどにしないと後が怖いぞ。あちこちで「ギネス?」「ギネス!」と囁き始めている。
「ギネスで手つなぎ鬼ごっこの記録があるの?」
「はい!」
――はいって言うなよ! ねーぞそんな記録は!
だいたいギネスに登録されるには、なんかこう、黒いバインダーみたいなのを持った「ギネス認定員」が立っていないといけないはずだぞ! ……テレビで見たことがある。
「だったら、仕方ないか……」
ギネス信じちゃってるぞ……。
「高校生にもなってフォークダンスとは……。生徒会も、もう少しマシな企画できなかったのかよ」
「ほんとね、頬っぺたが赤くなっちゃうわ……」
「綿串律高校へようこそ――!」
なんの前振りもなく、急に爆音でDJが開始の宣言をすると、会場の全員がビックと驚く――! 鳥肌が立つ――!
「いくぜー! 準備はいいかーい!」
「「イエーイ!」」
「「うおー!」」
「ワン、ツー、スリー、フォー」
軽音楽部のカウントで生演奏が始まり屋外用の大スピーカーから重低音が効いたノリノリの、「マイムマイム」が流れ出すと――なにかに引き付けられるかのように、夢中に校庭中央に作られたやぐらへと全員が走って集まった――。
「拍手する時も、ペアの手は絶対に放さず、もう一人の手と拍手して下さーい! オッケー?」
「「オーケー!」」
意外と二人拍手は難しい。なかなか手が合わずパチッといい音がでない。みんなが勝手に練習をしている。
「どんなに疲れても、休憩する時も、ペア同士で必ず休憩して下さ~い! オッケー?」
「「オーケー!」」
「そんなことは分かったから、早く踊ろうぜ!」
「どうやって踊るんだ」
「見よう見まねでいいんじゃね?」
「オーライ! 今夜は思いっきり楽しんでいってくださ~い!」
「「おお――!」」
爆音と大声量で会場のボルテージはレッドゾーンを突破した――。
ダンスが始まるのと同時に、俺達は別動隊として犯人捜しを始めた――。
「あーあ。わたしも踊りたかったなあ……マイムマイム」
「あの曲を聞くと、なんか体がそわそわするのよね」
「しー! 静かに」
犯人はどこかから必ず監視を続けている。
銃かスリングショットか、何らかの武器を持ち、全体が見渡せるところから監視しているはずなんだ……。手を離した生徒や、手をつないでいない生徒を探している……。プレーヤーかそれ以外かはどうでもよくなっているかもしれない……。
息を潜めて校内を怪しいところから順に探し始めた。念のために技術室から保護メガネを借りてきて四人とも装着している。先生達には校舎の出口付近で怪しまれないように待機してもらい、何か見つけたらすぐに連絡できるように純香と如月の手にはスマホが握られている。
ガチャリ……。
キー……。
まず屋上の鍵を開けて屋上へと出た。グランドとは違い涼しい風が吹く。
鍵が掛かっている屋上に生徒は簡単に出られない。それに、もし俺が犯人なら一番真っ先に怪しまれる屋上なんかから狙撃しようと思わないだろう……。真っ暗な屋上には誰の人影も見当たらなかった。階段に足跡がないところをみると、犯人は一度も屋上へは来ていないのだろう。
「次にいこうか」
グラウンドが見渡せるのは新校舎の廊下側になる。
四階から静かに階段を下りて確かめるが、人影は見えない。見えにくいように黒ずくめの全身タイツを着ているかもしれないが……開いた窓もなければ、教室にも隠れていない。グラウンドの照明が廊下から入り、教室内まで明るく照らされている。犯人にとってこの明かりは……致命的になってしまう筈だ。
「廊下から狙っているわけでもなさそうだなあ……」
「じゃあいったいどこなのよ」
校舎の両端の非常階段も両方を上って確かめたが、もし見つかれば逃げようがない非常階段に隠れるのも効率的ではないはずだ。
読みが外れたか……。
遠くから全体を見ているのではなく、意外と近くから監視しているとすれば……厄介だ。もう六時三〇分まで時間がない――。
ゲームはクリアできたとしても、犯人が捕まえられなければ、悲劇を繰り返すかもしれない――。
「ここは二手に分かれようか」
「ああ」
「校舎の中には誰もいない筈だが、俺と純香でもう一度探してみる」
「じゃあ俺達は会場内の怪しい行動をしている人や、やぐらの中を探してみるよ」
……紅白の幕が巻いてあるやぐらの中は何も見えないからいるはずはないだろうが、意外に盲点になっているかもしれない。
「分かった。頼む」
慎也と如月ペアと分かれて俺と純香はもう一度新校舎に入った。
時間はもう――六時三〇分に差し迫っている――。
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