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土曜日


「ちゅりーす。お、一真、無事だったのか」

「……ああ。みんなのお陰で死なずに済んだ」


 慎也と如月は今日も自転車で二人乗りをして校門を通過してきた。見つかるからやめておけと言っても、聞く耳持たずだ。

 俺と純香は二人で手をつなぎ歩いて登校した。土日の学校は部活動をやっている生徒しかいない。純香は部活動で慣れているのだろうけれど、俺には人が少ない下駄箱や教室に少し違和感を覚えた。

 休みの日の学校は、いつもこんな感じなんだな……。生徒会室へ集まると、生徒会役員達も手をつないで集まっていた。


「今日はやぐらの設置とテントの骨組みを行うが、皆片手しか使えない。怪我などをしないように十分注意してくれたまえ。それと、熱中症対策も怠らないよう、水分補給と休憩をこまめにとるように。以上だ」

「「はい」」

 生徒会長がそれだけを述べると、みんな早速作業にかかった。


 学校祭の時にもやぐらや仮設ステージが作ってあったが、あれも全部生徒会や先生達が組み立てていたのか……。

 今日の作業は先生達も手伝ってくれた。思い鉄パイプを運んだり、やぐらのクランプのボルトナットを締め付けたりするのは慣れていないと危ないらしい。締め付けが弱いと途中で崩れてしまう。 弱い箇所には番線と呼ばれる太い針金のような物を巻き付けてさらに補強していく。


 材料を運搬して組み立てるのを手伝っていると、シャツは汗ばみ、ズボンもくっついて気持ちが悪かった。

 慎也や生徒会長も同じように汗ばんでいる。先生達は首にタオルを巻いて汗を拭いている。

「まだ五月とは言え、この炎天下での力作業はきついなあ……」

「普段から運動不足なのよ。わたしはまだへっちゃらよ」

「純香は普段からバレー部で鍛えているからなあ……」

 やぐらの材料を運び終えると、次は屋台用のテントの骨組みを軽トラへ積み込む作業にかかった。体育館の裏側にある大きな物置から運び出し、軽トラでグラウンドへと運び組み立てるのだが、これも時間が掛かりそうだ。


「よし、少し休憩をしようか」

 生徒会長がそう言うと、副会長が小さなクーラーボックスから冷えたアクエリをみんなに配った。

「ありがとうございます」


「先生達は自腹でお願いします」

「ええーそんなあ」

 先生達からブーイングが起こる。そりゃそうだろう、皆汗だくだ。

「冗談ですわ」

「……」

 副会長が真顔で言うと、冗談でも冗談に聞こえないのがおかしい。ひょっとするとSっ気があるのかもしれない。


 賀東先生達も律儀に西山先生と手をつないで休憩していた。よく見ると、他の先生達も手つなぎ鬼が増えている。

「先生達も真面目にルールを守っているんですね」

「……守るもなにも……」

 賀東先生は辺りをキョロキョロと見回して、俺と純香にもう少し近づくように手招きをした。


「ここだけの話だが松見を進路指導室に捕まえた日、俺と西山先生と手をつないだ後、一度だけつないだ手を離してみたんだ。どうせ冗談だろうと……」

「――え」

 たしかに誰だって疑いたくなる気持ちは分かるが……ちょっと手を離すの早くない?

「そしたら突然、進路指導室のガラスも何者かに割られたんだ」

 ――!

 俺と純香が帰った後にそんなことがあったなんて……。

「恐らくは犯人の仕業だ。どこかから狙っていやがった。どんな方法を使ったか分からないが、俺達の声も聞かれていたに違いない――」

「そんな……」

 まだまだ安全って訳じゃないのか――。俺達は一度も手を離さなくて正解だったんだ……。


「大至急、この事件を校長先生から綿串律警察署へと通報してもらった。怪我人は出なかったが、一歩間違えればガラスや飛んできた弾が当たって怪我をしているところだからなあ……」

「そうですね……賀東先生ならともかく、西山先生なら大変ですから」

「そうだ。俺ならともかく、西山先生なら……っておい! 俺だって鉛の玉なんかが当たったら怪我をするぞ」

 先生の乗り突っ込みが面白い。

「ハッハッハ」

「笑い事じゃない! それに、今回の鉛玉は……6ミリだった。つまり……」

 ――6ミリって……BB弾と同じ大きさじゃないか。

「改造されたエアーガンなどで遠距離から狙撃された可能性が高いんだ」

 金属性の弾を改造した銃とかで発射するのは……、銃刀法で違法になるはずだ――。笑い事じゃ済まされない――。

「嘘でしょ……。学校のガラスは防弾ガラスで出来ているんでしょ。舞子が言っていたわ」

 んー。

「……それは忘れた方がいいニセ情報だ。都市伝説かもしれない。とりあえず、学校のガラスであっても、鉛玉のような金属製の弾を受ければ派手に割れるんだ」

「……」

 だから先生達も律儀に手をつなぎ続けているのか……。今だって、どこかから犯人が狙っているのかもしれない。

「とにかく榊。今日、お前達だけは六時三〇分までには必ず家に帰れ。そして、なんとか犯人と接触し、少しでも多くの情報を聞き出してくれ」

「……でも明日の準備が」

「大丈夫だ。それは他のメンバーでぬかりなく進める。日曜日にこのバカげたゲームが終息するのなら綿串律警察署には動かないように言ってくれている。警察が動けば騒ぎはたちまち大きくなり、今年度の卒業生の進路に影響を及ぼしかねない。なんとかそうならないようにするためにお前の行動が鍵になるんだ」


 俺の行動が――鍵になる?


「休憩おしまい! 作業を再開するぞ!」

「ういーす」

 生徒会長の声がすると、座って休んでいた皆が立ち上がった。

「すべてがお前の行動にかかっている。頼んだぞ……」

「……はい」

 責任重大じゃないか……。純香とつないだ手に力がこもった。


「じゃあ、西山先生、私達も行きましょうか。暑くて嫌になりますね」

「そうですね」

「早く帰ってシャワーを浴びたいなあ~。なんちゃって」

「もう。賀東先生ったら……」

 ……なんか、先生達も楽しそうだぞ……。


「責任重大ね」

「え、ああ」

 必ず犯人を見つけ出さなくては……。


読んでいただきありがとうございます!

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