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金曜日 午後六時三〇分


 純香の母が如月の母と偶然AE〇Nモールで出会ったらしい……。

 純香の母は娘が泊まりに行っているから、「娘がお世話になっています」と挨拶するのは……当然で、それに対して如月の母は……泊まりに来ているのは慎也だから話がチグハグになってしまったそうだ。

 そこで頭に浮かんだのは、榊一真――つまりは俺。手をつないでいたし、二日連続で泊まりに来ていたから、嘘をついて男のところへ泊まりに行っていると容易に推測できたって訳だ……。


『……二日も嘘ついて男家に外泊していたなんて。呆れて物が言えまへん! ちゃん説明しなさい――!』

 スマホに送られてきたメッセージを二人で見ると、お母さんがかなり怒っているのが分かる……。ところどころ文字化けしている……?

「わたしが誰のところに泊ろうと勝手でしょ」

 手早く入力して送り返す。

 ――いや、ちょっと純香。火に油を注ぐようなことはやめようよ。マッチ一本火事の元だよ。


『んまあー! 勝手かもしれないけれど、お母さんに嘘をついてたこととと、榊君の家にご迷惑を掛けたこととを、ちゃんお父さんに説明しなさい』

「――!」

 お父さんに! ……99.9%大丈夫だと保証してくれていたお父さんに話せというのか……。

 0.1%の可能性って……こんなに当たるのか……千回に一回の確率なのに……。

「言えばいいんでしょ!」

 売り言葉に買い言葉になっている――! もう、お母さんを味方に付けるなんて発想は、純香の頭の片隅にも残っていない……。


『その通りよ。ちゃんと言えばいいのよ! 自分の口で! 純香が謝ったら、お父さんだって許してくれるかもね』

 お父さん、娘には滅法弱そうだが……。かもね……って、もうそれ他人事――。

 お父さん……。俺には絶対に強そうだ。滅法強そうだ……。


『今日帰ってこなかったら、お父さんに全部チクります。いいわね、フン!』

 お父さんにチクるって……。


「二日間、黙って泊まっていたこともバラされるのだろうか」

 純香の目にも怒りが感じられる。

「お母さん、手段を選ばないから……ありえるわ」

 手段を選んで――。

 子供のやっていることを温かく見守って――。

「どうしよう……」


「どうしたんだ。釘打つのサボって」

 慎也と如月が深刻に話し合う俺達のところへ来てくれた。

「最悪なの。お母さんに嘘がバレてしまって、今日、帰ってきなさいって。凄く怒っていて、そんなところへ手をつないで一緒にノコノコ帰ったら……怒られるに決まっているわ」


 お父さんにもチクられて、俺はその場で本当に殺されてしまうかもしれない。


「だから俺達みたいに最初から堂々と話しておけばよかったんだよ」

 その性格が羨ましい……。

「そうよ。二人だって付き合っているんでしょ。だったらちゃんと親に説明すればよかったのに」

 その性格も羨ましい。どうしてそうなったと聞きたい。教えて欲しい。

「わたしの両親は舞子や一真の親と違って頭がカチンコチンに固いのよ。結婚だってお見合いだったそうだし」

「お見合い結婚……でも別に構わないじゃないか」

「駄目なの。学生生活に恋愛はご法度と思っているわ」

「え、この間は晩御飯も作ってくれて、もてなしてくれたじゃないか」

「……実は怒っていたことに、一真は気付かなかった?」


 ぜんぜん気が付かなかった……

 男って鈍感な生き物なのさ。ごめん。


 ……すべては俺のせいだ。純香をゲームに巻き込んだのも、怖い思いをさせて手をつなぎ続けているのも、元を正せばすべては俺のせいなんだ……。

「うんそうだな」

「そうね。榊君のせいね」

「……泣きそうだぞ」

 友達は選ぶべきだぞ……。

「だから、今日は純香の家に行って、純香のお母さんとお父さんに……全部説明して謝る。純香はなにも悪くない。犯人に狙われるのだって、俺だけでよかったはずなんだ。巻き込んでしまったことの責任をとる――」

「……一真」

 純香がそっと体を寄せてくる。いや、他の生徒や生徒会役員達もみんな見ているんだから、そんなにくっつくのはやめようよ。



「無事に……帰ってくるんだぞ」

「明日も準備があるからね」

 入場ゲートが完成した頃、辺りはすでに暗くなっていた。生徒会長と副会長も俺達の心配をしてくれるのが嬉しかった。

「ありがとうございます。伊吹さん、光来さん。明日も必ず生きて戻ってきます」


「純香、どうしても駄目だったらわたしの家に逃げてきなさい」

「一真、一発二発くらいは殴られても、へこたれるんじゃねーぞ」

「……ああ」

 ……殴られるのか……。ひょっとすると、慎也も殴られたのか? ……聞かなきゃよかったぞ。

 声しか聞いたことがない純香のお父さん……恐ろしい想像ばかりが膨れ上がる……。


 自分で蒔いた種だ。けじめを付けなくてはならない。みんなに迷惑をかけた責任を果たさなければならない。ここで逃げ出したら、俺は一生後悔し続けることになる。「好きな人のために、絶対に死ねないのが愛だ」と生徒会長は言っていた……。今はその意味が少しだけ分かる気がする……。



 ガチャリ……。

「ただいま……」

「……お、お……お邪魔します」

 純香のマンションの扉が重くて冷たく感じた。


 月曜と火曜よりも帰る時間が遅くなったから……お父さんも帰っているのかもしれない。さらに金曜日がノー残業デーなら、早くから帰っているのかもしれない……。

「……」

 お帰りなさいの声は聞こえず、リビングからは誰も出てこない。こちらからリビングへ入っていかなくてはならない。

 ――!

 玄関に黒の革靴が脱ぎ散らかされている……。怒って脱いだのがヒシヒシと伝わってくる……。リビングからはNHKのニュースの声が聞こえてきて……それすら恐ろしい音に聞こえる。

 

 足が重い……ズルズルと引きずるようにしか歩けない……。


 純香が先にリビングの扉を開けると、テーブルでは両腕を組んで睨みつけるお父さんとお母さんが横並びに座っていた。


「座れ」


 その声は紛れもなく純香と俺とに向けられたものだった。

「……はい」

 ――これじゃ突然のバッドエンド、ゲームオーバーより酷いじゃないか――!


 あと二日だったのに……。

 幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこは……幸せのままでは終われないようです……。


読んでいただきありがとうございます!

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