金曜日の放課後
生徒会長が作成したフォークダンスパーティーのチラシが全校生徒に配られた。生徒と先生が全員出席するため、登校日扱いになるそうだ。登校日になればほぼ全員が参加してくれるのでありがたいのだが、日曜日の夕方六時に登校って……ありなのだろうか。
「楽しみね」
「そうだなあ。今年の生徒会はやっぱり期待できるなあ」
チラシを手にそう言いながら下校していく生徒を見ると、嬉しく感じる。その期待に応えるために、今日からの準備が大忙しだ。やらなくてはいけないことがたくさんある。今日のうちに校門のところへアーチ状の入場ゲートを作ることになった。
トン、テン、カン、テン。
明日はやぐらを組み、明後日には提灯を飾って屋台用のテントを準備してスピーカーなどの音響設備を設置してと……考えると不安になってしまう。入場ゲートも簡単にできると思っていたのだが……いざやってみると困難を極めた。学校祭で使っている木枠にべニア板を張り付け、色を塗るだけの作業が……手つなぎ鬼には難しい。
……なんせ二人で一人分以下の仕事しかできない。邪魔をしているようで申し訳ない。
手をつなぎながら作業をしている俺達を、生徒会役員達はどういう気持ちで見ているのだろうか……。
トン、テン、カン、テン。
慣れない手つきで金槌を振って釘を打つ純香。額には汗がにじみ、夕日がキラキラと輝いている。
「生徒会の中では『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』の広告バナーに気付いていた人はいないんですか」
釘を持つ俺の左手は、何度も何度も純香の金槌で叩かれ、内出血している……のは内緒だ。明日には青くなるだろう……。イデッ!
「はっはっは。我々もゲームはよくやるのでね、その広告バナーなら気付いていたさ」
生徒会長は釘を口にくわえ、器用に金槌でべニア板を打ち付けていく。何でもできるのに感心してしまう。
「でも、まさかこんな近くに鬼がいるなんて」
生徒会長の横でいつも姿勢よく立ち続けている副会長がにこやかに言う。この人はさっきから何もしていない。姿勢よく立ち続けている。
「もう、逃げても無駄よね」
「……って事は……」
「ああ、我ら生徒会役員達も手つなぎ鬼をやろうじゃないか」
「一日一人以上は鬼を増やさないと、ルール違反になるんでしょ」
――!
嬉しくて……なんだか涙が出そうになった。……手をつなぎながら、日曜日の準備や後片付けをするのは大変な筈なのに……。
「恩にきます」
たぶん、一生。
「生徒のための生徒会だからな。我々も一肌脱ごうではないか」
「リアル手つなぎ鬼ごっこ~!」
誰に言う訳でもないが、そう言いながら生徒会長にタッチし、生徒会長は副会長へタッチして分裂した。会長と副会長。書記と会計がそれぞれ手つなぎ鬼になってくれたが……見ていてぜんぜん違和感を覚えない。
書記と会計も恐らく付き合っているのだろう……。
これでもう、俺達は今日のノルマを達成したことになる。賀東先生達はどうやって鬼を増やすのかは分からないが、先生達は大人だ。大人の知恵でなんとかするだろう。
不可能と思っていたことがどんどん実現していくと、希望が見えてくる――。
俺達は「幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ」を全員の手をつないでクリアすることができるかもしれない。
――そう思い始めた矢先のことだった――。
ブーン。
「あっ!」
――!
純香が一瞬声を上げると、金槌を置いて内ポケットからスマホを取り出した。急に声を出すとドキッとしてしまう。
「どうしたんだ」
「内ポケットに入れていたスマホが……動いて、ちょっと驚いたの」
ここにいる者以外からのメッセージが届くことに……漠然とした不安を感じてしまう。
「最近、左胸が敏感なのよ……」
……。
前にも聞いたが、それって、今、言わないといけないことなのだろうか。
スマホの画面を見る純香の顔から血の気が引いていき、つないでいる手を握る力を感じなくなる。離してしまわないように俺が力を込めて握り返した。
「どうしたんだ、純香! しっかりしろ――!」
「やばいわ。お母さんにバレちゃったみたい」
――純香の一言で……ことのヤバさを悟った。
クリア目前のゲームデーターがすべて消し飛ぶような虚無感と、これまで犯した自分の悪事がさらけ出されるような恐怖感に……下唇が小刻みに震え出した……。
――なんだって!
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