生徒会役員達
金曜日。登校してすぐに教室で緊急ミーティングを開いた。
「学校にいる全てのプレーヤーを見つけ出す方法を考えてみたんだ」
「そんな方法、あるのかよ」
「ああ、だがそのために生徒会の力を借りようと思う」
「生徒会長って三年生でしょ。わたし達の力になってくれるのかしら。ただのお遊びだとあしらわれるかもしれないわ」
如月の言うことはもっともだ。だが、俺達には時間がない。
「もう、使えるものは何だって使うしかない」
「簡単にわたしたちのお願いを聞いてくれないかもしれないけれど、相談してみる価値はあると思うわ」
一時間目が始まる前に生徒会室へと向かった。旧校舎の校長室が生徒会室として使われている。
――コンコン。
入る前には必ずノックだよな。
「入りたまえ」
落ち着いた声が中から聞こえるのだが……相手が先生だったらどうする気なのだろうか。
初めて生徒会室に入り息を飲んだ。さすがは昔の校長室だ。壁も机もソファーも……高級な物ばかりで、新校舎の校長室より豪華絢爛だ――。
黒い革張りの椅子に座る生徒会長、伊吹寿人。生徒会長の威厳が……校長先生のそれよりも強い。整った顔立ちと、生徒会長特注の制服は……みんなの制服と色が違う。校則違反も通用しないようだ。
「ようこそ、我が生徒会室へ」
「お、おはようございます」
生徒会長が着席を許可するように手を差し出す。俺達四人は皮張りのソファーに座った。生徒会長の横には切れ長な目をした長い髪の副会長が立っている。……マネキンのようにピクリとも動かずに立っている。瞬きもしない。
「話は先生方からも聞いている。どうやら君たちは大変な事件に巻き込まれているそうだね」
「……はい」
低く落ち着いた声で優しくそう言われる。頼りにしていいのだろうか……この人達を。
「俺達は『リアル手つなぎ鬼ごっこ』を真に受け、犯人の強迫に怯えているんです。……犯人は今週の日曜日までにプレーヤー登録した人たちを全員見つけ出し、全員にタッチして手つなぎ鬼にしろと言ってきました。できなければ、今手をつないでいる鬼の誰かに危害をくわえると……」
「ほほう……」
座ったまま腕を組み、興味深く話を聞いてくれる。
「同じクラスメイトの松見が、興味本位で不正に入手した全校生徒のアドレスで新規ゲーム登録をしてしまい、いったい何人の生徒を登録したのかも把握してないそうです」
ログインIDにアドレスを入力し、パスワードにも同じ文字を入力し、ログインできた場合は新規登録してログアウトする作業を……夜中に地道に繰り返していたのだろう。いったい何が楽しいのだろうか、その行為の――! みんなが手つなぎ鬼ごっこに夢中になる光景を、それほど見たかったのだろうか。結局のところ松見自身は監視員だったから手をつなげなかったし……。
「ピクピクシリーズのオンラインゲームをやっていて、アドレス名とパスワードが同じ人が勝手に登録されている可能性があるんです」
「――なんだと。それでは、我々生徒会役員もそのゲームに参加している恐れがあるってことなのか」
「……ゲーム中に、大きく広告バナーが表示されたことはありませんか」
「あう! ある! 知っているぞ、ただの広告バナーにしてはやり過ぎだと抗議してやった」
……ってことは、生徒会長もしっかりプレーヤー登録されているってことになる。
「……ひょっとして、生徒会長もアドレスとパスワードを同じで使っていたんですね」
「――! なぜそんなことを! 知らん! 断じて知らんぞ!」
生徒会長が焦って立ち上がると、副会長が歩み寄った。
「伊吹様、落ち着いて下さい。わたくしも同じ広告バナーを見たことがあります」
「なに、麗菜も見たことがあるというのか」
副会長の光来麗菜がこくりと頷いた。長い黒髪と膝より下まであるスカートは、一昔前の女学生の名にふさわしい……。
「はい。日曜日の六時三〇分。画面を埋め尽くす『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』の広告バナー。他にも見たという生徒からの情報を聞いております。ご安心ください」
副会長がコクリと頷くと、生徒会長はゆっくりとまた大きな黒い椅子へと腰を下ろした。
「そうか。取り乱してすまなかった」
どこでどうご安心したのだろうか……。それよりも、いったい何やっているんだ、この二人は。
結局は生徒会長も副会長も、アドレスとパスワードを同じにしていただけじゃないか……俺達と一緒で……。とは言わない。恥ずかしくて言えない。
「全校生徒の中からプレーヤーを探し出すために、全クラスを対象にアンケートに答えてもらいたいんです」
「ほほう。アンケートか」
「そのためには、生徒会長である伊吹さんの協力が必要なんです」
生徒会長からも教頭先生にお願いをしてもらいたい――。
「フ……見え透いた嘘はやめたまえ」
「――!」
嘘なんて……ついていないのだが……。
「アンケートなら君たちが先生に頼んでもやってくれるだろう。なにせ、学校側もこの問題に手をこまねいているのだからな」
「手をこまねいているというより、手をつながされているのだろうけれど」
「……」
賀東先生達が手つなぎ鬼になっているのも、生徒会役員達は知っているようだ。
「案ずるな。生徒会は生徒の味方なのだ。君たちはアンケートのお願いと言っているが、本当はその後々のことまで生徒会の助けを借りたいのだろう」
「……」
見透かされていた……。
アンケートを一緒に集計してもらい、その後の対応にも手を貸してもらいたかったのが、バレていた。
「まずは、見せてみたまえ。君達が考えたアンケートとやらを」
汚い字で恥ずかしいのだが、昨日の夜に純香と二人で考えたアンケートのメモ書きを手渡した。
アンケートの内容は、こうだった。
一、あなたはオンラインネットゲームをやった事がありますか。(はい・いいえ)
二、はいと答えた方は、そのゲームを教えて下さい。( )
三、ゲームをやっていて、おかしな広告バナーを見たことはありますか。(はい・いいえ)
四、あなたは週に何時間くらいゲームをやりますか。( 時間)
五、学校生活は楽しいですか。(はい・いいえ・どちらともいえない)
六、その他、意見があればなんでも記入して下さい。( )
七、豪華プレゼントが当たるキャンペーンに応募される方は、名前を記入ください。
( 年 科 名前 )
「……」
「汚い字だわ」
「本当ね。汚いわ」
「字くらいは練習しなくては駄目だ。読もうという気になれないぞ」
寄ってたかって雁字搦めですか……。
「それにアンケートで名前を書かそうとすな」
「――くっ」
怒れれてしまった。いいアイデアだと自画自賛していたのに……。すなって……酷いぞ。
「そりゃあ、名前を書いてくれた方がありがたいのは分かるが……」
「豪華プレゼントって、なんだ」
「……まだ考えていません。それほどお金も掛けられないし」
生徒会長からため息が漏れる。
「君たちは生徒を騙そうというのかね」
「……」
「生徒会長として看過できないな。仕方ない、豪華プレゼントは生徒会が準備しよう」
「え、本当ですか――!」
生徒会には多額の資金があると聞いた事がある。実際にこの部屋には冷蔵庫が置いてあり、テーブルには高そうな茶菓子まで盛られている。
「豪華プレゼントとして、生徒会長からの熱いキスを贈ろうではないか」
「「――!」」
――生徒会長からの熱いキスが、豪華プレゼントになるものか――と、思わず突っ込みたくなってしまったが、我慢した俺は偉いと誰か褒めて欲しいぞ――!
「……やだ。欲しいかも……」
――! 問題発言だぞ、如月! 隣で慎也が豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔をしている。豆鉄砲を食らった鳩なんて、見たことないのだが、目が点だ。
「でも、生徒会長と副会長は付き合っているんじゃないんですか」
噂というより、全校生徒が知っているぞ。いつも副会長が腕を絡ませて登校しているのは校内で有名な話だ。
「わたしのことは気にしないで下さい。生徒のための生徒会なのですから。生徒会長のキスはわたし一人が独占していいものではありません」
「そういうことだ」
あ、この人達……かなりポンコツかもしれない……。
「一時間目が終わるまでに、アンケートは作らせよう。二時間目の授業は最初の一五分間アンケートをする時間に割いてもらう。その後回収し……昼休みまでには集計させる。君たちは昼休みにもう一度ここに来てくれ」
「え、アンケートを作らせるって、誰にですか」
「先生達にだ」
「……」
本気か、この生徒会長は……。
いや、普通はどこの高校でも生徒会長って、これくらい偉いのかもしれない。
これが普通……なのか。
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