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木曜日 午後六時三〇分


「……とりあえず、今日も六時三〇分のメッセージを確認するか……」

「うん」

「もし犯人からの内容が危険なら……泊まっていくといいよ」

「うん。そうさせてもらうわ」


 如月と慎也が……やぶ睨みで俺と純香の会話を見ている。

「なんか、初々しいなあ……」

「そうよね。もう月火水と一緒に寝た仲なのに」

 ――一緒に寝た仲って言わないで――!

 凄い語弊を招くから――!


「人のことより、慎也達は大丈夫なのかよ!」

「ああ。昨日も舞子ちゃんの両親と御飯を食べたぜ。なんか俺、家族の一員みたいに認められて、ず~っとラブラブだったのさ」

「ねー」

 ねーって……。

 ……慎也のいったいどこにクラスのアイドルと付き合えるスキルがあったのか――!

 髪の毛が……少し茶色いところなのか? ……いや、少し髪の毛が茶色は山ほどいるぞ。

「『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』のお陰だよな」

「ねー」

 ねーって……。

 犯人が手を上げて喜びそうなこと言うんじゃねーよ……。



 今日も自転車の二人乗りをして帰った。途中、純香が替わりたいなんて言うから……俺も後ろで立ち乗りをした。こがずに進むのって……不思議な感覚がした。

 ひょっとすると電動自転車って、こんな乗り心地なのだろうか……。



「ただいま」

「おかえりなさい。純香ちゃんも」

「すみません。今日もお邪魔になります」

 深くお辞儀をするところが……俺や慎也と違い、礼儀正しいなあと思う。

 慎也が家に来た時なんて……挨拶そっちのけで、「ご飯まだ?」と催促するくらいだ。まあ、俺が慎也の家に行ってもそうだったのだが……。


「いいのよ。おばさんも娘ができたみたいで楽しいから」

 ……息子で悪かったなと愚痴を零しそうになった。



 時計の針は六時三〇分ちょうどだった。慌てて部屋に上がり、ゲーム機とテレビの電源を入れる。

 今日もきっかり計ったように、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』の広告バナーがでかでかと表示され……、また文字ばかりの画面に切り替わった。


「こ、これは、書かれている内容が――昨日とぜんぜん違うじゃないか――!」

『だって……まさか、監視員を見つけてしまうなんて……』

 声が……、

 また女の子のアニ声がテレビから聞こえると、ドキッとしてしまう――。すべて筒抜けだ――。松見がまだ学校に監禁されている事も知っているのかもしれない――。


「俺達は自由になるはずだろ!」

『え、なんでそうなるんですかぁ? 意味不明ですぅ』

「もう俺達に罰則を与える監視員がいないんだ。手を離したって誰も罰することができない」

『フッフッフ。皆さんは、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』をしているんですよ? 罰則がなかったらルールを破るのなんておかしいわ。見つからないからといって自転車の二人乗りをしたり、タバコを吸ったりお酒を飲んだり信号を無視したりするのと同じですぅ』

「同じじゃない! お前が勝手に決めたルールであって、社会のルールじゃない。そもそも鬼が手を放して罰則なんて、おかしいんだ――」


『ゲームにもルールがあります。それを破るのはルール違反、チートですよチート。それに、罰則が必要なら……、いつでもわたしが与えちゃいますよ』


 ――くっ、こ、こいつ……。


『フッフッフ』

 アニ声の笑いに……初めて恐怖を覚えた。どこの誰か分からないが、俺達はまだ掌の上で踊らされている――。

 掌の上で、手つなぎ鬼ごっこをさせられている――!


『じゃあ、これから幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこのルールを少し変えてみましょう』

「――なんだと!」

 今更ルールを変更するだと――。

『手つなぎ鬼ごっこなんだから、鬼はもっと鬼を増やすように頑張って下さい。もっとたくさんタッチして増やせるはずですよね』

「冗談じゃない――」

 今までも一生懸命頑張ってきた――!


『そうだ! 綿串律高校全員のプレーヤーを見つけ出し、全員を手つなぎ鬼にして下さぁい!』


 ――プレーヤーを全員だと!

「アホか!」

「無理に決まっているわ!」

『日曜日の、午後六時三〇分までに。できなければ、鬼の誰か一人に罰則を与えちゃいますぅ!』

 鬼の誰か一人ってことは……鬼を増やさなければ確実に俺の友達が犠牲になってしまうじゃないか――!

「き、汚いぞ!」

『綺麗です。アホって言う人がアホです』

 ……。

『鬼ごっこの鬼は、プレーヤーを追いかけてこそゲームが成立するのです。計画的に鬼を決めて、増やしていっても面白くないでしょ。幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこも同じです』

「やめてくれ、鬼の誰か一人を狙うんだったら、ことの張本人である俺を狙えばいい……」

 俺が……こんな奴のゲームに乗ってしまった俺が全部悪いんだ――。

「駄目よ、一真!」

『ああ……美しい愛。幸せの絶頂点ですね、羨ましいなあ~。でも、それじゃゲームとして面白くないでしょぉ。だから駄目でーす』

「くそお!」

 これじゃ向こうの言いなりじゃないか――!

『鬼も必ずペア毎に一日一人ずつは増やしてくださいね。もちろん鬼がルールを破って手を離したのが分かったら、警告と罰則にわたしが向かいますわ。あと少しの辛抱です、頑張って幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこをクリアしましょうね! バイバーイ!』

「まて、ちょっと、質問!」


 画面が切り替わると、昨日とは違う文字が浮かび上がった。

 最後の方が修正されている……。日曜日の午後六時三〇分にすべてのプレーヤーを見つけ出し、手つなぎ鬼にすることと赤字で書かれていた。


「くそ! ……絶対に無理だ、全員だなんて」

 綿串律高校には六〇〇人もの全校生徒がいる。さらには先生達……。

 その中からプレーヤーだけを全員見つけ出し、さらには手つなぎ鬼にするなんて……。しかも、今週中――。もう、今日は木曜日。

 明日は金曜日なんだぞ――。

 明後日は土曜日、明々後日は日曜日なんだぞ――。誰か一人が犠牲者になってしまう――。


 賀東先生ならいいのだが、他の先生や生徒なら……いったいどうすればいいんだ――。

「賀東先生ならいいのにね……」

「うん。俺も今、同じことを考えていた」

 なんとか賀東先生に罰則を与えるように、明日、犯人に提言してみるか……。


「――じゃなくて、何とか方法を考えよう。今からでもできる方法を……」

「今からでもって……難しいわ」


 ちょうど純香のスマホに如月からメッセージが届いた。

「舞子達も今のメッセージを確認したみたい」

 スマホを覗き込む。

『全員を手つなぎ鬼にするなんて、無理よ!』

『俺、ヘッドショットされるの嫌だぞ――』

 二人も同じ気持ちだ。犯人からのメッセージを見てパニックになっている。

『わたし怖いわ』

『如月ちゃんだけは、俺が守ってあげるよ』

『……ありがとう、岬君って、格好いいだけじゃないのね』

 ……。

 わっざわざメッセージで送ってくるな――!

「ちょっと、見ててイラっとするなあ」

「うん……。のろけ話は二人でやれって言いたいわ」

 他の手つなぎ鬼達には緊迫感が伝わっていないのかもしれない。さっきのアニ声は……本当にゲームを楽しんでいるような声だった。

「話をしている間に文章を作り直して、各プレーヤーに送信するなんて早業はできないと思う。犯人は、俺達と話す前からルールを変更しようと企んでいたんだ――」

 監視員が見つかった時点で次のルールを準備していたんだ。


 全校生徒のうち、プレーヤーとプレーヤー以外の相違点はなんだ――。どうやってそれを見つければいいんだ――。生徒全員の緊急連絡用のメールアドレスは個人情報だから簡単に見せてもらえないだろう。松見に聞いたとしてもプレーヤー登録できた生徒全員を覚えているはずがない。……ひょっとすると、プレーヤーは思った以上に多いのかもしれない。


 さらにはどうやってそのプレーヤーに「リアル手つなぎ鬼ごっこ~」と言ってタッチし、ルールを守って生活させればいいんだ――。罰則のことを説明すれば、本気で逃げられてしまうだろう。

「職員トイレの前に……男女ペアの長い列ができてしまう……。教室では男女の机がすべて隣の席とくっつき……授業中、利き腕の反対の手でノートをとらなくてはならなくなる。味噌汁を飲むとき、汁を飲むか具を食べるか、どちらかずつしかできなくなってしまう――」

 どうしたらいいんだ、もう、おしまいだ――。

「落ち着いて、一真」

「落ち着いていられない……明日はもう金曜日なんだ。一日でプレーヤーを全員見つけ、手つなぎ鬼にすることなんて、不可能だ――」

「明日はもう金曜日だから、ラッキーって考えられない?」

「ラッキーだって」

 金曜日がラッキーって……どういうことだろう。たしかに次の日から休みなのは金曜日の嬉しいところではるが……俺達には時間がない。

「……残り時間は少なくて焦ってしまうけれど、学校で過ごす時間が一日だけなのは、ラッキーなのよ」

「……」

 金曜日の放課後から手をつなげば……授業中に手をつなぐ必要はなくなる。いや、それだったら土日の休みだけ手をつなげばいいのか。

 ……いや、土曜日も無理に手つなぎ鬼ごっこをする必要はない!

「――そうか、俺達みたいにずっと手をつなぎ続ける必要はないんだ! 日曜日の午後六時三〇分の直前でいいんだ」

 だったら、考えようはある。とにかく、プレーヤーを見つけ出し、鬼になってもらう必要性を知ってもらう……。日曜日の期限前に集まり、そこで一気に手つなぎ鬼を増やし、達成すればそこでゲームクリア……。

実際にみんなで手つなぎ鬼ごっこをやってみるのも一つの手ではある。


「しかし……、犯人から新たな指令や期限の延長があれば、アウトだ」

 ルールを自分の都合で変えてくる犯人なんて、信用できない――。

「その時はもう、わたし達だけの力だけじゃどうにもならないわ。もし被害が出れば、警察やゲームメーカーにも連絡をとって、対処してもらわないと……」

「被害が出なければ、警察も動いてくれないか」

 学校のガラスを割ったのも、生徒の悪戯程度にしか思ってくれないのだろう。実際に松見が割ったのだから……。



「だったら、手つなぎ鬼を増やしている間に、犯人を探しましょ。ずっと犯人の思い通りになるなんて、面白くないわ」

 純香の瞳が真剣だった。犯人を許せない気持ちが伝わってくる。つないだ手に力がこもっている。ちょっと痛いくらいに。

「そうだな、犯人を見つけ出し、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』を幸せじゃないゲームにしようとしている罰を与えてやらなきゃ」


 偉そうなことを言っておきながら……今日も純香と一緒にデレデレ晩御飯を食べてお風呂に入ってお布団で寝たことは……内緒だ。


 ――ずっと幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこをしていたいのは……絶対に内緒だ――。


読んでいただきありがとうございます!

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