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リアル手つなぎ鬼ごっこ


 隣の席の純香と、なんか話すきっかけを作りたかった。

 もう五月だというのに、会話らしい会話をしたことがない。話が続かないのは共通の話題がないせいなのだろうが、それでもなんとか話をしたいのが恋心だ……たぶん。


 昼休みになると教室内ではあちこちで机をくっ付けあって弁当や購買で買ってきたパンなどを仲がいい友達同士で食べる。

 俺はいつも通りに一人で弁当を食べる。慎也も普段から弁当なのだが、あいつは三時間目が終わったら早弁を食べる派なのだ。他にも運動部の男子は大抵が三時間目が終わった時点で弁当を食べるのがこのクラスの主流だった。

 普段は隣の純香の席に弁当やお菓子を女子達が持ち寄ってきて、キャーキャーワイワイと賑やかに食べるのだが、今日は純香一人だった。

 月一回の生徒会委員会の日か……教室の男子も何人かいなくなっている。


 昨日の「幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ」の話をしてみようか……。純香が他の女子と話している時に、ネットワークゲームをしている話をチラッと聞いた事があった。ニワトリやウズラを育ててゆったり農園ライフを楽しむ系だったとは思うが、ゲームの話なら純香と普通に喋れるかもしれない。


 食べ終わった弁当箱を鞄に仕舞おうとした時に、何気なく肩を叩いた。


「幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ~って、知ってるか」

 ――純香は、急に驚いた目で俺を見つめてきた。そして教室内を右左と確認すると、慌てて俺の右手を握ってきた――。


 え、何が起きているの、これって……。


 純香の手は温かかった。左手中指の第一、第二関節にはテーピングが巻かれている。毎日のバレー部の練習で突き指をするのだろうが……。

「ちょっと……、冗談でしょ?」

 握った手を他の席から見られないように、机の下へと下げながらまた辺りを見渡す。

「冗談って……なにが」

 手を握って恥ずかしいなら直ぐに離せばいい。俺だけに聞こえるような小さな声だった。

「まさか、榊君が鬼だなんて……」

「――鬼! 俺が、鬼だって?」

 なんだ、なんだ。俺はそんな鬼のようなことをした覚えはないのだが……、昨日の「幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ」の解説では……アニ声でそんなことを言われた。

「幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこの鬼が、まさか同じ学校の……うんん、まさか榊君だったなんて、信じられない――。冗談でしょ」

「あ、ああ、冗談さ、冗談に決まっている」

 手を引っ張るが、放してくれない。

「駄目よ! 鬼同士が手を放したら……ルール違反なんでしょ」

「あ、ああ」

 昨日の甘いアニ声でもそんなことを言ってたが……いくらなんでも冗談を鵜呑みにし過ぎじゃないのか、純香は。

 ……まあ、そんなところが一層魅力的なのだ。名前の通り、純で素直で何事にも一途だったりする。今も少し顔が赤い。

 つながれた手は……温かくて柔らかい。いつまでも握っていたい……。だが、現実は厳しい。もう五時間目が始まってしまう。授業中はいくら隣同士の席だからといって、手をつないだままではいられない。

「ちょっと、放すよ」

「あ、駄目よ」

 純香の左手と俺の右手が離れようとしたその時――、


 カッシャン――!

「――!」

「キャア!」

 ――教室の廊下側一番後ろに飾ってあった花瓶が突然割れた――。


「どうしたの、あ、花瓶が割れてるじゃん……」

「風が強かったのか……」

「やーん、わたしの鞄、濡れちゃったじゃないの。って、くっさ! 花瓶の水ぜんぜん代えてないじゃないの~……」

 花瓶の近くの席からざわつきが起こる。窓がすべて開け放たれていたから風のせいで落ちたと思いたいが……。急に大きな音がしたので慌ててまた純香の手をしっかりと握っていた。純香もしっかり握り返している。


 少し震えているのが伝わってくる。銃声のような音は何も聞こえなかったが……。


「風のせいだよ、きっと」

 できるだけ落ち着いた声でそう言うが、純香は震えていた。

「……放しちゃ駄目。どこかから監視されているのよ」

 そっと椅子に座り直す。窓の外からは旧校舎の窓や屋上が見えるが……誰も見当たらない。そもそも、スナイパーのような人がいるのなら、俺達のような一般人に見つけられる筈がない。俺だって見つからずに狙撃できる自信がある。

 それに、もし屋上から狙ったのなら廊下側に置いてあった花瓶を狙うのは角度的に不可能だ。同じ三階で真横の高さからじゃないと不可能だ。


 花瓶はクラス委員の松見幸和(まつみゆきかず)が片付けてくれた。

「花瓶が割れて、ガビーン」

「「……」」

 今のは誰に向かって言ったのだろう。松見はちょっと変わったキャラだ。極度の兵器オタクで、モデルガンを趣味で集め、抱きながら寝ているそうだ。自分で言っていた。


「おや、破片の中に、なにやら丸い弾が混じっているぞ」

 ――! 弾だって! 席を立って見せてもらおうとしたら、純香がキュッと強く手を握って見つめてくる。

――いっちゃダメ。そう言っているように感じた。

「フムフム、これは……鉛だな」

 鉛だと――。だったら、俺達を狙ったのは間違いなく……銃じゃないか――!

「レアだ。頂いておこう」

 ……いいのかそれで。

 松見は辺りを見回し、鉛の弾を制服のポケットへしまった。本来であれば……事の真相を担任、いや、警察に連絡するべきなのかもしれない。だが、今は事を荒立ててはいけない。スナイパーがどこから狙っているか分からない。安心できるまで俺と純香は手をつなぎ続けなければいけない。

 ――今は情報量が少な過ぎる。

 怖がり震えながら手を握り続けている純香も……きっと何かを知っている筈なんだ。


 松見は割れた花瓶の破片を塵取りで集め、ゴミ箱へと捨てていた。花瓶って……燃えるゴミでよかったのだろうか……。


読んでいただきありがとうございます!

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