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スリングショットの鉛玉


 二人乗りをして登校したが、学校近くからは自転車を押した。

 昨日、慎也や如月から何も連絡がなかったことからすると、特に問題なく過ごせたのだろう。そう願いたい。

 校門を抜けると自転車置き場で二人を待つことにした。


「あいつら、大丈夫だったかなあ」

「えらく心配するのね」

「……もとはと言えば、俺が蒔いた種だからなあ」

 心配事は色々ある……だろ。


「ちゅりーす」

「おっはよー!」

 俺の心配なんて、なんのそのだなあ……二人共。ガクッ。

「――校門を手つなぎ二人乗りで通ってくるな!」

 先生に見つかったら……より一層ややこしくなるではないか――!


 如月が手をつないだまま器用に自転車から下りると、慎也は自転車にチェーンの鍵を取り付ける。

 なんだろう……もう、二人がずっと付き合っているカップルのように見える。手のつなぎ方も……俺と純香より自然に見える。


 ――恋人つなぎをしている――! 親親人人中中薬薬小小の順に握っている――!


「なにラブラブしちゃってるのよ、舞子」

「だって、岬君て、格好いいじゃない。苗字が……」

「へへ。今頃俺の格好よさに気付くなんて。如月ちゃんもお目が高い!」


 ――苗字がかっこいいって、褒め言葉なのか――! 本人関係なくない? 好き嫌いの問題だと思うぞ。

 だったら、俺の苗字、(さかき)だって格好いいぞと自負したい――。


「岬舞子って、可愛いじゃない! わたし、岬君のお嫁さんにしてもらおうかしら」

「いいよ。よろこんで」

「「……」」

 本気なのか? なにか毒でも盛られたんじゃないだろうか……。

「嬉しい。今日も一緒にお風呂に入ろうね」

「もちろんさ!」

「「――!」」

 ――ちょっと、待って。待って! 

 なんだ、その軽~い軽~い会話は!。


 ――幼稚園児でもそんな簡単にお嫁さんごっと、やらないぞ。



 クラスに入ると俺は、確認しておきたいことがありクラス委員の松見幸和を探した。


 真面目なクラス委員を目指している松見は、毎朝早くに教室に来て黒板消しをクリーナーで掃除したり、席の位置がずれていれば調整したり、やらなくてもいいようなクラス委員の仕事に精を出している。

 勉強は俺達と一緒で、あまりできる方ではない……。


「なあ松見、ちょっと見てもらいたい物があるんだ」

 昨日、職員トイレで拾っておいた鉛玉をポケットから取り出して見せる。

「月曜日に花瓶が割れていた時、鉛の玉が転がっていたと言ってたが、これと同じものなのか」

 手に取って重さを確かめる松見の顔はいつになく真剣だった。

「これは……同じだ! 花瓶が割れた時のと同じ物だ」

「やっぱりそうか。松見はこの玉を見ただけで、何の玉か分かるのか?」

「うーん」

 丸い球を上にかざし、眼鏡の縁を傾けて真剣に観察する。

「ライフル弾か」

「いや、鉄砲の弾じゃない……だろう。こんなに丸い銃弾はありえない。大した傷も無いから……。これは恐らくスリングショットの弾だ」

「スリングショット?」

「……」

 純香も俺と同じように眉をひそめる。


「ああ、玩具のパチンコって知っているか」

「知っているが行ったことはない。十八歳未満はパチンコは打てないはずだ」

「……」

 白々しい話に純香が目を細める。

「いや、そのパチンコじゃなくて、ゴムを使って玉を飛ばすパチンコのことだ。スリングショットといって、玩具よりももっと強力な奴があるんだ。この鉛玉も、恐らくはそれ専用の弾だ」

「そうだったのか。分かった、ありがとう松見」

 手渡していた鉛玉を返してもらうと、席へと戻ろうとした。

「ちょっと待ちたまえ、榊」

 クラス委員になってから松見は、言葉遣いも偉そうだ。

「ひょっとしてだが、君たちは、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』の鬼になったんだろ。だから手をつないでいる」

「――! どうしてそれを知っているんだ。松見もゲーム中に見たのか、あの広告のバナーを」

 恐らく松見がやっているゲームは、俺と同じシューティングゲーム「森でピクピク」で間違いない。というより、一年の時にそのゲームの存在を俺は松見から教えてもらったのだ。

「ああ知っているとも。クラスの数人も薄々そのことに気付いている。そうでもなければ如月さんや椎名さんが堂々と男子と手をつなぐはずがないだろ」

「……たしかに、そうね」

 たしかにって……。

「僕でよければいつでも力になる。鬼は勘弁してほしいが、席替えや先生との連絡くらいは協力できるから」

「ああ、ありがとう。頼りにしているぞ」

「フッ、それがクラス委員の仕事だからな」

 眼鏡の縁をまたクイっと指で上げた。



「スリングショットの弾だって知っていて、わざと松見君に聞いてみたの?」

「うん」

「うんって……」

 授業が始まると静かに純香とさっきの話を整理していた。

「あの広告バナーのことも知っていたみたいだ。松見の話からすると、このクラスで数人が気付いているということは、全校でもかなりの生徒が知っているはずなんだ」

「鬼が増えだしたら……パニックになるわ」

「ああ。タッチしてくれーだとか、タッチしないで~とか。登校拒否して引きこもりだす生徒もいるかもしれない」

 俺と純香や慎也と如月のように無断外泊が増えても、かなり不味いことになるだろう。

「PTAとかに知られても、不味いわね」

「ああ、不味い。PTAの役員に誰もなりたがらなくなる」

 今でも十分なりたがらないがな――。報酬でもあれば別なのだろうが……。子供の内申書に書けるとか……。


「だが、今日は俺達の味方がいるから、別行動が取れる」

「味方? ……ああ、舞子達のことね」


読んでいただきありがとうございます!

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