ご飯。そしてまたお風呂
御馳走って……天ぷらだった。……野菜の。
一階に下りると四角い座卓の中央には、大きな皿に野菜の天ぷらが山盛りになっていた。母は盛り付けの方法をしばしば誤る。美味しそうに見えないぞ。
「ごめんなさいね、岬君が来ると思っていたから……」
慎也ならこれでも十分だ。あいつはご飯だけあれば他には何もいらない派なのだ。
「いえいえ、野菜の天ぷら、凄く美味しそうです!」
聞くところによると母は、俺からスマホのメッセージで友達を呼ぶと送ったら、慎也が来ると勝手に思い込み、慎也の好きな……ご飯だけをとりあえず五合炊いておいてくれた。
……まあ、女子を連れて帰ると言わなかった俺のせいでもあるのだが……。
サツマイモの天ぷらは……あまり喜ばれないぞ。
「サツマイモの天ぷら、大好きなんです」
「……」
「そうなの。よかった、どんどん食べてね」
そういえば、俺は純香の好物とかはぜんぜん知らない。お世辞とは思えないほどサツマイモの天ぷらを食べるところを見ると、本当に好物なのだろう。
「これは……なんですか」
「ああ、タラの芽よ」
「タラの芽というよりは、もはやタラの葉だがな……」
トゲトゲした木の先っちょに毎年出るタラの芽を切って収穫するのだが、少し大きくなっていても食べられる……。
「あ、美味しい……」
タラの芽の天ぷらは俺も好きだ。好きな物が共感できると嬉しくなってしまう。
「この白色の短冊切りにしてあるのは、長芋かしら」
「いいや、それはウドだよ」
「ウド?」
「ああ。ウドの大木って聞いた事あるだろ。あれの小さい頃はシャキシャキしていて食べられるんだ」
小さい頃はよく父と一緒に山に入って探し回った。最近はゲームしてばかりだから、一緒に山に入ったり釣りをしたり、ぜんぜんしていない。このウドが、父の採ってきたウドなら……ご馳走と言えばご馳走なのかもしれない。
三杯酢で食べるウド。小さい頃はそれほど美味しいとは思わなかった。
「あ、長芋とはぜんぜん違う……。美味しいわ」
「まあ良かった。お父さんにも伝えておかなきゃ」
「……いや、伝えるのは……またの機会でもいいんじゃないかな」
平日に女子を連れて帰ってきているなんてバレたら……怒られそうだ。
楽しそうに純香と母が話しているのを横目に、俺は左手でご飯を食べた。
ウドの三杯酢が……今日は甘酸っぱく感じた。左手では……箸で掴むのが難しかった。
「お風呂も溜まっているから、順番に入りなさい」
「あ、ああ」
……お風呂かあ……。
「もう、わたしは……平気よ」
――!
平気って……何がどう平気なのだろうか……。
「……マジで言っているのか」
ゴクリと唾を飲む。
「うんマジ。一真が向こうを向いて目を閉じていれば、わたしは大丈夫」
ホッとする。
なーんだ。見ないのなら一緒に入っても平気というのであれば、俺も同意見だ。
とは思ったが、やっぱりお風呂に二人で浸かるのは……よくない。滅茶苦茶緊張してしまう――。
女子って……ひょっとすると、男子よりも大人なのだろうか。純香は人の家のお風呂で、俺と入っているというのに、凄くリラックスしている――。
「あー気持ちい」
「あ、ああ」
もちろんお互いを見ないようにはしているのだが……チラッと肩とか爪先とか普段教室で見えないところが見えると……駄目だ駄目だ――。
深呼吸をして落ち着かなければならない……。ふー。はー。
純香は……ちゃんと着替えを持って来ていた。こうなることを昨日の夜から予想していたとは……さすが女子だ。
――ブイ―ン……。
お風呂を上がり、部屋で髪を乾かす純香。お布団の上にペタンと女の子座りをしていて可愛い。やってみると、俺にはできない座り方だった。……関節がおかしくなる。体は固い方なのだ。
「でも、よく親が許してくれたな」
「うん。舞子の家に泊るって言ってある。でも、お母さんはたぶん気付いているわ」
「――え」
じゃあ、あの恐いお父さんにもバレてるのではないだろうか……。今にもブオーンと低い車の排気音が聞こえてきそうで、怖いぞ
「大丈夫よ。母親って父親に娘のことは99.9%話さないから……」
「前にも聞いたが……」
信じていいのだろうか。
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