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手つなぎお風呂 Ⅱ


「この三人手つなぎ鬼状態で、本当に入る気なのか」

「二人も三人も、一緒よ」

 ――一緒なものかと反論したいぞ。昨日も二人で狭い脱衣所で着替えるのに苦労したのをもう忘れてしまったのかと問いたい――。


「わたしだって嫌よ。お父さんにも見られたことないのに、榊君に見られるなんて」

「大丈夫よ舞子。わたしだって見られていないわ」

「え、じゃあどうやって昨日はお風呂に入ったのよ」

「簡単よ。お互いがお互いを見ないように気を付けて入ったのよ」

「……」

 俺の方を細い目で見ないでくれ。

「実は見てたでしょ」

「見てない」

「本当は」

「本当に」

 神に誓ってもいい。

「なんで」

「……え、なんでって……見るなって純香が言うから、見ない方がいいに決まっているじゃないか」

「真面目か――」

 俺って……真面目だったのか……。普通は見ないと言っておいて見るものなのか……。


「じゃあこうしましょ。ジャーン! 目隠し!」

 ……純香も……掴み切れない性格の持ち主でいらっしゃる。

「悪いけど、一真だけ目隠ししてくれる? そしたら三人でお風呂に入れるわ」

「……」

 どーすればいいんだ俺! いや、そこまでして三人でお風呂に入るミッションを遂行しなくてはいけないのだろうか。

 ……目隠しされて両手をつないだままお風呂に入って……どうされるんだ――! 体とかって、もしかして洗って貰えるのか? それって、正真正銘プチハ―じゃないか! 喜んでいいのか分からないぞ。

「ちょっと、エロい想像しないでよね」

「……昨日も言ったが、それは無理だ。目隠しが逆に刺激的だぞ」

 想像力をかき立てる――。

「他の方法を考えましょ」

「時間がないのよ。急ぎましょ」

 グイグイと純香が手を引っ張ると、如月も俺も付いていくしかなかった。


「そこまでしてお風呂に入らないといけないのか」

 一日や二日くらい入らなくても死にはしない。

「今日は体育があったでしょ。それに汗もかいたし」

 今でも汗だくなのは否めない。

「あなた達二人は体育してないじゃないの! 二人で手つなぎ鬼ごっこしてサボっていたなんて、先生に言いつけてやりたいわ」

「怒らないでよ。さ、一真は早くこれを腰に巻いて」

「分かった」

 サッと純香と如月が目を逸らした隙にズボンとパンツを脱いで腰にタオルを巻く……。腰にタオルを巻いて結ぶのって……片手では意外と難しいなあ……。

「よしできた。手つなぎチェンジだ」

 俺と純香が手をつないで、一度俺が如月と手を放して上の服をすべて袖から脱ぐ。脱ぎ終わればまた手をつないだ。上半身裸の俺をあまりジロジロ見ないで欲しい。恥ずかしいから。

「じゃあ、しばらくの間、辛抱してね」

 そう言われて目隠しを付けられた。髪を束ねるやつなのだろうか、ゴムが効いていて目の高さでピタリと止まるのだが、ごっそり透けて見える。

「純香、これ、透けて見えるぞ」

「――え、見えるの」

「え、ちょっとヤダー。わたしもう殆ど上脱いじゃっているのにー!」

 それって、言わない方がいいことだと思うぞ。あ、ひょっとして、俺も言わなくていいことを言ったのかもしれない。慌てて後ろを向いた。

「困ったわ……。あ、いい方法があるわ。目を閉じて」

 とりあえず言われたまま目を閉じる。

「ああ、それで、いい方法ってなんだ」

「そのまま目を閉じとくのよ」

 目を閉じとくか……なるほど。その手があったか。

「う、うん」

 それだけでいいのなら、そうさせてもらうが……。

「――ちょっと、ちゃんと目を閉じているでしょうね、薄目なんて開けてないでしょうね!」

「閉じているよ」

「これ、見える?」

「……ひょっとして、如月は俺を挑発しているのか」

 目を閉じているから見えないぞ。

「怪しいなあ……」

「すまない。怪しくないんだ。俺は見ないと言ったら絶対に見ない派なんだ」


 見ないものは見ない派――。俺がもし、ツルの恩返しの主人公だったなら、鶴は一生――布を織り続けさせられることだろう。鶴にとってそれが幸せかどうかは……賛否両論だろうが……。


「さあ、入るわよ」

「うん」

 お風呂に入るのにもかなり気合がいる。目の前が真っ暗だが、手を握っている二人が裸だと考えると……ダメだ、考えてはいけない――。ゆっくり息を吐いて気分を落ち着ける。

「舞子、また胸が大きくなったわねえ……」

 ……。

「あ、分かる?」

 ……。

 俺が目を開けたら見えるってことを二人とも忘れているのではなかろうか。


 順番に手をつなぎ換えて体を洗っていくのだが、浴室に三人はさすがに狭い。バスタブに女子二人が浸かると、お湯が大量に溢れ出してしまう。……音でそれが分かる。

 最初に俺が体を洗った。ほぼ手探りで。昨日の記憶から、シャンプーの位置やシャワーヘッドの高さはある程度想像がつく。トニックシャンプーがスースーする。

「二人でお風呂に入るのって久しぶりね」

「そうね……中学一年の頃だったかしら。お泊り楽しかったね」

 二人は度々お泊りしていたのか。俺はあまりお泊りって、したことがなかったなあ……。友達も少ないから。

「ちょっとこれ、触ってみていい?」

「駄目よ。って、あー勝手に触んないでよ、エッチ!」

「……」

 お願いだからお風呂でイチャイチャしないで――! トニックシャンプーがスースーするから――! 目にだぞ。目に入ってスースーするんだぞ――!


「洗い終わったから交替しよう」

「まだ泡ついてるよ」

「え、どこに」

 目を閉じているから見えない。クスクス笑われてお風呂のお湯をタオルの辺りにかけられる……。

 腰に巻いているはずのタオルが、どうなっているのか分からない……触ってみると、ちゃんと巻いてあるのだけは分かった。

 タオルがほどけても……落ちないかもしれない……。

「舞子、先に洗う?」

「そうするわ。じゃあ手をつなぎ換えよっか」

 ってことは、俺は純香の手を握ればいいのか。どうせ両手をつなぐことになるのだろうが。感触では今、左手は如月の右手を握っている。

「純香、ここを握っても、つないでいることになるかもよ」

「プー、クスクス」

「……」

 ここってどこ――! そこは手じゃないから握らないで――!


「やだ榊君、どこと勘違いしているの? わたしたちが言っているのはそこじゃなくて、ここよ」

「そこやらここやら言われても分からないだろ! ちゃんと目を閉じているんだから」

(ぎょく)よ」

 玉――!

 そこは握らないで――! ヒヤッとすると、キューっとなるから――!


「バカバカ! 純香、ストレートに言い過ぎよ! あー熱い早く交替しよ」

 ザバーっと浴槽から上がる如月と交替した。純香はまだ浸かったままなのだろうか。両手をつながれて目隠しをしていると……なにも分からない。


 二人で浴槽に浸かると……言わないけど、純香の肌に体が当たってドキドキする――。純香は平気なのだろうか……。

「一緒にお風呂に入ると、楽しいね」

「え、あ、ああ」

 クスクス笑われた。

「わたし、舞子に言ったんだけど」

 ……くっそ~。


 ――ブオーン!

 ――はっ、この音は?


読んでいただきありがとうございます!

ブクマ、感想、お星様ポチっと、などよろしくお願いしま~す!


この物語はフィクションです。3人手つなぎお風呂は試さないでください!

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