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狙撃


「キャー」

「純香、大丈夫か――」

 純香の制服や体かには外傷は見当たらない。助かった……急な音に驚いただけか。窓から遠いからガラスの破片が当たったりもしなかったのだが……心臓がはち切れそうなくらいドキドキしたままだ。

 アニメや映画で狙われるシーンを見ているドキドキ感とはまったく違う――。

 ――実際に自分が得体の知れない奴らに狙われると、こんなにも恐ろしいなんて――。


「いったい何事よ――急にガラスが割れたけど」

 割れた。不自然なくらい急に。

「物凄いスピードで烏が激突したのかしら?」


 天然ボケ――!


 純香が如月の手をしっかり握っているのを確認すると、

「いや、実はタッチした後で、非常に言いにくいんだけど、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』の罰則って、リアルにやばいのよ……だから真剣に考えて欲しかったの」

「どうなるの……まさか」

「狙撃される。ヘッドショットと言って、頭を狙われるんだ」

「嘘でしょーゲームじゃあるまいし」

 奴らにとってはゲームなんだ。


 リアルなゲームなんだ――。


「昨日、花瓶が割れたのも、俺と純香が一瞬手を放した時だった」

「ええ! あのせいでわたし、鞄が臭い汁で汚れて買い替えたのよ。純香達のせいだったの!」


 ――それは花瓶の水を変えなかった日直当番のせいだ――。しいていえば、クラス全員のせいだ――。

 っていうか、高校にもなって花を教室の後ろに飾っておくなと言いたい――。


「でも、学校の窓ガラスって、普通は防弾ガラスなんでしょ? 水族館のアザラシやトマホークが当たっても割れないって聞いた事があるわ」

「「――ないしー!」」

 防弾ガラスはともかく、トマホークって……巡航ミサイルのことだろ? いくらなんでもありえない。


「とにかく、直ぐに帰りましょう。手をつないでさえいれば安心なら、何としても日曜日まで逃げ切ってみせるのよ」

「……逃げ切ってみせるって、わたし達は鬼なんでしょ。手つなぎ鬼。だったら、逃げるんじゃなくて捕まえるのがルールよね」


 ――捕まえる?


「普通はそうよ。でも、今はできるだけ鬼は増やさずにゲームを終わらせないといけないのよ」

「いや、俺達が捕まえるのは、一般人(プレーヤー)じゃなく首謀者だ――。さっきガラスが割れた時、俺はてっきりライフル銃で撃たれたのかと思ったが、銃弾じゃないみたいだ」

 丸い鉛の玉を二人に見せた。

「こんなに丸い銃弾はないはずだ。つまりこれは、スリングショットの弾、パチンコの玉だ!」


「――凄いわ、飛んできた玉を素手で受け止めたの」

「もしかして、わたし達を守ってくれたの」


 ……いや、落ちていたのを拾っただけなんだけれど……。


「ああ、間一髪だった……ップ」

 嘘過ぎて吹き出してしまった。それに、手で止められると勘違いされても困る。

「ごめん、受け止めたのは冗談だ。早過ぎて止められるわけがないよ。でも、スリングショットなら当たっても死なない……打ちどころがよければ」

 安心はできないが、銃で狙われるよりはマシだろう。ガラスを割った時点で威力も弱まる……。


「ってことは、犯人は学校内に潜んでいるってことになるわ。逆に危険よ」

「そうね、逆上させたらルールを無視して鬼以外の人を狙うかもしれないわ」

「……」

 犯人を捕まえようとしない方が、安全か……。一人とも限らないとすると……かなり厄介だ。

「そうだな。だったら……仕方ない。帰ろうか」

「帰るってどこによ」

「……」

「ああ、わたしの家よ。一真も昨日からわたしの家に泊っているの」

「――ええー! 純香の部屋に榊君を泊めたの? 大丈夫? なにもされなかった?」

「色々されたわ」

「いやーだあ」

 軽蔑の眼差しかよ。

「――まてまて、まてー! 何もしてないのに聞き捨てならないぞ――!」

 お風呂入る時にちょっとだけ体が触れ合ったのと……冷たい水をかけられたのと……寝ている時に気が付いたら胸に手が当たっていたのと……。何もしていないとは言えないが、たぶん如月が想像しているようなことは――していない!

「冗談よ。なにもしてこなかったわ」

「えー、泊まったのに何もしてこなかったの? ちょっとおかしいんじゃない」

 次は口元を抑えて謎視線(なぞしせん)を浴びせてくる。

「あのなあ……」

 ……腹立つぞ、ガールズトーク。

「まあ、純香が一緒なら大丈夫よね。分かったわ、帰りましょ」

「うん。一真、わたしの鞄持ってくれる」

「……ああ」

 鞄持ちくらいはいくらでもさせてもらうさ。なんせ純香は両手をつながれているのだから……。



 帰りに職員室へガラスが割れたことを報告しに行った。三人で仲良く手をつないで……。

「お前ら……仲良さそうだなあ」

 手をつないだまま入ってきた三人を見ると、担任の賀東は呆れ顔だった。せめて職員室内では手くらい放せと言いたげだ。独身の先生がたくさんいるから。

「はい。賀東先生、教室の窓ガラスが一枚割れました。風か烏の仕業か分からないんですけど、急にパリーンって。ねー」

「「うん」」

 如月がニコニコ返事するので俺も純香も作り笑いを余儀なくされる。ねー、と急に振られても困るだろーが。

「放っておいてもよかったんですけど、後々わたし達が怪しまれると困るので言いにきました」

 家に電話が掛かってきても都合が悪い。

「風か……何かがぶつかったか……とりあえずガラスは先生が片付けておくよ。指でも切られたら面倒くさいからな」

「はい、お願いします。失礼しました、さようなら」

「さようなら」


 如月は礼儀正しい。そして、どことなくちゃっかりしている。俺や純香とは違い、皆に愛されるキャラだ。

 さすがはクラスのマドンナ……この時はそう思っていた。


読んでいただきありがとうございます!

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