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三人目の手つなぎ鬼


 さすがに体育の授業は見学をした。制服のまま二人で肩を寄せ三角座りし、グラウンドを走るみんなを見守る。手はつないだままだ。

 そよ風が心地よい。このままずっと時間が止まってしまえばいいのに。純香と手をつないだままいつまでも、いつまでも……。それで純香が、「わたしもそう思っていたところよ」とか言ってくれたりしちゃったりしちゃったりして~!


 ……かずま。……一真!

 俺を呼ぶ声がする。心地よい眠りを邪魔するものがいる……。

「うーん……」

「一真って、体育も見学だと寝るのね」

 純香に起こされた……。クスクス笑っている。

 そよ風に揺れるショートボブが玉葱のように丸く、髪が一本一本キラキラ輝いている。

「……せっかくいい夢みていたのに……」

 心地よいそよ風にウトウトしていたみたいだ。でも、目が覚めても夢のような現実が続いていることに喜びと……少しの不安を感じる。


 昨日、学校で撃たれかけたのだ。いつ、どこから誰が狙っているのかも分からない。いったい、なぜ俺が鬼に選ばれたのかも、背後にどんな組織めいたものがあるのかも、何もかも分からないことだらけだ。

 なのに幸せだ……。ゲーム名の通り、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』だ。


「今日、もう一人鬼を増やさないといけないのか」

「……そうね。罰則がどんなものか分からないけれど、今日も六時三〇分までにもう一人『手つなぎ鬼』を捕まえておいた方が安全だわ。犯人が何者か分からないうちは……」

「次の鬼を捕まえるといっても……。二人ならまだしも、三人並んで手をつないで授業なんか受けられない。三人で手をつなげば真ん中の鬼は……両手が塞がれた状態になる――!」

「授業中にノートが取れないわ……」

 ごめん、もっと真剣に考えて! 授業中にノートが取れなくても、生活に支障はきたさないだろ。

「そんなことより、飲んだり食べたり一人でできなくなるだろ。それに……トイレだってどうするんだよ。男であれ女であれ、両手を使わずに用を足すなんて不可能だ――」

 ……純香の頬がゆっくり赤くなるのが……え、いまさら? と思ってしまうぞ。

「バカ! スケベ!」

 ――だーかーら、そんなことにならないように、もっと真剣に考えて!

「三人捕まえたらすぐに四人目も捕まえるべきなんだ。三人で手つなぎ生活するのは、二人の時よりも倍以上苦労する」

「……でも」

 人差し指の第二関節辺りを口に当て考え込む。

「鬼の数はできるだけ増やすべきではないと思うの。必要最小限にしておく方が、被害は拡大しないわ」

 鬼の数は少なくてすむ。鬼が被害者として考えるのであれば、その方がいい。

「……そりゃそうだが……」

 もし三人なら、俺は今日も純香の家に……泊るのか? 三人目の鬼も一緒に泊まるのか? だったら男はまずいだろう。

 だが……女子ならいったいどうなる……プチハーレムとかいって、喜んでいられるのか。


「うーん。やっぱり三人目だけを捕まえましょう。舞子ならきっと分かってくれるわ」

 如月舞子――!

「一真も舞子のこと、嫌いじゃないでしょ」

「嫌いじゃないけれど……」

 クラスのアイドル。嫌いなわけないじゃないか……。だが、俺は明日からクラスの男子全員を敵にまわすこと疑いなしだ。 四面楚歌! 呉越同舟! 犬犬犬猿! 周りが敵だらけになるだろう。他のクラスの男子からも妬まれそうだ……。

「ちょっと待て、本当に如月を説得するつもりか」

 場合によっては命に関わる大事な選択なんだぞ。

「男二人なんて絶対に嫌。いいじゃない一真、プチハーレムよ」


 ――喜んでいいのか、そのプチハーレムを! たぶん、両手をつながれたままで苦労するのは俺の役割だ。トイレの時もチャックを下ろされて、両サイドからクスクス笑われて可愛がられるんだ……。

 だが、俺の友達……たとえば慎也ならと考えると……いや、駄目だ絶対に。俺と慎也の二人鬼ならともかく、そこに純香を合わせた三人鬼は考えられない……。



「舞子、ちょっと時間あるかなあ」

 放課後の教室に三人残り、スマホの画面を見せたりして如月にゆっくりこれまでのことを説明した……。

「ええー! じゃあ、純香と榊君は、本気でその『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』をやっているというの」

「そうなのよ。だからこうして今も手をつないでいるの」

「なーんだ」

 ホッとしたような顔の如月。いや、その真相が分からないぞ。


 如月も純香と同じゲーム……『執事たちの館にはお姫様のご褒美がタップリ詰まってピクピク』をユーザー登録して楽しんでいたらしく、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』の広告バナーについても、その後に出てくる画面についても知っていた。


「てっきりゲームメーカーが次の新作を宣伝しているだけと思っていたのに……」

「本当にいいのかい?」

 危険な目というよりは……かなり不便な目に遭うことになる。

「いいわよ」

 軽い返事すぎて……後が怖そうだ。

「この歳になって、手つなぎ鬼ごっこって面白そうじゃない」

 知らないぞ。そんな軽い気持ちで鬼になっても……。

「じゃあ……いくわよ。『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ~』」


 ポンと如月の肩にタッチする純香。当然なのだが、なにも起こらない。


「……これで、いいの?」

「うん。たぶん。これで三人目の鬼が誕生よ」

 ……キャーキャー走り回るような鬼ごっこじゃないんだ。楽しくもなんともない……如月にしてみれば。

「じゃあわたしも榊君と手をつなごーっと」

 おっと、なんだろう、その嬉しい発言。

 ひょっとして、俺って自分じゃ気付いていなかったがクラスの女子が密かに憧れるタイプなのだろうか。――中学の頃に一度だけ、トム・クルーズに似ていると言われたことがある。嘘かお歳暮か知らないが……。

 両手にお花とは、このことを言うのだろうな。如月の手は純香の手ほど大きくなく、柔らかさに驚ろいた。手の感触は当然一人一人違うのだろうが、こんなにも個性が現れるなんて。……握り方も優しい。

 如月が俺の手を握ったとき、純香の表情が曇った……ような気がした。ひょっとすると、俺が嬉しそうな表情をしていたのかもしれない。

 そんな気まずい雰囲気を一早く察知したのは、如月だった。

「あ、やっぱり、わたしは純香と手をつなぐね」

「……」

「あ、ああ」

 如月の手が俺の手から離れた一瞬のできごとだった――。

「――あ、駄目だ!」

「手を放しちゃ駄目よ――!」


 ――ビシィッ、バリリーン――!

 教室の窓ガラスが割れた――。


読んでいただきありがとうございます!

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