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日曜日 午後六時三〇分


 ――男子って、どうして殺し合いのゲームが好きなの――



「よっしゃ、七キル!」

 ヘッドショットされた敵が無様に血を流して倒れ、ピクピクと痙攣して動かなくなるのが……心地いい。


 直ぐに窓から身を隠した。まだ敵はたくさんこの地域に隠れている。スナイパーライフルの残弾数を確認し、リロードしようとした時、急に背後の扉が開く音が聞こえた――。

 チッ、しまった――!

 咄嗟に振り向くと、全身迷彩柄の大男がマシンガンを構えている――。慌てて銃を構えようとするが、時すでに遅し――俺の武器は接近戦に弱い――。

 ――ダンッ! ダダダダ!

 銃声の度に画面がグラグラ揺れ、目の前が赤くなりひび割れ模様が表れる。もうトリガーを引くことも……できない。

 ――YOU DEAD――。――お前は、死んだ――。


「ちくしょー! ガッテムだ―!」

 VRゴーグルとヘッドホンを外すと、普段の見慣れた室内へと変わる。俺の部屋だ。

 ガンプラや単行本の背表紙がぼんやりと見えるのは……目の使い過ぎだ。ゲームに熱中し過ぎるといつもこうなる。

 日曜日はいつもこんな風に生活していた。時計を見ると、ぼんやりだが六時半を指している。晩御飯までにもう一回くらいはできそうだな。

 もう一度ゴーグルをかけ直し、コントローラーを手にした……。


『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』


 目の前、360度すべてを埋めつくすパステルカラーの文字に唖然とした。なんだ、この邪魔な広告バナーは! マジでイラつく。大き過ぎだろ!

 無料オンラインゲームのあるあるか……仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが、画面をすべて埋め尽くす広告バナーには怒りを覚える。邪魔過ぎて操作ができないではないか! 「幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ」だと? 逆に不幸せで反感を持たれること疑いなしだ。


 広告バナーの右上にある「✕」をコントローラーを使って押すと……可愛いアニ声で音声が聞こえた。

『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ、スタートぉ!』


 コレって悪質だよな……。

 ひょっとしてゲーム機本体がコンピューターウイルスに感染しているのではないだろうか。もし感染していれば本体の初期化が必要となる。これまでやってきたゲームデーターの初期化もありえると考えると……冷や汗が出る。

 せっかくここまで強くした無料バーチャルオンラインシューティングゲーム、「森でピクピク」のデーターも初期化されてしまう――。

「クソッ! どうにかならないのかよ」


『この度は新規登録して頂き、ありがとうございますぅ』

 新規登録なんかした覚えはない――。

『ルールはとっても簡単です。手つなぎ鬼ごっこでーすぅ!』


 手つなぎ鬼ごっこは黙って――!

 俺の週末のセンシブルな楽しみを返して――!


 画面いっぱいに現れる手つなぎ鬼ごっこのルールに……泣けてくる。文字で埋め尽くされた画面に……愕然となる。ああ……もう、どっぷりウイルスに感染してしまっている……。コントローラーからの操作も受け付けず、ただヘッドホンから流れる甘いアニ声に……、

 ――頭がどうにかなってしまいそうだ!


『手つなぎ鬼ごっこって、知っていますかぁ?』

 ……。

「……知ってるよ。小学生のとき、二時間目と三時間目の二〇分間休憩によく遊んださ。あと、土曜日の朝も授業の前によくやっていた」

 肩を落としたままその声に答える。涙が出そうだ。オンラインシューティングゲームのルールや操作方法に比べたら……手つなぎ鬼ごっこのルールなんて、簡単過ぎて血へどが出る。


 体育館くらいがちょうどいいんだよなあ。校庭でやると広過ぎるからなかなか終わらないんだ……懐かしいなあ。手つなぎ鬼ごっこ。


『だったら話が早い!』

「――ぶっ!」

 こちら側の声までウイルスに感染してだだ漏れ状態なのか――。このVRゴーグルにはマイクが付いている。

 カメラが付いていないのだけが救いだったな……。

 電源を強制的にシャットダウンしようとして、本体の電源ボタンに手を掛けた時――、


『好きな子、いますか?』

 ……手が止まった。

「いま、なんと言った」

『だから、好きな子って、いますか?』


 ――ふざけるな!


「いるに決まってるだろ! 俺だって、高校二年生なんだぞ! 青春思春期の最中だ! 最中と書いてモナカと読むんだぞ――!」

『プッ。くだらない』

 じゃあ吹き出すなよと言いたい。腹立つわあ……。どこの誰だか知らないが、ネットハッカーか悪徳商法の回し者のくせに――。


『でも安心して。そんな好きな女子と、ゲームの中で手をつなげるチャンス到来ですぅ』

 ……俺の好きな女子がこんなオンラインVRゲームをやっているはずがないだろ。と言い返してやりたい。リアル手つなぎって、バーチャルリアルのリアルってことなのか。……くだらない。

『ルールは超簡単。鬼が一般プレーヤーにタッチするだけ。男でも女でも構いません。タッチする時に、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ~』と声に出してタッチすればいいだけです』

「……」

 ちょっと長くないか……このゲームの解説(チューとリアル)もそうだが、タッチする時の掛け声も。声に出すのは恥ずかしいぞ。

『あの、聞いてます? もう一度言いましょうか?』

「いいです」

 そんなに「幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ」って……流行らせたいゲームなのだろうか。いったいどこのメーカーが作ったのだ。画面中には会社のロゴがどこにも見当たらない。海外の無名メーカーなのだろう……やることがエグイ。


『鬼にタッチされた人も鬼になり、鬼同士は手をつないだまま次の人を掴まえてください。同じように『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ~』と声に出してタッチすれば、どんどん鬼が増えていくんですぅ~』

 ――知ってるし。

 ――こう見えても俺は、小学校の頃から足は早く、手つなぎ鬼ごっこも結構強かったし。

 ――足は早かったが、手は……遅いし。奥手だし。

『一人でも多くの方々が手に手を取り合えれば、幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこの達成で~す!』

 ヒューヒューパチパチと安っぽい効果音が入る。


「それで、鬼が四人になったら二人ずつに分離するのか、しないのか、どっちなんだ」

 手つなぎ鬼ごっこではそこが重要なポイントだ。

『鋭い! 鬼が四人になれば二人ずつに分かれます。なので、タッチしたら必ず鬼が手を繋ぐのと、四人になったら二人ずつに分裂するのがこのゲームのキーになります! キーというか、味噌です』

 キーでも味噌でも……どうでもいい。


 VRオンラインの手つなぎ鬼ごっこ、面白いかもしれない。すぐ飽きるだろうが、一度くらいはプレイしてやっても悪くはない。

「だが、鬼は増え続けるだろうし、ゲームならクリアがあるはずだろう」

 制限時間内、鬼に捕まらずに逃げ回るとか。

『フッフッフ』

 アニ声の笑い声は、ぜんぜん迫力に欠ける。可愛く聞こえてしまう。

『制限時間は一週間です! 鬼は増えますが、事前登録されているプレーヤーは現時点から増えることはございません。来週日曜日の夕方六時三〇分を無事に迎えられた時点でゲームクリア、つまりは終了となりま~す』

 制限時間の長さにクラっとする。

「ちょっと待てよ、一週間も逃げ回れる訳がないだろ。学校にも行かなくちゃいけない。ずっと部屋にこもっていたとしても四六時中逃げ回れるはずがない。寝ている時間に捕まってしまうだろ」

『安心して下さい。今回、榊一真(さかきかずま)様は、逃げる必要はございません! 鬼です、鬼!』

 ホッ……安心した。

 いや、それでいいのか――俺! いきなり鬼って……腹立つよ。


『それでは一週間、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』をお楽しみください!』

「ちょっと待て! 待って!」

『え、ええ。なんでしょうか。まだ他にも聞きたいことがあるんですか……面倒くさいなあ……』

 ……面倒くさがるんじゃねーよ。

「一緒に鬼をやっているプレーヤーが抜けたり落ちたり……ログアウトしたらどうするんだよ。動かなくてもいいのか」

 操作できない時はオート操作に切り替わる機能とかがあるのか聞きたい。

『ログアウト? ああ、鬼同士が手を離したのが確認されればルール違反ですから罰則がありますよ』

 んん? ログアウトして動かないと、手を離したって扱いになるのか。だがそれがルール違反はちょっとおかしい。それに罰則ってなんだよ、聞いてないぞ。

「ルール違反で罰則だと? ゲームオーバーか」

『はい。それと、鬼である榊一真様が誰も捕まえようとせず、一人ぼっちの状態で日が経っても罰則とゲームオーバーです』

 ……。

「ゲームオーバーはともかく、罰則ってなんだ」

『ヘッドショットです』

 ヘッドショットって……。頭撃たれちゃうの?

「……幸せのタイトルにそぐわないこと言うなよ」

『どんなに幸せなゲームでも、ズルやルール違反はいけません。手つなぎ鬼ごっこでも、手を放していれば鬼と一般人との見分けがつかなくなるでしょ。それに、鬼が誰も追い掛けなかったら、鬼ごっこが成立しません。ですから、ゲームにはそれ相応の罰則が用意されているのです』


 ……なんか、聞けば聞くほど怪しいゲームに聞こえてくる。


『それでは一週間、『幸せのリアル手つなぎ鬼ごっこ』をお楽しみください!』


 と同時に、ゲーム機の電源がパシャリと落ち、目の前が真っ暗になった――。


読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「森でピクピク」、矮鶏様の作品でよく出て来ますね(笑)
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