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今夜、月より彼女が綺麗に見えたなら  作者: 九丸(ひさまる)
4/5

月夜の晩は嫌なんだよ4

 分かってんのかお前はと、俺の頭を小突きながらも、さらに話に熱が入った。


「だからな、そんな時がきたら、すっぱりと別れろ。無理に続けたってお互いにつらいだけだ。もしそんなんで結婚してみろ? すぐに離婚だぞ」


 なるほどね。そんな時は黙って身を引けというわけだ。


「じゃあ、結婚した後だったらどうすんだよ?」


 俺の問いに、親父は難しい顔をした。


「まあな。結婚ってさあ、そんな感情だけじゃ成り立たないわけよ。してしまったら、いろんなしがらみやなんかもあるだろ? 子供もいりゃあ、なおさら二人だけの問題でもないしな」


 そりゃそうだとの俺の返事を聞いて、親父も頷いた。


「母さんはどうだったの?」


 俺の言葉に親父は照れたような顔をした。あんたいくつだよ? なんて突っ込みそうになる。


「母さんはいつも綺麗だったよ。もちろん結婚してからもな」


 母さんは俺を産んですぐに死んでしまった。だから俺には記憶なんてものはなく、親父の隣で優しく微笑んでいる写真でのイメージしかない。でも、その母さんの顔は嘘偽りなく幸せそうだった。


「親父はさあ、月より綺麗じゃない母さん見なくて、ある意味幸せだったんだよ」


 ちゃかした俺の物言いが勘にさわったのか、少し強めに頭を叩かれた。


「バカやろう。母さんはな、今でも綺麗だったはずだ。例えどんな月持ってきても負けねえよ」


 自分の言葉のせいなのか、酒のせいなのか、親父の顔はさっきよりも赤い。


 俺がさらにからかうように、「そんなオノロケいらないよ」と親父に返すと、「なにおう!」とヘッドロックをかまされた。


 それが俺と親父の最後の会話だった。


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