継承
「ーーだから、何度も言ってるじゃないですか、あの子はまだ一歳にもなってないんですよ。それなのに公爵家を継ぐなんて無理があります。それに、あの子は女の子ですよ。他の家の長男と婚約して、その人に継いでもらったほうがいいんじゃないですか?」
「何を言っているのです。あの子は...ヒルデ様はヴァイス様とイリス様の唯一のお子様であり、ご息女です。それに、遺言状にも、ヒルデ様に家督を継がせるように、とお書きになられています。他家の長男に継がせるなど言語道断です。...とにかく、私はヒルデ様以外のお方に公爵家を継がせるのは反対です。」
「しかし!...あの大移動のせいで領内は滅茶苦茶ですし、帝国との戦争の噂もあります。ましてや、ファーベル家は王国最強の武闘派貴族として他家を引っ張っていかなければなりません。...どうかご再考を。」
...目が覚めたら、乳母さんと使用人が言い争ってたんだけど、内容から推測するに...私に公爵家を継がせるかどうかってことだよね?あと、今更だけど私の名前ヒルデって言うんだ、驚き。
いろいろわからない単語が出てきてるけど、乳母さんは賛成で、若い男性の使用人は反対だってことはわかった。
乳母さんは先代の公爵の意思を継ぐことを優先で、使用人の人は生後数週間の赤ちゃんに継がせるのは無理だって言ってるね。
先代の意思を守るのは素敵だと思うけど、流石に今回は使用人さんに賛成かな、と言ってもなんもできないんだけど。
「それにしても、ルー森林の魔物はおとなしいことで有名でしたのに、なぜ大移動などを行ったのでしょうか?」
「噂によれば、森林に強大な魔物が現れて魔物を虐殺したことで、怯えた魔物たちが逃げ出したのだとか」
それと、と付け加えて使用人は続けた。
「魔物は複数のローチだったと言う証言もありますよ」
「ローチはそれほど強い魔物では無かったはず...と言うことは変異種と言うこと?」
「恐らく」
...ローチ。森林。...うっ頭が!
いや...違うよね?違いますよね?私が仲間増やす為にデス・ローチ送ったのが原因とか...ないよね?
「そういえば、不思議な証言もありましたよ。」
「何かしら?」
「ローチたちは倒した魔物たちを何処かへ運んで行ったらしいです。巣でも作っていたんですかね?」
...間違いない、うちの子だ...
どうしよう、やっちまった。罪悪感で寝れなさそう。
「幸い、死傷者は出ませんでしたが、ヴァイス様の誘導がなければどうなっていたことか、想像するだけで鳥肌が立ちます。」
あ、死傷者いなかったんだ、一安心だ〜。
あ〜安心したら眠くなってきたや、ねよ。
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コンコンコン
ん〜?誰か来たのかな?
「失礼致します、魔法通信です。」
「少々お待ちください。」
「陛下からのご命令です。《大移動被害拡大。即刻後継者報告セヨ。折返シデノ返信願ウ。》とのことです。」
「それでは、ヒルデ様を公爵家の後継者として報告してください。」
「承知しました、報告致します。」
「お待ちくださーー」
「しつこいですよ、首になりたいのですか。」
「しかし!」
「...よろしいのですか?」
「お気になさらず。続けてください。」
乳母さんの後ろからオーラ見たいなのでてたよ...怒らせたら怖いタイプだじゃん...
「終りました。ご利用ありがとうございました。失礼致します。」
そう言うと通信局の人は帰っていった。
あ、魔法通信ってのは現代でいう所の郵便局みたいなものです。と、それは置いておいて、
一気に決まっちゃったな...私が公爵家の当主か...大丈夫かな、領地崩壊させた張本人なんだけど...
とてもいい笑顔で乳母さんが近づいてきて、私を抱え上げてにっこりと笑った。
「これからはビシバシ鍛えていきますよ、お嬢様」
え、笑顔が怖い...
私の人生史上最悪の地獄の日々が始まろうとしていた。
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そういや、私のお父さんなんで死んだの?
魔物の襲来が原因とは思えないし...
「ああ...ヴァイス様さえ生きていればヒルデ様も伸び伸びと育つことができますのに...」
「まさか、酔っ払って頭を打って死んでしまうとは、予想外でしたね。」
「酒癖の悪いお方でしたので、いつかはこうなってしまうとは思っていましたが...せめて、あと10年は慎重に動いて欲しかったですね。」
なるほど、お父さんは天才肌のアホの子だったってことか。お父さん、アホの子しか子供に遺伝してないよ...