道具屋
しかし、危機は去ったといっても次もないとは言えなさそう。
現に、私のことを狙ったってあいつら言ってたし。
改めて今日の服装を思い返すと、精悍な執事を連れた、フリルの沢山ついたドレスを着た女の子なわけで。
こんな格好じゃ、自分から私はお嬢様だって周りに言って回っているようなもんだ。
「うーん。」
不思議そうな様子でベルゼブブはこちらを見ている。
多分彼はもめ事なんか慣れっこだから平然としてられるのだろうけど、私は足掛け二十四年おうちの中で大事に大事に育てられてきたから、こういうのはいちいち心臓に悪くてやってらんない。
なんとか目立たないようにできないものか...
辺りを見渡してみると、汚れて同化していたから今まで気づかなかったけど看板らしきものが。
えーっと、なになに、「傷薬に雑貨まで、何でもあります。」だって!
ワンチャン服とかもあるだろうし、大きな布でもあれば体を覆って隠せばだいぶましになるでしょう。
それに、冒険者ギルドは微妙だったけど、道具屋ならって気持ちもある。異世界らしい道具とか、魔物の体からとった素材とか。おしゃれアンティークな雑貨なんかもあるかもしんないし。
...よし、入ってみるか。
「わぁ。」
少し埃を被っている曇りガラスの入ったドアを開けると、その向こうには想像していた通りの光景が広がっていた。
店内は年季の入ったオランタンの明かりが仄暗く照らしており、薬草っぽい変わったにおいが充満していた。
薬棚には緑色のドロドロした液体や紫色の液体が入った瓶があり、緑色の方は少し光っている。
天井からは星をかたどった金属製の装飾品や魔物の干物がぶら下がっていて、壁や柱には緑色の植物が這っている。
「いらっしゃいませー。」
カウンターには珍しく黒髪の若い女性が頬杖をついてけだるそうな様子で接客をしていた。
その店員さんはどこかで見たことがあるような気がしたけど、多分気のせいだろう。
それよりも、 この瓶に入った謎の液体の方に興味をそそられた私は聞いてみることにした。
「あの、すみませんが、この緑色の液体ってなんですか。」
そう言うと、その店員は一瞬意外そうな顔をしたがすぐに、
「そちらの瓶は傷薬ですね。家庭用のものなんですが、うちのは効き目が強くて、傷口に塗り付ければ軽い傷であればすぐに、大きな傷でも五時間くらいで大抵の場合治りますよ。長期間保管できますので家庭にいくつか置いておくといざというときに役に立ちますよ。」
傷薬、優秀すぎる。こんなにすごいと一家に一本くらいは常備しておきたいものだろう。だが、
「それで、いくらくらいなんですか。」
そうなのだ。効果がすごすぎて、中々値段が恐ろしいことになっていそう。
・・・そう思ったのだが、提示された値段は元の世界の価格に換算して三千円くらい。
まあ、絆創膏ほど気軽に使えるようなものでもないが、300mLくらい入っているから何回も使えることを考えると、買っておいて損はないだろう。この時点で、この傷薬をお買い上げすることは私の中で決定した。
ちなみに、青い方は魔力薬らしいです。そういえばこの世界にきてから一度も魔法を見ていないのでベルゼブブに私も魔法を使えるのか聞いてみたら、誰でも使えはするらしいです。ただ、使いこなすには練習が必要で、専門の学校もあるらしいです。いつかいってみたいなぁ。とはいえ今は必要ないので、見送りました。
結局道具屋では、傷薬と大きな布切れを買ってきました。
身体に巻いてみたときにあるこの安心感、まるで隠れてゲームしてるときみたいだ。布団って偉大。
ともかく、準備は整ったのだけど、あいにくギルドはあの様子だったので望薄。夜になればもっと集まってるかもだけど、夜までは時間がある。ってことで、せっかく外に出たんだし外でしかできないことをいようと、壁の外に。外といってもそこまで遠くじゃなくて、歩いて五分くらいにある森へ。
ちなみに、王国では子供の安全のために数え年で八歳になると保護者がいれば、外出が許可されるみたい。豆知識。
さて、森にやってまいりました。公爵家の周囲にはちっさいのから大きいのまで結構森があってその中でも今回来たのは中くらいの。近場でそこそこの大きさの場所がここが一番ちょうどよかったんですよね。
それで、何をするかって言うとずばり、「モンスターの召喚」!
いやあ、さすがにお屋敷の中で虫やらモンスターやらを召喚するわけにはいかないからね。
小さいのはちょっと試したりしてみてたけど、ほとんどが試せてない。だから、必要なことだし、結構楽しみだったりする。
試していないのが数十種類とはいえ、上位互換がいたり、そんなに期待できなさそうだったり、召喚のコストにも限りがあったりなので、今回試すのは8種類と絞ってある。試す前から結構期待できそうなものばかりなのでかなりいいデータをとれるんじゃないかな。
いっぱい召喚しちゃうぞ!