番外編:お正月
「新たな年に女神のご加護があらんことを!乾杯!」
広場にグラスのぶつかり合う音が響き渡る。
異世界でも新年はめでたいものなのかあと、早川沙耶はカウンターで頬杖をついて、誰もいない店内を眺めながら呟いた。
今日は一月一日。いわゆる元日。
大人たちは夜明けまでお酒を飲み交わし、子供達は一年の中で唯一夜更けまで親に叱られずに起きていられる日。
そんなおめでたい日に、なぜか私は道具屋で一人店番させられ、鳴る見込みのない扉のベルを眺め続けて三時間...三時間だよ!酷くない?
一番楽しい時間帯をバイトで埋められるだなんて...
元の世界でのバイト経験はないけど、一月一日にシフト入るとかブラックすぎだよね?
どこも道具屋が空いてねえからってで新年早々死ぬバカがいちゃあ気分が悪いだろう?って店長言ってたけど、じゃあ自分が店番しろよって感じだよね。
店長、お得意様への挨拶周りだとか言ってたけど、ただお酒飲みたいだけでしょ。
はああ〜、とカウンターに寝そべると外の喧騒が大きく聞こえて、店内の静けさが身にしみてくる。
チッと舌打ちすると同時に、カランと音を立てて扉が開いた。
慌てて姿勢を正して、いらっしゃいませ〜と言おうとしたところで来客者の正体に気づく。
「...なあんだ店長か」
「なあんだとはなんだぁ。せぇっかくサヤが寂しがらないよぉに早く帰ってきてやったってのにさぁ。」
「店長酔っ払いすぎ。」
「なんだとぉ。私はまだまだ酔ってねぇって。ヒック。」
ふらふらと店長が部屋に戻っていく姿を横目で眺めながら、はあと溜息をこぼす。
「そういえば、奈緒と一緒にいた時も、こんな感じだったなあ。」
自分勝手で頼りなくって。
お酒を飲める年齢になる前に死んじゃったけど、私も、奈緒も。
もし奈緒と飲んだら店長みたいになるのかなあって位二人は似てるよね。
でもいざって時には頼りがいある所が店長とは違うけど。
「あぁー気持ち悪い。サヤぁーみず持ってきてー」
「はあ、魔法使えるんだから自分で水出せばいいでしょう」
「酒飲んだ後で魔法使うと気持ち悪くなる事ぐらいサヤだって知ってるだろう」
「私はまだ未成年なんでお酒は飲んじゃダメなんです」
だいたい、一番未成年の飲酒に厳しいのは店長でしょ、と付け足す
器に水を入れて店長の部屋に行くとスウスウと寝息を立てて店長はすでに眠っていた。
...ほんっと、自由な人だ。
誰もいない店内に、酔っ払いたちの喧騒が響いていた。
明けましておめでとうございます。
最後まで読んでいただき有難うございます。
皆様の一年が良いものとなりますように。