婚約者
私が公爵家を継ぐことになって3年間が経った。
初日は、少しは気が引けたのか、優しかったのが、次第にメアリさん...あ、乳母さんのことね、メアリさん慣れてきたのか次第に厳しくなって、最近では、諦めんなよ!と、某太陽神のような熱い台詞を吐きながら、ファイアーボールをぶつけてくるスパルタ教師に進化?してしまいました。
おかげで、魔力操作ができる程度には成長したけど、所詮三歳児なので、大したことは出来ず、いつも座り込んで動けなくなって、レッスンが終了する、という流れが定番化してしまい、最近、
「無理やり立たせてでも躾けるべきかしら...?」
というメアリさんのつぶやきが増えてきて、身の危険を感じ始めた今日この頃です。
さらに、会話、歴史、経営、と、座学が増えた上、礼儀や、ダンスなどの貴族っぽい勉強が増えてきている。
あ〜、引きこもってた頃とまでは言わないけど、赤ちゃんだった時に戻りたーい。
そんな弱音も出てくるようになったある日、事件は起こった。
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「ヒルデ様の婚約者がおいでになりました。」
・・・へ?
あれ〜?婚約者なんていたっけ?
「こんやくしゃ?」
3歳なので舌ったらずなのは許してください。
「ハイル大公様の次男、ギース・ハイル様です。」
えっと、大公って確か、王族の次に偉い位だよね、なんで私?...考えるまでもないか、公爵家の後継者が女子で、その上幼児なんだから狙わないわけないよね。
「公爵家相手に次男を婚約者に送ってくるだなんてふざけた話ですが、相手はあの龍狩りのハイル大公様のご子息ですからね...断る訳にもいきません。まあ、ヒルデ様にはまだまだ難しい話でしたね。このお話はまたの機会にいたしましょう。」
なるほど、乳母さんが選んだんじゃないのか。ハイル大公さん側から頼んで来たのか。で、断れずに承諾してしまったと。ハイル大公ってのはそんなに偉いのか。
二つ名はよくある〇〇狩りシリーズの上位に位置する龍狩り。貴族の位でトップクラスの地位の大公。乳母さんの話から察するに、一代で大公までのし上がったみたいだから、王からも信頼が厚いはず。
うん、断れる要素が見つかんないね。
私はおとなしく、相手がいい人なことを祈るしかないか。
「メアリ殿、声が外まで漏れていますよ、兄の耳に入りでもすれば、消されてしまうかもしれませんよ」
薄ら笑いをしながら入って来たのは純白の鎧に身を包み、ブロンドヘアーの、整っていながら、どこか闇を感じるような顔立ちのイケメン。
「おやおや、もういらっしゃっていたのですか、伝えてくだされば盛大に歓迎いたしましたのに。ギース様」
先ほどまで嫌味を言っていた人と同一人物だとは思えないほどの笑顔で対応する乳母さん。
胡散臭そうな顔で乳母さんをじっと見た後、くるりと私の方を向き、近づいて来て、私の目線に合わせるように、膝をついた。
「こんにちは。私の小さなお姫様。公爵家のことは私に任せて、ゆっくり育ってくださいね。」
これが、私とギースの初めての出会いだった。