ギルドにて
「ふむ、わしに何か用かな?」
信長は嗤いながら声を掛けてきた男に問う。男はニタニタと嫌らしい笑みで信長に言う。
「あんたに冒険者の流儀を教えてやるよ。俺に深く感謝するんだな!!!」
そう言って、信長にいきなり殴り掛かってきた。しかし、信長はそれを半歩ずれるだけで躱す。
戦国の世に生きた信長にとって、この程度の動きはあくびが出る程遅い。当たれと言う方が無理だ。
しかし、避けられるとは思わなかったのか男はむっと不快そうに顔を歪める。信長は尚も嗤う。
「なるほど、いきなり喧嘩を売るのが冒険者の流儀と言う訳か・・・」
「てめえっ!!!」
解りやすく怒る男。そんな男に、信長は挑発するように嗤う。受付嬢は慌てて仲裁に入る。
「ま、待って下さい!!ギルドの中でのこれ以上の喧嘩は他の人に迷惑がかかります!!!」
「ふむ、それはギルド内でなければ良いのかな?」
「そ、それは・・・・・・うぅ・・・」
受付嬢は困り果てた顔で黙り込んだ。信長は快活に笑う。
「はははっ。大丈夫だ、ほんの冗談よ!!!」
「は・・・はあ・・・・・・」
受付嬢は困り顔のまま、曖昧に頷く。信長はそのまま踵を返す。
「では、わしはもう此処を去ろう。用は済んだのでな」
「おいっ、待てよおっさん!!!」
男は尚も信長に因縁を付けようと肩に手を伸ばす。しかし、その瞬間———信長の影が蠢いた。
信長の影から狼の魔物が飛び出し、男に圧し掛かった。ギルド内がざわつく。
当然だ。信長の影からいきなり魔物が飛び出してきたからだ。
「ふむ、何か用か?」
「ひ、ひいっ!!何だ、こいつ。何なんだよこいつは!!!」
男は一転、情けない声を上げる。ギルド内も騒がしくなる。信長一人が嗤っている。
「もしや、この世界には魔物を使役する者は居ないのか?」
「魔物を・・・使役・・・?」
「・・・・・・そうか、どうやら居ないようだな。・・・つまらん」
受付嬢の呆然とした声。信長はつまらなそうに呟いた。
信長は一転、興が冷めたように笑みを消す。そして、指を鳴らすと狼の魔物は影へと戻った。
「邪魔をした。わしは立ち去ろう」
ギルドを出ていく信長。それを、ギルドに居る全員が呆然と見ていた。
ちょっとした豆知識。
第六天魔王を名乗った信長だが、歴史上においてその名を名乗った人物は何人か存在する。