対話、そして
現在、王城のある一室は極限の緊張状態にあった。魔王、織田信長の存在があったからだ。
近衛の騎士達は王を守る為、身構えている。
信長はそれを鼻で笑い、王と向き合う。その威圧感に王は一瞬たじろぐ物の、何とか信長を睨み返す。
「わしは言ったぞ、無粋な者には容赦はしないと」
「・・・・・・ああ、その通りだ。して、そちは何が望みだ?」
邪魔をしようとした伯爵は殺された。その後、この魔王は何を望むのか?
それが問題だ。しかし———
「いや、特に何も無いな」
「っ、何だと?」
王は怪訝な顔をした。そして、同時に不気味に思った。
この状況下で何も要求しない事ほど不気味な事は無い。そう、理解した。
と、その瞬間宮廷魔術師長のクリフォトが間に割って入った。
「ふむ、何の用か?」
「では、話に割り込む事をお許し下さい。貴方は特に何も無いとおっしゃった。しかし、何かあるから我等の前に姿を現したのでは?」
「・・・・・・ふんっ、そうだな。ならば一つ、要求をしようか」
「・・・・・・・・・・・・っ」
信長の言葉に、緊張が高まる。一体どんな要求が来るのか?全員が身構える。
そんな姿を、信長は嘲笑った。
「わしの要求。それは、この王城を我が拠点にする事だ」
「「「!!?」」」
戦慄が走る。それは即ち、国の中枢を明け渡せと言っているような物だ。
思わず怒声を浴びせようとした王の前に、ミアが立った。
「それは聞けません。貴方に、国は渡せません」
「ほう?それはわしを敵に回すと捉えてもよいか?」
信長はじろりとミアを見る。しかし、その顔は楽しげだ。
王と騎士達、宮廷魔術師達は黙ってミアを見ている。ミアは信長を真っ直ぐ見据えて言った。
「貴方と敵対する気はありません。しかし、国は渡せません」
「では、どうする?お前はわしに何を渡す?」
「魔王の領域です」
「「「っ!?」」」
周囲は愕然とした。そして、同時に妙手だと全員が思った。それは、つまり———
「我が国は渡せません。しかし、魔王を倒せばその領土は譲りましょう。・・・その為に、どうか魔王を討って下さい」
つまり、そういう事だ。魔王を討つのに力を貸して欲しい。その代わりにその後の領土は譲ろう。
要はギブアンドテイクだ。
信長は笑みを浮かべ、愉しげにミアを見た。
「ほう、小娘がわしに交渉を持ち掛けるか」
「はい、それに信長様は私を小娘と侮ってはいないでしょう?」
この時、初めてミアは強気な笑みを浮かべた。どうやら、信長を相手に微塵も臆していないらしい。
今度こそ、信長は盛大に笑った。
「はははははははっ!!!良い、実に良い!!良いだろう。魔王アロウを討つ力を貸そう!!!」
信長は、そう宣言した。
ちょっとした豆知識。信長を裏切った明智光秀だが、むしろ光秀は自身を取り立ててくれた信長に感謝していたらしい。