魔王竜、マーラ
・・・一方で。
その頃、アルトラとアロウは波旬を相手に苦戦を強いられていた。アロウは既に戦闘続行は不可能だろうボロボロの姿だ。アルトラは、まだ戦えるだろうが既に身体中が傷だらけだ。
それに対し、波旬はまだ余裕という感じだ。身体に傷一つ付いていない。どころか、息一つ乱れてすらいないのはある種理不尽だろう。しかし、それ程の差が両者にはあるのだ。
第六天魔王、波旬。彼は云わば世界の特異点だ。バグと言っても良いだろう。
世界に偶然にも生まれた、悪性因子。要するに、世界にとっての癌細胞のような物か。
そもそも、この第六天欲界そのものが第六天魔王波旬と言っても良いだろう。世界そのものが波旬の一部であり細胞なのである。故に、今此処に居る人の形をした波旬はごく一部にすぎない。
第六天魔王波旬。その真の名は魔王マーラ。百八ある煩悩の化身であり、死を司る魔神。人間という種が生来持つ悪性を濃縮し、濾過した。生まれ付いて悪と定められた存在。真の魔王。
云わば、人が悪と定める概念そのものだ。生まれ付いての悪と言っても良い。
・・・波旬が嗤う。瞬間、その姿が形を変えてゆく。否、世界を吸収して本来の姿に戻ってゆく。
世界が消滅し、只純白の空間が残るだけになった。其処に居たのは、真の姿になった波旬。
否、魔王マーラだ。
その姿は、黒いドラゴンだった。何処までも黒く、そして赤黒い色をした瞳を輝かせた竜。
・・・その威容に、アルトラとアロウは息を呑む。
「さあ、そろそろ終わらせようか・・・。創世神、そして異世界の魔王よ・・・」
「・・・・・・っ」
「くっ」
魔王竜マーラの口内に、黒い炎が渦を巻く。それは、明らかに物質界の炎では無い。異なる法則を持つ異界の炎に相違ない。当たれば、例え霊的存在であろうとも消滅を免れないであろう。
それを前に、覚悟を決めた・・・その瞬間。二人の前に、人影が立った。信長だ。
信長は黒い西洋鎧を着、その上から漆黒のマントを羽織っている。その口元には、笑みが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふむ」
目を見開く二人を前に、信長は片手をその黒炎に向けて掲げた。魔王マーラは静かに嗤う。
瞬間、視界を黒が満たした。物質も魂も、諸共に焼き尽くす正真の神殺しの黒炎。それを前にして信長はそれでも獰猛に笑う。黒炎が効いていないのは明白だ。
信長は、そのまま黒炎を握り潰した。それだけで、猛威を振るっていた黒炎が掻き消えた。それは断じてありえない光景だ。あってはならないだろう。
しかし、そんな信長の姿に魔王マーラはそれでも嗤う。愉しげに嗤う。
「素晴らしいっ!!!この時を待っていたぞ、我が化身。いや、魔王信長よ!!!」
その言葉に、新生した信長は悠然と笑みを浮かべた。それは、真の超越者の笑みだった。




