暴走、信長
信長の中で、何かが切れた。信長の意識が、寸断される。理性が吹き飛ぶ。
「ああああああああああああああっっ!!!!!!」
信長は激情のまま、波旬に鉄砲の銃口を向ける。しかし、波旬はその鉄砲を前に物怖じ一つせずに嘲笑を浮かべて見ている。鉄砲に対し脅威を感じていないのは明白だ。
だが、それでも信長は躊躇せずに引鉄を引く。炸裂。鉄砲の銃口から放たれた球状の弾丸は、狙い違わずに波旬の左胸に直撃した。筈だった。しかし、依然として波旬は笑みを浮かべたままだ。
どころか、そもそも波旬の身体に傷一つ付いていない。かすり傷一つとしてだ・・・
波旬にダメージは欠片も無い。しかし、それでも信長は波旬に鉄砲を撃つ。まるで、その表情は理性を失くした修羅のよう。そんな信長の様子に、アルトラとアロウは呆然と見ていた。
しかし、それでも波旬は嘲笑を浮かべ、黙って見ている。その姿に、アルトラは何かを察した。
・・・そう、波旬が信長に何かしら干渉をしたのだと。
「波旬、信長に何をしました?」
「ふはっ、少し精神に負荷を掛けて暴走させてやったまでよ」
何でも無いという風に、波旬はそう答えた。そう、今の信長は云わば暴走状態だ。
自らの化身たる信長の精神に干渉し、負荷を掛ける事で理性を壊して暴走させた。つまり、今の信長はそういう状態にあるという事だ。まさしく暴走状態だ。
暴走しているが故に、理性など欠片も存在しない。理性なき故、信長に声など届かない・・・
信長は、鉄砲を捨て刀を抜いた。そして、そのまま斬り掛かる。しかし、それに対しやはり波旬は嗤うばかりで何もしない。只、其処に立っているだけだ。
波旬の肩に、信長の刀が食い込む。しかし、それだけだ。刀は波旬の皮膚一つ斬れない。
そう、信長の刀は、波旬の薄皮一枚切る事が出来ない。
信長は、影から眷属である魔物の群れを召喚した。魔物の群れが、波旬に殺到する。それでも、波旬は身動き一つ取らずに立ち尽くしている。余裕の現れだ。
魔物の群れは、一体だけでも山を崩す程の質を誇るだろう。そんな魔物が何十、何百と波旬に殺到し食らい付き襲い掛かる。しかし・・・
事実、魔物の群れは波旬に触れた瞬間に自壊して消滅した。波旬はまだ嗤っている。
波旬にダメージは、欠片も無い。ありはしない・・・
「どうした?そんな物か・・・では、今度は此方の番だ」
そう言い、波旬の人差し指が信長の額を突いた。それだけだ。それだけで、信長は吹き飛んだ。
・・・遥か彼方。五つの山を貫通して。




