他化自在天にて対峙す
・・・其処は、まさしく天上楽土といった様相の場所だった。人間が創造しうる天上の楽園と呼ばれるに相応しい理想郷が其処にあった。しかし、それ故に信長は理解した。理解してしまった。
嗚呼、なるほど?此処には欲望という欲望が渦巻いていると。欲に満ちているからこそ、此処は楽園のカタチを成しているのだろう。だからこそ、欲界なのだ。
人の欲を集め、人の欲を満たし、人の欲を刺激する。そして、更に人の欲を増長させる・・・
本当に欲望を脱したなら、極論地獄であろうとも何とも感じない筈だ。痛みも苦しみも、もはやそれは意味を成さない筈だ。しかし、此処には欲望がある。それ故、此処は楽園の姿を取った。
此処はまさしく、人の欲望を具現化した世界なのだろう。そう、信長は感じた。故に、思う・・・
ツマラナイ世界だと・・・
「ふんっ、存外つまらん場所だな・・・」
「ふっ、そうであろう?此処はそういう場所だ。故に、わしは外の世界を求めた」
唾棄するような信長の言葉に、同調する声があった・・・
其処に居たのは、信長にそっくりの。否、同一の姿をした何かだった。その姿に、魔王アロウは愕然とその目を見開いた。しかし、当の信長本人とアルトラはさして驚いてはいない。
・・・この程度、驚くに値しない。何故なら、信長はこの波旬の化身なのだ。故に、波旬が信長に似ているのではなく、信長が波旬に似ていると判断するのが適切だろう。
そう、此処に居るのは第六天魔王波旬だ。第六天、欲界他化自在天を統べる天魔なのだ。
欲界に住まう全ての魔を統べる、第六天の魔王だ。
「第六天魔王・・・波旬・・・・・・」
「そうだ、わしが波旬だ・・・・・・」
アロウの言葉に、波旬は無感情に頷いた。其処に感情は一切無い。其処にあるのは、欲望を極めたが故の果ての無い飢餓感と虚無感のみだ。アロウはその瞳の中の闇の深さにぞっとする。
しかし、次の瞬間その闇はなりを潜め、至極愉快そうな笑みを浮かべた。その獰猛な笑みに、信長達はそれぞれ身構えた。しかし、それを波旬は片手で制して言った。
「まあ待て、我が化身よ。一つ提案がある・・・」
「提案だと・・・?」
波旬はアルトラやアロウには目もくれず、信長に話し掛けた。今、波旬は信長以外眼中にも無い。
その事に、アルトラとアロウは不快げに眉をしかめる。しかし、やはりそんな二名に興味も無いのか全く目もくれず信長に視線をやる。何処までも傲岸不遜に、だ。
訝しげに眉をひそめる信長に、波旬は頷いた。そして、波旬はその提案を口にする。
「我が化身、織田信長よ。わしと手を組まぬか?」
その言葉に、信長の中で何かが切れたような感覚がした・・・




