光秀、その本音
戦場に血が舞った。それは、信長の血だった・・・
戦場が静まり返った。戦っていた魔物達ですら、その手を止めて呆然と硬直した。
光秀が愕然と目を見開く。光秀の太刀は、信長の胸を深く貫いている。致命傷なのは明らかだ。しかしそれでも信長は嗤う。否、穏やかに笑みを浮かべる。
それは、まるで自分を此処まで追い詰めた光秀を認めるかのような笑みだった。その笑みに、初めて光秀は激しく動揺した。こんな笑み、かつて一度も向けられた事など無かったからだ。
しかし、その一瞬の動揺が仇となった。信長の腕が、胸に突き立つ刃を握り締める。握り締めた掌から血が噴き出すがそんな事、一向に気にしない。そんな物、気にする必要など無い。
信長は、一瞬でも動揺を見せた光秀を叱咤した。
「馬鹿者が・・・。この信長を前にして、動揺を見せるでないわ・・・・・・」
「っ、しま・・・・・・!!!」
しかし、もう遅い。引けども押せども太刀はびくともしない。ならばと、腰に差した小太刀を抜こうとその手を伸ばす。しかし、それももはや判断が遅すぎる。
一瞬、光秀の意識に火花が散り途切れた。信長の頭突きが、光秀の頭部に炸裂したのだ。
「っ、かはっ!!!」
「馬鹿者っ‼一度はわしを追い詰めた者が、容易く隙を見せるでないわっ!!!」
意識が途切れ、太刀を握る力が緩んだその刹那、信長は光秀の顔面を殴り飛ばす。そして、自らの胸に突き立つ太刀を引き抜き、光秀を切り伏せた。
どうっと倒れる光秀。それを、信長は無情に見下ろす。
「無念・・・・・・」
心底からの無念を語る光秀。それを、信長はじっと見ている。
いや、光秀を見詰めるその目は何処か、遠い昔を想い馳せるような色を帯びていた。
「・・・・・・何か、言い残す事はあるか?」
「・・・・・・・・・・・・無念だ。心底から無念だ」
「・・・・・・・・・・・・」
無念だと呟く光秀の瞳は、後悔と憎悪の間で揺れ動いている。そう信長は感じた・・・
「魔王信長・・・。俺は、貴様が憎かった。殺したいほど、憎悪していた。しかし・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
しかし。そう呟いた一瞬、光秀のその瞳に遠い過去を馳せるような色が浮かんだ。それは、まるで何かを深く後悔するような。それでいて、何処か悲哀の色が浮かんでいた。
「・・・・・・しかし、本当は誰よりも信長に認められたかった。織田信長という人間に認めて欲しいと切望していたのだ。只、それだけだった筈なのに・・・・・・」
「・・・・・・ふむ」
「俺という路傍の石を拾ってくれた。俺を取り立ててくれた。そんな信長に、認められたかった。本当はそれだけの筈だったのに・・・・・・」
本当は、只それだけの筈だったのだ。それだけの筈だったのに。何時の間にか、それが憎悪へと変わり気付けば復讐心へと取って代わった。本当は、純粋に認められたかっただけなのに。
最初は、自分を拾い取り立ててくれた大恩に報いたかった。それだけだった筈なのだ。それが、気付けば認められたいが為に暴走し、復讐心に取って代わったのだ。
その悔恨と行き場のない自分自身への憎悪に揺れ動く・・・・・・そんな光秀を見て、信長は。
「全く、馬鹿者め・・・・・・」
「ああ、本当に・・・俺という奴は」
「違う。そうではない」
「・・・・・・?」
怪訝な顔をする光秀に、信長はその顔に苦笑を浮かべて言った。
「わしは、そもそも最初から貴様を認めておったわ」




