魔王の帰還
ステラ王国、王城でミア王女は独りバルコニーで想いに耽っていた。考えている事は、信長の事だ。
「信長様・・・」
第六天魔王、織田信長・・・
果たして、自分はあの魔王をどう思っていたのだろうか?不愉快に思っていたか?それとも存外心地良く感じていたのだろうか?解らない。それは、自分でも理解出来ない。けど・・・
只、一つだけはっきりしている事と言えば、あの魔王の事を考えると不思議と胸が痛むのだ。その痛みが一体何処から来るのか、それは理解出来ない。しかし、でも・・・
ミア王女は考える。きっと、自分は信長の事をそれほど嫌ってはいなかったのだろう。
でなければ、きっと此処まで胸が痛む思いをしないで済んだ筈だから。ミア王女は、自身の痛む胸元を辛そうな表情で押さえる。きっと、ミア王女自身信長の傍を心地良く思っていた筈だから。
だからこそ、きっとこうまで苦しい思いをするのだろう。そう、思った。
ぎゅうっと、胸元を押さえる手に力を籠める。強く強く、力を籠める。痛い。胸が、痛むのだ。
ミア王女の事を、父である国王も家臣達も心配している。きっと、病の為に遠くの地で療養している母も今のミアを見ると心配するだろう。それ程までに、今のミアは・・・
「信長・・・様・・・・・・」
そっと、呟いた。その声が、風に乗って掻き消える。虚しく消えてゆく。頬に、一筋の涙が伝う。
もう、疑いようがない。ミア王女は、信長の事を好いていたのだ。きっと、愛していたのだろう。
だからこそ、此処まで苦しい思いをするのだろう。はらはらと、ミア王女は涙を零す。
と、その時———
「ふむ、何とも情けない顔をしているな?」
「っ!!?」
突如聞こえた声に、ミア王女は勢いよく振り返る。其処には、何時もと変わらぬ魔王信長の顔が。
その顔は、何時もの通り笑っていた。不敵な笑みだった。何時も通りの、何も変わらぬ笑み。
其処まで長く共に居た訳でもないのに、何故かとても懐かしく思えた。胸が痛んだ。
ミア王女は涙ぐむ目を擦り、不格好に笑った。不格好ながら、静かに微笑んだ。
「いきなり女性の部屋に入るなんて、マナー違反ですよ?」
「む?そうか。それは失礼したな」
信長は顔を僅かにしかめて謝った。その不器用な姿に、ミア王女はくすくすと笑う。
そして、ミア王女はとびっきりの笑顔を信長に向けて言った。
「お帰りなさい、信長様」
その笑顔に、信長は優しげに笑みを浮かべて答えた。
「うむ、待たせて済まないな。帰蝶」
二人は、そっと静かに抱き締め合った。夜の王城に、二人の影が重なり合う。
二人を邪魔する者は、誰一人として居なかった。




