暗雲
現在、信長は王都から少し離れた所にある草原に居た。王都東側、マーナリウス草原。なだらかな丘陵地帯にその草原はある。
その中央に一本だけ存在する大樹。その幹に背を預け、信長は立っていた。
広大な緑の大地。雄大な自然の息吹。実に見事な物だ。素直に素晴らしいと感じる。
日の沈む時刻、信長はその景色に見入っていた。
「・・・やはり、何時見てもこのような自然溢れる景色は素晴らしい物だ」
夕日の赤と相まって、草原の緑が映えている。これぞまさしく、自然の調和だ。そう思う。
信長がその景色を見ていると、背後からミア王女の声が聞こえた。
「・・・そんな事を言う為に、私を此処に呼んだのですか?」
「まさか。此処にお前を呼んだのはもっと重要な理由がある」
そう言って、信長はミア王女に笑い掛けた。その笑顔は珍しく、暖かな物だった。
その笑顔に、ミア王女は何故か懐かしい気持ちになった。しかし、その気持ちの出所をミア王女はまだ知らなかった。
「・・・・・・どんな理由ですか?」
「お前の前世の事だ、帰蝶」
「・・・・・・私の前世?帰蝶?」
怪訝な顔をする王女に、信長は頷く。その顔は相変わらず暖かい笑顔を浮かべている。
・・・何故か、懐かしい気持ちが強くなっていく。この気持ちは一体何だろう?
ミア王女は不思議な感覚を味わっていた。
「お前も感じているのだろう?不可思議な懐かしさを・・・」
「それは・・・」
「その感覚は正しい。何故ならお前は・・・・・・」
信長は一瞬の間を開け、ミア王女に告げた。
「お前は我が妻、濃姫の生まれ変わりだからだ」
「っ!!?」
愕然。ミア王女はそんな表情をする。前世の縁を持ち出すなど馬鹿馬鹿しい。しかし、否定出来ない。
何故ならその名を出された瞬間、何故か納得している自分が居たからだ。
濃姫。その名を聞いた瞬間、何故か納得した自分が居た。
その話を詳しく聞きたい。そう思った。しかし・・・。
「へえ?なるほど、お前達はそういう関係かい?」
不意に、話に割り込んでくる者が居た。それは一匹の魔物、否、魔族だった。
「っ、魔族!?」
「ふむ、無粋な真似を・・・っ」
信長は腰に差した刀で即座に魔族の首を刎ねた。しかし・・・。
「むっ?」
「ひゃはっ、一名様ご案内~!!!」
瞬間、空間に黒い穴のような渦が発生し、信長がそれに呑まれる。黒い渦は信長だけではなく、魔族すら呑み込みそのまま閉じた。
「・・・・・・・・・・・・信長様?」
呆然としたミア王女の声だけが草原に虚しく響き渡った。




