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校舎からの脱出

 陽が落ちるのが遅い時期とはいえ、もう夕方。

 闇の織姫を探していた者たちも、校舎の外へと向かっていた。


「ふぅ」

「えっ?」

「ああ?」

「わぁ!」


 玄関の入り口から一歩外に出た瞬間。

 四人は同時に互いの存在を認識した。


 そう、同時に校舎の外へと出たのだ。


「みんないつの間に? ここを出る直前まで離れ離れだったよね?」


 不思議そうに話すはやて君。

 その他の面々も同じように驚いた様子だった。


「だよな。もうわけわかんねぇ! それよりお前ら、何勝手にはぐれてんだよ!」

「ぼ、僕は別に好きではぐれたわけじゃ」


 かい君の怒鳴り声に怯えるつよし君。

 その様子に、のどかちゃんが反論する。


「かい君、その言い方はないんじゃない? 不思議なことが起こって、みんな離れ離れになった。そのことは、かい君も分かってるんでしょ?」

「のどかちゃん……。ああ、わかってるよ! 悪かったって。それで? お前ら闇の織姫には会えたのかよ? なあ、つよし」


 問いかけられたつよし君。

 しかし、つよし君は本当のことが言えなかった。

 なぜなら、闇の織姫に出会ったら、いち早くかい君に知らせろと言われていたからだ。

 願った内容のこともあり、真実を告げるわけにはいかなかった。


「ぼ、僕は……会えなかった。頑張って探したけど、会えなかったんだ」

「そうかよ、使えねぇやつだなお前は。でも、いいぜ! 俺様は会ったからな」

「えっ! 会ったの?」


 驚くつよし君。

 そして心の中で少し怯えた。

 かい君は何を願ったのだろうと。

 もしかしたら、自分に被害の及ぶ内容なのではと。


「でも大したことなさそうだったな。なんか暗い奴だったし。叶えてもらうまでもねぇって思ったから、断ってやったぜ! そしたら勝手に消えやがって」

「願わなかったの? 勿体ない」


 のどかちゃんの言葉に、かい君はぶっきらぼうに言う。


「いいんだよ! 俺様の勝手だろ? そういうのどかちゃんは、どうだったんだ?」

「私? 私は、よく覚えてないの。誰かに会った気もするし、願いを伝えた気もするんだけど、途中で頭が痛くなっちゃって。何だか変な感じだったわ。そうだ、はやて君はどうだった?」


 明らかに態度の変わることなちゃんに、かい君は少しイラつきながらもはやて君の方を見る。

 つよし君も注目した。


 いきなり注目を浴びたはやて君は、少し動揺しつつも答える。


「僕は会ったよ。闇の織姫っていう割には、怖くなかったね」

「お前も会ったのか。それで、何を願ったんだ? あれか? サッカーがどうとか……」

「僕はね、願わなかったんだ」


「ああ?」

「やっぱり願いは自分で叶えないとダメかなって。闇の織姫も僕の考えをすぐに理解してくれたよ」

「言い出しっぺのくせに、変なやつだな」


 確かにこの話をしだしたのははやて君だった。

 その本人が願わないのは少し変なのかもしれない。

 でもはやて君にとってはそれでよかった。


「不思議な子だったなぁ。闇の織姫……」

「何だお前、もしかして闇の織姫に惚れたのか?」

「ええ! そうなの、はやて君?」


「そ、そんなわけないし! 惚れるとか。それに顔も見えなかったし」

「あ~、それは俺もだったな。何か暗くなってた。どっかで見たことあるようなやつだったんだけどなぁ」


 結局、表向きは誰も何も願わなかったということでこの話題は終わった。


「お前らまだ残ってたのか? そろそろ帰れよ~」


 たまたま玄関前を通りかかった先生が四人に言う。


『「はーい」』

「しゃーねぇ。帰るとすっか」


 解散を促すかい君に、はやて君が一つの疑問が待ったをかける。


「そういえばみんな、ことなちゃん見なかった? 入る時は一緒だったんだけど、まだ出てきてないよね?」


 その言葉に、はやて君以外の全員が一瞬顔を青ざめる。


「おいおい、はやて。あいつがこんな所にいるわけないだろ?」

「でも一緒に……」

「はやて君! あんな子は初めからいなかったわ。何かの見間違いよ!」

「あんな子? でも、僕とことなちゃんが話してるところに、かい君達がやってきて……」

「はやて君、ことなちゃんがここにいるわけないんだ。はやて君が一人で何か話してるところに、僕達が来たんだよ。ことなちゃんなんているわけない、絶対に」

「みんな……」


 はやて君は混乱した。

 おかしい。

 校舎に入る時、いやその前から、ことなちゃんはいたはずだ。

 グラウンドから階段を上り、校舎の前でことなちゃんに会って、それから話をして……。

 順を追って考える。

 しかし考えても考えても、ことなちゃんがいたという記憶が否定されることはなかった。


「闇の織姫に会って、頭おかしくなったのか? いいから帰ろうぜ!」


 かい君達の言うことが本当なら、多数決で考えるなら、それが真実なのだろう。

 でも、はやて君は納得しきれなかった。


「はやて君、きっと疲れてるのよ。帰りましょう」

「そう、なのかな?」


 納得できないとはいえ、ここで考え込んでみんなに心配かけるわけにもいかない。

 はやて君はのどかちゃんの提案に従い帰ることにした。


「それじゃ、帰ろっか」


 学校から住宅の方に向かう坂道へ、はやて君は歩き出す。


「じゃあな、はやて! 俺達はちょっと用事があるから」

「うん、かい君、つよし君またね」


 はやて君は手を振り別れの挨拶をした。


「ちょっと、かい君? かい君は歩きでしょ? 何でこっちに」


 何やらつよし君に用事があるらしいかい君。

 つよし君の肩に手を回し、自転車小屋の方へと向かって行く。


「相変わらずねあの二人」

「そうだね。のどかちゃんも自転車通学だよね」

「うん、そうよ。だから私も自転車小屋に行かなきゃ」

「先に坂を下ってるよ」

「うん、あとで追いつくね」


 こうして、みんな帰り始める。


 今日は不思議なことが色々あった。

 急にみんな離れ離れになるし、闇の織姫は本当に存在するようだし。

 それに、ことなちゃんはいなくなる。


「そういえば闇の織姫が言ってたな。闇の願いを叶えようとする者の末路を、見せてあげるって。あれはどういうことなんだろう?」


 そんな独り言をするはやて君。

 その意味を理解する出来事がすぐそこまで迫っていることを、はやて君は知らなかった。


 そう、これは答え合わせ。

 闇の織姫に願うとどうなるのか。

 その先にあるのは願った者が求める世界なのか。


 その真実が明かされる。

 悲しみと復讐と、闇に満ちた真実が。

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