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かい君の願い

「ああ? なんで誰もいないんだよ! おい! どこ行きやがった!」


 急にいなくなったみんなに対し、怒りをぶつけるかい君。

 一階の廊下に誰もいないことを確認すると、二階へと上がる階段に向かう。

 床を踏む強さに怒りが現れている。


 おかしい。

 みんなで校舎内に入ったはずだが、自分以外誰もいないように感じる。

 階段を上り踊り場につく。

 するとそこに、つい先ほどまでいなかったはずの人影が現れた。


「誰だ、お前!」


 威嚇するがごとく怒鳴りつける。


「私を探してたんでしょ?」


 人影は言った。

 そこで、かい君は気が付いた。


「お前が闇の織姫か」


 その問いに人影は答えなかったが、その姿は明らかにそうであった。

 顔の見えない女の子。

 あまりにも不思議な存在だ。


「噂は本当だったんだな」

「あなたの願いは、新しい自転車が欲しい」

「ああ、そうだ。だけどそれは叶うことが決まってるから、お前の出番はないな」


 我先にと噂話に首を突っ込んだかい君だが、大して信じてはいなかった。

 ただ、自分を置いて勝手に面白そうなことをするのが気に食わなかっただけだ。

 自分は既に願いを叶える方法を知っていると。


「それはどういうこと?」

「俺様は欲しいものは力で奪うからな。最近つよしのやつが新しい自転車買いやがったから、あれを俺のものにするんだ。あいつ弱いから断れないしな」


 かい君はとことん横暴だった。

 弱いやつが悪い、俺に従わないやつが悪いと。


「そう。それがあなたの願いの叶え方。でも、どうして自転車が欲しいの?」

「そんなのつよしのやつが新しい自転車なんか買って、調子に乗ってるからに決まってんだろ?」

「本当にそれだけ? もっと別の理由があるんじゃない? さあ、教えて。あなたの本当の闇を」


 するとかい君は頭を抱え苦悶する表情を見せたが、しばらくして心の内を明かし始めた。


「つよしとのどかちゃんはよ、家がここからちょっと遠いんだ。だから自転車通学が許可されてて、よく一緒に登校してくる。まあ二人が時間を合わせてきてるってわけじゃないみたいだけど、家が近いせいか、そういうことが多いんだ」


「羨ましいんだね」

「そうだよ! 何でつよしなんだよ!?」

「でもつよし君は相手にされてないよ?」

「それも知ってるよ。のどかちゃんが好きなのは、はやてなんだろ。ちくしょう! ちくしょう!!」


 かい君は握りこぶしに力を込め、歯を食いしばった。


「そんな君は何を願うの?」

「俺は……つよしが気に入らねぇ! そして、はやてはもっと気に入らねぇ! だからつよしの自転車を奪う! そしてはやての大事な足を轢いて奪ってやる!!」


「はやて君に嫌がらせするなら、はやて君の好きな子をいじめるって手もあるよね?」


 その提案にかい君は少し驚く。


「何だお前、結構いいこと思いつくじゃねえか。でも、残念。ことなの奴なら今朝ちょっとボコっといたんだよね。だから今の標的はつよしとはやて」


 かい君は自慢げに答えた。


「そう、それがあなたの願い」


 それだけ言うと、闇の織姫は姿を消した。


「おい、お前! どこに消えやがった!?」


 かい君は階段の周りを見回したが、それが意味のないことだと悟ると、深呼吸をして一度落ち着いた。


「俺は……俺は闇の織姫の力なんか借りなくても、絶対にやってやるんだからな」


 その強い意志のこもった言葉が踊り場に響く。


「とりあえず校舎内にはあいつらいなさそうだし、一旦出るか」


 こうして、かい君は決意を胸に校舎の外へと向かった。


 果たして、彼の願いを叶えるのは闇の織姫なのか?

 それとも彼自身なのか?



 その答えはすぐそこまで迫っていた。

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