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つよし君の願い

「みんなどこに行ったんだろう?」


 つよし君は気づいた時には校舎の二階にいた。

 みんながどこかへ行ったのか、それとも自分がはぐれて二階にまで来てしまったのかは分からない。

 どちらかといえば後者なのだろうとつよし君は思った。


「どうしようかな」


 正直、闇の織姫なんてものに興味はなかった。

 ただ、かい君に誘われてしまえば断ることは出来ない。

 自分は弱い人間だなと思いながらも、従い続けてきた。


 しかし、今はかい君もいない。

 勝手に帰ってしまえば怒られてしまうだろうが、少なくとも今は何も言われることはない。

 そこに少し安堵する。


 安堵といえば、二階にはつよし君の安らぎの場があった。

 二階の突き当りにある部屋。

 図書室だ。


 つよし君は本が好きで、よくここを訪れていた。

 ここは、かい君が来ることもほとんどないので、つよし君にとっては安全地帯のようなところだ。


「ちょっと寄っていこうかな。でも、今日は休みだし、開いてないかな?」


 戸に手をかけて引いてみる。

 カラガラと音を立てて戸は開いた。


「空いてる、閉め忘れかな?」


 恐る恐る図書室に入るつよし君。

 室内の照明が点いていないせいか薄暗い。

 しかし、本の香りに包まれ少し安心する。


「こんにちは」


 室内を見渡していると、貸し出しのカウンターの方から声がした。

 そこには顔の見えない女の子が立っていた。


「わぁ!」


 思わず後ずさりしてしまう。

 これは何かの幻だろうか?

 確かめるため、つよし君はじっくりとその女の子を見る。


 第七中学校の制服を着ているが、誰かは分からない。

 きっとこれが、みんなが探している闇の織姫なのだろう。

 つよし君は問いかける。


「君が闇の織姫さん? 願いを叶えてくれるって……」

「あなたの願いは、もっと勉強ができるようになりますように。私立の中学に行きたいんだよね?」


 闇の織姫は言った。


「そうだよ。僕は私立の中学に行くんだ! ちょうど校舎が解体されるし、夏休みに編入試験を受けて……僕は、もっと勉強がしたいんだ!」


 それは真面目で勉強が得意なつよし君なら当然な願いだった。

 正直、山奥の中学校では物足りないと。


 しかし、闇の織姫は言う。


「それは本当に君の本心? 私立の中学に行きたいのは、他に理由があるんじゃない?」

「何を言って……」

「ほら、言ってごらん。あなたの願いのその闇を、私が聞いてあげるから」


 そう言われた瞬間、つよし君は催眠術でもかけられたように無表情になり、しばらくして急に怒りを露わにした。


「あいつさえ、かい君さえいなければ、僕は編入なんかしなくても済むんだ! なんでいつも僕をいじめる。あんなに横暴で乱暴で、本当に嫌なやつだ! 今朝だって、あんなことしたくなかったのに強制的に……」

「それが理由なんだね」


「そうだよ! 僕は本当は編入なんかしたくない。この学校は好きだ。でもあいつだけは違う! いつもいつもいつもいつもいつも! あんな奴が世の何かにいるのが悪いんだ。子供だからって許されていい次元じゃない!」

「だったら、どうすればいいかな? 君は何を願う?」


 それはもう、誘導しているようなものだったが、誘導しようがしまいが、きっと答えは変わらなかっただろう。


「あいつなんか……かい君なんか死んでしまえばいいんだ!」

「それが君の願いだよ、つよし君」


 そこでつよし君はハッと我に返る。


「僕はなんてことを言ってるんだ!? そんな……でも……でも……」


 つよし君は自分の本心に気が付き、そしてそれがどうしようもなく真実であることに驚いた。


 そしていつの間にか闇の織姫は姿を消していた。

 図書室の時計は午後四時を指している。


「あれ? もうこんな時間か。帰ろう……帰ろう……」


 つよし君はふらふらとしながらも、図書室を後にし、校舎の外へと向かうのだった。

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